第四十七話 『シャルバ』
ベルタの街は3日間の祭りの最終日、有力な冒険者が街を離れたタイミングで見世物小屋から逃げ出した魔獣や魔物が暴れ出し、そこにゴーレムや小型の魔物まで混じりまるで戦場の様になっていた。
そんな状況下の中、エリアは女王『ミリアス・グリーム・フォル・リンドバイン』とその娘『ファム』を探して街中を走り、今情報を集めるべく冒険者ギルドに立ち寄っていた。
「今の報告で街の南側の大型の魔獣や魔物は殆ど掃討した事になります」
「分りました、私はさっき大きな音のした北に行ってみます。所で、女王様達の情報は有りますか?あと、リリちゃんルルちゃんの居場所も・・・」
「リリさん、ルルさんは分りませんが、女王様は護衛の方達と一緒だと思います。レッサーヒドラを倒した後北に向かったと聞いてます」
「北か、丁度良い」
「あっ、待って下さい!」
一度カウンターの中に入るとメメイがアイテム袋を持ってきた。
「エリアさんこれを」
メメイが取り出したのは、傷薬と毒消し、そして小さなペンダントが入っていた。
「これは?」
「守護の御守りです。エリアさん防具が心許無いので」
確かに普段着にブレストアーマーだけと云う格好は妙で有る。
「普段着だったので、この装備は途中で工房の子が貸してくれたんです」
「本当なら、ちゃんと準備して送り出したいのですが・・・」
本当に申し訳無さそうに頭を下げるメメイ。本来ならちゃんと武装していない者を使いたくは無いのだろうが、冒険者が足りない緊急事態で有る。
「こんな事が起きるなんて誰も想像出来ない、メメイさんが気にする事じゃないよ」
「ありがとう御座います・・・後、この騒動は誰かの陰謀だと思われます」
一層真剣な顔になるメメイ。
「・・・ですね、事前に有力な冒険者を街から遠ざけてるみたいですし」
「恐らく狙いは・・・」
今度は不安が表情を曇らせる。
「女王様でしょうね?」
エリアは半分呆れた様に呟いた。
「はい、あの方は誰よりも強いのですが・・・」
そう、女王様は真龍だ。生半可な事で倒せる筈が無い事はこの国の者なら誰でも知っている事なのだ、なのだが・・・。
「仕掛けて来たという事は、何か女王様を倒せる算段が有るのか、ただの御馬鹿さんか?」
「後者・・・って事は無いと思います。だから女王様を守って下さい」
エリアの手を取って懇願するメメイ。女王様は国民から愛されてるな~とエリアもほっこりと表情が緩む。
「分りました。と言うか元からそのつもりなので任せて下さい!」
「はい、私も首謀者の情報が入ったら直ぐにお知らせします」
エリアはメメイの手を確りと握り返すと、また駆け出すのだった。
街の北を目指して大通りを走るエリア。途中でまた小型の魔物と戦う人達に走りながら魔法を掛けたり攻撃したりして加勢しつつ走り抜ける。
そして、大通りの突き当たり街役所の方から逃げて来る人々と遭遇した。
その中の1人を捕まえて、事情を聞くと見た事の無い魔獣が屋根を破壊し落ちてきたと思ったらそのまま立ち去ったらしい。
急いで屋根が半壊した役所に入り中を確認するとまだ数名が残っていた。
「怪我人は居ますか?」
「君はアフィ様の所の・・・」
「冒険者のエリア・アーハートです」
「怪我人は数人出たが回復魔法が使える者が対処しているからここは大丈夫だ」
「良かった・・・それで魔獣は?」
エリアは魔獣の特徴と、腕に覚えのある数人の役人が後を追ったという情報を聞いて後を追い駆けた。
魔獣の痕跡を辿って走り抜ける。この辺りは貴族の屋敷の多いエリアでその中でも広い庭を囲む柵の一部に魔獣の侵入した形跡を見つけた。
「失礼します」
壊された柵を飛び越えて中に入ったエリアは5人の男女が見た事の無い魔獣を取り囲んで戦っている姿を見つけた。
ファイヤー・ボールやストーン・バレットを放つも全く効果が無い様子を目の当たりにした。
「あれが魔法耐性スキル・・・」
役所で傷付いた役員から聞いたこの魔獣、『シャルバ』の特徴の1つ。
「私、見世物小屋であの魔獣を見ました。名前はシャルバ、とても珍しい魔獣だと・・・」
そして、高い格闘能力と硬い皮膚、高い魔法耐性を持つAランク魔獣だとも。
「聞いて下さい!『シャルバ』の魔法耐性が高く、中級程度では効果が薄いそうです!」
エリアの言葉に魔法を撃っていた役員が落胆する。
「そんな・・・」
魔法を撃つのを止め、距離を取った役員が考える。
「貴方は?貴方は上級の魔法を使えないの?」
懇願する様な表情でエリアを見る魔法使いだったが、その表情が晴れる様な答えをエリアは持ってなかった。
「すみません!私、魔法に上位とか下位とかのランクが有る事をさっき知ったばかりで・・・」
そう、エリアに魔法を教えてくれたルルやアフィは魔法のランクについては何も教えてくれなかったのだ。
それは、ルル達の使う原初魔法では取るに足りない問題でどんな魔法でも込める魔力量と適正で威力が変わるからだ。
ただ近年は定型化された定型魔法、所謂魔法では明確なランク付けが有り、ファイヤー・バレットやストーン・バレットなどは初級の攻撃魔法でファイヤー・ストームやストーン・ジャベリン等が中級、インフェルノや固有攻撃魔法等が有るらしいが、これはエリアが冒険者仲間から聞いた情報でしかない。
実際にどのくらいの威力の攻撃魔法が上級なのかエリアは知らないのだ。
「仕方無い、2人でやるわよ」
年上に見える女性がもう1人を見て頷く。年下の女性も覚悟を決めて杖を構えた。
そうすると前衛の3人も頷いて、シャルバの意識を魔法使いに向かない様に戦い始めた。
「加勢します!」
エリアも双剣を抜いてシャルバに襲い掛かる。死角から滑り込む様に足元に近付き膝裏を斬ったが、エリアの攻撃は軽く弾かれてしまったのだ。
シャルバは頭と尻尾がトカゲ、体が筋肉質で細身のゴリラと行った姿の魔獣だがその体、毛皮の部分で弾かれたのだ。
「うそ!?」
仰け反るエリアの体を薙ぎ払うシャルバの尻尾をバク転で躱して距離を取る。フォローする様に他の3人がシャルバに攻撃を掛けるがやはり硬い鱗や体毛に阻まれダメージは入ってない様だ。
「なら!」
エリアは双剣に魔力を纏わせ切れ味を上げた。
最近覚えた魔法『エンチャントウェポン』だったがこの攻撃も弾かれる。
(これが魔法耐性の効果!?)
