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第四十五話 『ベルタ防衛戦』

 祭りも3日目、突如現れ暴れ出したストーンゴーレムを倒した事で一先ず危機は去ったと胸を戸撫で下ろす市民だったが、エリアはそれ所では無かった。


 「エリアお姉ちゃん?」

 

 難しい顔で黙っているエリアを気遣うキラファ。


 「うん、大丈夫・・・」


 どうにか笑顔を見せたが、気は漫ろだ。


 街中でのこの騒動は多分女王を狙った物だろう。ただ、女王の周りには近衛騎士が居るし、女王自身誰よりも強い龍種なのだ。


 しかし、仕掛けて来た以上何か勝てる算段が有るのだろうと不安になる。


 「キラファ」


 「何?」


 キラファは肩を抱かれて真剣に見詰めるエリアにドキリとする。


 「私が行って何が出来る訳でもないけど・・・」


 其処まで言ったエリアの言葉をキラファが遮った。


 「分った、行って!」


 「キラファ・・・」


 「私達は大丈夫。衛兵の皆さんも居るしちゃんと安全な場所に避難するから」


 子供達も皆頷いた。


 「女王様とファムちゃんを助けに行って!」


 「頑張ってエリアお姉ちゃん!」


 子供達に励まされ、エリアは胸が熱くなるのを感じながら頷いた。


 「ありがとう。皆も気を付けてね」


 エイナ達の頭を撫でて見回す。


 「キラファお姉ちゃんが居るから大丈夫!」


 「皆は俺が守るって!」と、ガッツポーズをするトゥクに目を細めた。


 ズン!


 そんな子供達の後ろで大きな足音がすると、頭の上から声がした。


 「この子達はワシに任せなさい。必ず守ると約束しよう」  


 「ダートンさん・・・よろしくお願いします」


 深々と頭を下げるとエリアは駆け出した。


 

 逃げ惑う人々を掻い潜り、中央通りを走る。すると上空を飛んでいたハーピィが急降下して、エリアの高さまで下りてきた。


 エリアの速さに合わせて飛ぶハーピィ。


 「エリアさん!?」


 それは以前会ったハーピィのティセだった。


 「ティセ!?」


 「エリアさん、街の中に居たんですね」


 「ええ、其れよりティセ、女王様達の事知らない?」


 「女王様達一行は無事です。近衛兵を使って事態に当たってくれてますが、魔物の数が多い上に街中に広がっていて・・・」


 「街中に?」


 そんなに多くの魔獣が放たれているのかと、血の気が引く重いをする。


 「はい、逃げた魔獣は10頭なのですが、他にも暴れているみたいなんです」


 「冒険者達は?」


 「この間から忙しいみたいで、名の有る上位冒険者は殆どが外です。街の騎士や衛兵、女王様の近衛騎士だけでは人手が足りないんです!」


 状況を確認するティセ達の上をサッと巨大な影が通り抜けた!


 グウェーーーーーー!

 

