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第四十六話 『ククとツェリ』

 女王達が向かったらしい街の西側へと走るエリア。途中、小さな魔物や魔獣と冒険者や市民が協力して戦っていた。


 「ウィンドソーサー!」


 飛んでいる小さな魔物の翼を風魔法で切り落とし。


 「ヒール!」

  

 重症を負った市民を治しながら駆け抜ける。


 走るエリアの前にまた、狼の様な魔獣と戦う2人組みの冒険者が居た。


 「あ痛っ!?」


 一人が爪の攻撃を受けて尻餅を着く。


 「クク!?」 


 更に攻撃をしようとする魔獣にもう1人が攻撃をしようとするが間に合わない。


 「嫌っ!」


 ククと呼ばれた少女が顔を背けた瞬間、狼の魔獣はエリアの作り出した大きな石に吹き飛ばされた。


 「大丈夫?」


 目の前に立つ女性を見上げて倒れてた少女が目を丸くして呟いた。


 「エリアさん・・・」


 吹き飛ばされた魔獣が立ち上がり頭を振る。其処に詰め寄ったエリアは思いっきり蹴り上げると、空中で身動きの取れない魔獣目掛け炎の槍を放って止めを刺した。


 「ふぅ・・・」


 息を吐いて振り返ると、そこに2人が寄って来た。


 「ありがとう御座います!エリアさん!!」


 「ありがとうございます!なの!」


 「?」振り返るエリアは2人の顔に見覚えが有った。


 「え~と、ツェリちゃんとククちゃんだったけ?」


 改めてよく見ると、皮の丈夫そうな服とハンマーを持った少女が2人。カエンさんと一緒に露店作りを手伝ってくれた女の子達だ。


 14~15歳くらいの2人には振り回すのが大変そうなハンマーが不釣合いだ。


 「はいなの、鍛冶屋見習いのククなの!」 

 

 「ツェリです!お久しぶりです」


 元気良く自己紹介する2人の後ろにさっきと同じ魔獣が2匹現れた。咄嗟に2人と魔獣の間に入ったがその2匹は横道から飛び出した2人に不意を突かれて叩き潰された。


 「げっ親方!?」


 ツェリがたじろぐ。


 「カエンさん!?」


 飛び出した男の1人はエリアが何時もお世話になっている鍛冶屋のカエン。エリアの双剣を作ってくれたドワーフだ。そして、もう1人は鬼人の男、こちらもその格好から鍛冶師だと思われが見覚えが無い。


 「おう、エリアか偶然だな」


 「はい、って親方避難しないと!?」


 「まぁ、そのつもりだったんだがそいつらが飛び出していったって聞いてな」


 と、鬼人の男に怒られている2人を見る。   

 

 小さな女の子2人にゲンコツがお見舞いされる。まぁ、こんな大変な時に飛び出したのだから仕方が無い。が鬼人のゲンコツは痛そうだ。


 「で、用事は終ったのか?」 


 鬼人の男に言われて2人は、あ!?と弾かれた様に走り出してエリアの前にやって来た。


 「エリアさん!」


 「これ、使って下さいなの!」


 ククが差し出したのは紅と蒼の双剣、そしてツェリは白いブレストアーマーを背中のバックパックから取り出した。


 「これって?」


 真剣な表情の2人に戸惑う。


 「そいつはこの2人が打った装備だ。出来はまだまだだが無いよりはマシだろう」


 双剣と鎧を受け取り2人を見る。


 「さっきエリアさんが店の前を歩いてるのを見ました!」


 「その時、武器を持って無い様に見えたので持ってきたの!」


 硬く握った拳が緊張なのか震えてる。


 「・・・」


 エリアは受け取った双剣を振ってみる。意外にも重量バランスは何時も使ってる双剣に近い。


 少し驚いてカエンを見たら、口元が笑っていた。


 「ありがとう。大事に、とは行かないけど使わせて貰うね」


 「「はい!」」  


 元気良く返事をして、手を取り合って喜ぶ2人に顔が綻ぶ。


 「所で、女王様達が何処に避難したか知らないかな?」 

 

 「いえ・・・」


 喜んだのも束の間、意気消沈する2人。他の2人も首を横に振った。


 「そう、2人ともありがとう」


 2人の頭を優しく撫でると、2人は顔を真っ赤にした。


 「エリアお姉様、気を付けて!」


 「エリアお姉様、無理はしないで下さいなの!」


 顔を真っ赤にしながらも応援してくれる2人が可愛い。


 って、お姉・・・『様』?さっきまで『さん』だったのに。エリアは考えるのをやめて後ろに向き直る。


 「カエンさん、と・・・」


 「鍛冶屋のギーブだ。こいつ等の保護者だ。2人を助けてくれてありがとう」


 「いえ、当然の事をしただけです。それより何時また魔物が現れるかもしれません、皆も早く避難して下さいね」


 そう良い残してエリアはまた駆け出した。


 

 「ヒール!」


 「アナライズ」


 「ウィンド・カッター!」


 「アナライズ」


 「アース・バインド!」


 「ヒール!」


 「アナライズ」


 「ウォーター・バレット!ウィンド・カッター!」

 