魔法での攻撃では効果は薄く『エンチャントウェポン』も意味を成してない。これは魔法で作った炎や岩でも同じだった。
(なら!)
エリアは地面に手を当て魔力を流した。
「これならどう!ストーン・バレット!」
これまでの攻撃でストーン・バレット等の下位魔法は効果が無い事は分っているのに何故?との周りの男達の考えは覆された。
エリアの作り出した岩の弾丸はシャルバに当たってから砕けたのだ。魔法で作った岩なら当たる前に霧散している所だ。
「やっぱり!魔法で作った物でなければ良いのね」
そう、エリアは岩を魔法で作るのではなく、実際に地面の下にある岩を撃ち出したのだ。
岩が無ければ使えないが、これなら魔法耐性も関係なかった。ただシャルバの硬い体毛に阻まれてダメージは入っていないのだが、顔に当てて嫌がらせ程度にはなっていた。
そんな中、2人の魔法が完成した。
「みんな!」
合図を聞いて一斉にシャルバから距離を取る男達。
エリアも置き土産と土の杭で檻を作って一瞬だけシャルバを拘束して動きを止めた。その瞬間、2人の魔法使いは準備していた高位魔法を発動させた。
「「インフェルノッ!」」
範囲を絞った2人掛りの高位魔法。高温の炎の渦がシャルバを飲み込む。
「やったか?」
(それフラグ!?)
エリアが心の中で突っ込んだ。そしてそれは現実になった。土の杭を薙ぎ払うと炎の柱から抜け出したのだ。ただ、無傷ではなく所々火傷を負っている。高位の魔法が有効なのは実証されたが致命傷には至っていない。
「そんな・・・」
グァァァーーーッ!
怒りの咆哮を上げ飛び出したシャルバは着地すると一足飛びに魔法使い2人に迫る。
振り下ろされた拳が恐怖で動けない2人に襲い掛かる瞬間、エリアの魔法で盛り上げられ作られた壁が2人を守るがシャルバの剛拳はその壁を吹き飛ばし、その衝撃で魔法使いの2人も吹き飛ばされ意識を失ってしまった。
だがシャルバは自分に傷を負わせた2人を驚異に感じたのか、倒れている2人に追い討ちを掛ける。
「不味い!」
戦士達が2人の元に走るが到底間に合わない。エリアも同じで魔法も間に合わない。
「くそっ!」
エリアが悪態を付いた時、何処からか雄叫びが聞こえた。
「うおりゃーーーーーー!」
急速に近付く雄叫びと共に飛んできた紅い何かがシャルバを蹴り飛ばした。
吹き飛ばされ、地面を転がるシャルバ。
そのシャルバが先程まで居た場所にもうもうと立ち上がる土煙の中、紅い毛に覆われた2足歩行の虎が立ち上がる。
「ギリギリ間に合った様だな」
人の言葉を話す紅い虎男は足元に倒れている2人がまだ生きている事を確認して安堵の笑みを浮かべる。
「そこの男共、さっさと負傷者を連れて逃げろ」
虎男は他の男達を一瞥して、立ち上がったシャルバに向かって行った。
エリアは倒れてる2人に近付いて無事を確認すると、新たな脅威に狼狽している男達に激を飛ばす。
「早く!直ぐに2人を連れて逃げて下さい」
エリアの言葉に男達の足が動き出す。
「可能な限り足止めします!誰か高レベルの冒険者を呼んで下さい」
一番年上の男は自分達の不甲斐無さを悔やんだ。だがそれも仕方が無い事だ。彼等は冒険者でも兵士でもない。多少腕に覚えの有る程度の街の役人なのだ。
もっと下位の魔獣なら問題無かったかも知れないが今回は相手が悪かった。話を聞いたエリア以外誰も知らなかった。この魔獣がAランクの魔獣で有る事を。
「ぐ・・・分った・・・だがあなたも無理だけはしないで下さい」
「足止めだけです無理はしませんよ」
職員の不安を取り除くように優しく笑って退避を急がせた。
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