 見上げれば全長が30mは有ろうかという巨大な鳥が飛んで行く。


 「あれは!?」


 「あれはロック・バードです!災害級の魔獣ですよ!」


 興奮して説明するティセ。その上空のロック・バードに小さな群れが纏わり付いている。


 「いいか!兎に角こいつを叩き落すんだ!」


 「おおーーー!」


 ワイバーンに乗ったリザードマンが号令を掛け、周りのリザードマンやハーピィ、有翼の魔人達が雄叫びを上げる。


 そして、ロック・バードに魔法での攻撃が始まった。


 名前の通り皮膚が石で覆われているロック・バードに通常の武器は意味が無い。ハンマーの様な武器なら兎も角、通常の刃物では傷一つ付かないのだ。


 「全く、こんなのばっかり!」


 思わずエリアも悪態の1つも出て来る。


 他の者も、風の魔法を中心に攻撃を開始されているのだが効果は今一つだ。


 だが、一方的に攻撃されイラついたのだろう、突然ロック・バードは急上昇すると反転して、急降下を掛けながら岩の槍を体の周囲に生成し、リザードマン達に撃ち込んだ。


 岩の矢の雨を受けて体勢崩れるリザードマン達の中を高速でロック・バードが通り抜けた。


 岩の翼に当たったり、風圧で落ちていくワイバーンやハーピィ達。


 仲間の惨劇にティセが声を上げる。


 思わず立ち止まり状況を見ていたエリア達。


 どう落そうかと考えていた時、後ろから声がした。


 「アレではダメだのう」


 「ああ、ロック・バードの倒し方を分ってませんね」


 振り向くとそこには不甲斐無い若者達に呆れているドゥワス大公とエルフの使者エメロエが上空を眺めていた。


 「ドゥワス様、エメロエ様!?」


 ドワーフとエルフの大使が揃って、不甲斐無いと嘆いている。ドゥワスは串肉とエール、エメロエもエールと冷やしや果物を串に刺した物を持っていた。


 「エリア殿は何か急ぎの御様子、ここは我々に任せて御行きなさい」


 「しかし!?」


 友好国の使者殿に戦わせる等国際問題になるのではと戸惑う。


 「昨日のカレーのお返しじゃ。なぁに、あれくらいどうという事は無いわい」


 ドゥワスは串を急いで平らげ、エールを一気に煽ると側に居た従者に渡して、軽く腕を回す。


 「そう言う事です。まぁ、そこのハーピィのお嬢さんは借りますが」 


 私?と驚くティセ。


 「急いでるんだろう?さっさと行きな!」


 「大丈夫、我々に任せて下さい」


 自信満々の笑顔で送り出す2人に「ありがとうございます!」と頭を下げて駆け出した。


 「さて、ハーピィのお嬢さん」


 エメロエはジョッキと串を従者に預けるとティセに向き直る。


 「ティセです。使者様」


 「では、ティセさん。すみませんが私をロック・バードの所まで運んで貰えませんか?」


 「はい?」


 とんでもないお願いに思わず聞き返すティセだったが、近くに居た別のハーピィと力を合わせてロープを掴むとエメロエと空へと舞い上がった。


 「エメロエ様、大丈夫ですか?」  

 

 「ええ、問題は無いですよ」


 「それで、あの、これからどうします?」


 「ロック・バードに突撃して下さい」


 「「え!?」」


 「これを奴にぶつけたいので擦れ違い様にやつの上を通って頂ければ大丈夫ですよ」


 ロック・バードに突撃と言われて驚いたティセだったが、もう1人のハーピィと顔を見合わせて頷いた。


 「分りました、行きます!」


 2人はエメロエを掴んだまま更に上昇すると、ロック・バード目掛けて急降下を仕掛ける。


 ロック・バードの死角、後方上空から急降下をして追い越す形で擦れ違ったその瞬間にエメロエは持っていた粒をロック・バードに投げ付けた。


 「芽吹き、育ちて彼の者を絡み縛めよ!ローズバインド!」


 精霊魔法の1つ植物魔法。他の魔法同様無から植物を召喚する事も出来るこの魔法は、種を使えば簡単に魔力を抑えて使う事が出来る。しかも、無から作った物より威力も高い。


 エメロエが巻いたバラの種は急速に成長してロック・バードを絡め取りその動きを封じた。


 動きを封じられ落下するロック・バード。?いてバラの拘束を解こうとするが間に合わず、広い大通りに大きな砂埃を巻き上げながら墜落した。


 その、落下先にはドゥワスが腕組をして待っていた。


 「流石じゃ!」


 エメロエに素直な賛辞を送る。


 「でわ行きます!」


 既に魔力を練り上げてたエメロエの従者ナナが色々な所を揺らしながら呪文を完成さた魔法はバンブーバインド。


 ワンドに付いた魔石が輝き、今度は地面から竹が生えてロック・バードを地面に拘束した。


 「小娘もやりおるわい」


 素直に賛辞を送り自身も詠唱を開始して、その完成と同時に大きく両手を上げると地面を叩き付けた。


 「魔石牢!」


 ガチガチと地面から湧き出したブロックが積み上がりドーム状の牢獄が出来上がる。ただ、この魔法はドゥワスのアレンジ魔法で、その形は正に反射炉である。


 ローズバインド、バンブーバインド、魔石牢で完全に動きを止められたロック・バード。そのロック・バードの囚われた炉の上に下りてきたエメロエが着火の為の魔法を唱えた。


 「フレイム」


 更にナナが風の魔法で空気を大量に送り込んで火力を上げ、ロック・バードは焼かれて行くのだった。


 炉の中で焼かれながらもまだ動いているロック・バード。石の皮膚を真っ赤にしながらも生きている姿に周りで見ていた市民は驚愕を覚えたが、ドゥワス達は余裕で暴れる様子を見ていた。


 「そろそろかの?」


 僅か数分、ドゥワスは中の様子から手を上げて合図する。


 「でわ、ナナ行きますよ」


 ナナとエメロエが呪文を唱え、完成すると同時にドゥワスが魔石牢の呪文を解いた。


 まだ辛うじて生きているロック・バードの拘束を解いた事で見ていた市民が恐怖したがその恐怖は直ぐに困惑に変わった。


 「「ウォーターハンマー!」」


 崩れた魔石牢の中からから姿を現したロックバードに2人の水魔法が襲い掛かる。赤く焼かれた石の皮膚に大量の水を浴びて回りは大量の水蒸気で何も見えなくなったその先で、ビキッ!バキッ!と何かが割れる音がする。


 「行くぞ!」


 ドゥワスと従者2人は手にハンマーを手に、焼ける様な熱い蒸気など一切構わずドゥワス達は魔法で作った金属のハンマーを持って突入した。


 「ここじゃーっ!」


 勢い良く振り上げたハンマーを渾身の力を込めて振り下ろす。


 ガイーーーン!


 硬い岩を殴り付けた音とその直後の瓦解する音がこの戦いの幕を下ろした。


 水蒸気が晴れた其処には満足気なドゥワスが満面の笑みで「ガハッハッ!」と笑いながらサムスアップしていた。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

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