 エリアは走りながらも魔法を使ったり、魔獣に攻撃をして、市民を守ったり戦っている者達の手助けをしながら中央広場を目指したが、以外にも広場に近付くに連れ魔獣の姿は減っていった。


 そして辿り着いた街の中央広場。ここは意外にも魔物や魔獣の姿は全く無く、周囲から逃げて来た人達が集まっていた。その周りを衛兵や自警団が守っている。エリアはその中に見知った顔を発見した。


 「モウラ!」


 「エリア様!?」  


 駆け寄り手を取り合う。


 「無事で良かった、女王様と王女様は?」


 「すみません。私は御側を離れていたもので、今はここに集まった市民を皆さんと守ってます」


 「これって結界?守るって、大丈夫?」


 「はい、これでも魔法は得意なんですよ」


 何人かの魔法使いで作っている結界みたいだが、この大きさの結界を長時間張り続けるのは大変だろう。


 「そう、無理はしないでね」


 可愛くガッツポーズをするモウラを見て優しく微笑む。


 「はい!所でエリア様はこれからどうするのですか?」


 「女王達を探そうと思う。アフィやララさん達も心配だけど、これだけの事を起こして狙う相手と言ったら女王様だと思うし」


 「私もそう思います。あの、所でキラファさんや子供達は大丈夫なのでしょうか?」


 不安げなモウラの表情が返って嬉しくなる。出合って大した時間も交流も無い筈なのに。


 「大丈夫!」


 自然とエリアはモウラの頭を撫でていた。


 「キラファ達はちゃんと避難してるから大丈夫だよ」


 ほっとすると同時に頭を撫でられてる事が恥ずかしくなってくる。


 「あ、あのエリア様・・・」


 顔を真っ赤にして抗議しようとしたが、急に顔が見れなくなる。


 「ん!?」


 そんなモウラの気も知らないでエリアは頭を撫でていたが、遠くで響く衝撃音がして、其方に目を凝らす。


 見えはしないが、何かが居るのは間違いない。


 「モウラ、私行くね!」


 「あ・・・」


 撫でられた手が離れた事に微かな名残惜しさを感じつつモウラはエリアを見送るのだった。


 「あの人、私の方が年上って分ってるのでしょか?」


 と、呟きながら。



 

 中央広場から北へ。途中に有る冒険者ギルドは蜂の巣を突いた様な慌しさかと思ったが、残ってた冒険者は出払っていて、代わりに逃げ込んだ市民で犇き合っていた。


 「メメイさん!」


 「え!?エリアさん!」


 受付嬢のメメイ・ベルフィノーラはエリアを見付けて赤い髪を揺らして手を振っている。その表情は少し明るくなった様に見えた。


 疲れが見えるがそれでもいつもの様な笑顔を見せてくれる。疲労の原因は訊ねるまでも無い、ここに逃げ込んだ市民への対応の所為だろう。


 他の受付嬢や役員も忙しく動き回っている。


 「良く御無事で、流石です」


 「いえ、色々な人に助けられて来ましたよ。取り合えず、東門側でストーンゴーレム、その少し中央寄りで狼の魔獣が倒されてました。工房通りのロック・バードはエルフとドワーフの大使が仕切って倒してくれてる筈です」


 「ストーンゴーレムはエリアさんが倒したんですか?」


 ロック・バードは都市災害級だ。ストーンゴーレムも普通ならエリア1人で倒せる筈の無いモンスターである。


 「いえ、恥ずかしながら私の倒したのは狼の魔獣数匹くらいですよ」


 自分の不甲斐無さを恥じて頭を掻く。


 「今、この街には見世物小屋から逃げ出した魔獣と何処からか現れた魔獣やゴーレムで溢れてます」


 黙って頷くエリア。


 「更にゴブリンや魔狼、ジャイアントラット等も現れて街はパニック状態で、衛兵や冒険者が対処してくれてます」


 「そんなに・・・あ、でもラットやゴブリンは戦える街の人達や祭りに来た外の人が協力して対処してるみたいだよ」


 と、2人が話していると入り口の方が騒がしくなった。


 双剣に手を掛け身構えると、ハーピィの男が人混みを掻き分け駆け込んできた。


 「伝令!西門で暴れてたタイガーベアは領主様達により拘束されました!」


 聞けば領主様と衛兵、そして見世物小屋の飼育員の協力の下取り押さえられたらしい。


 取り合えず1つ片付いたと胸を撫で下ろしたメメイは水を1杯差し出すと、その事を街役所にも伝える様に指示を出す。了解とハーピィが飛び出すと入れ替わりに今度は大きな鳥が飛び込んで来た。大きな鳥は人型に姿を変えつつ着地する。


 「伝令!南通りのデスワームは近くに居た祭りの客と住民により討伐!途中でミノタウロスが討伐されたと言う情報も聞きました!」


 「分りました、すみませんがそのまま街役場にも報告して貰えますか?」


 「勿論です!」 


 男は差し出された水を一気に飲み干すと走り出し、腕を翼に変化させそのまま飛んで行った。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

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