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第四十三話 『祭り散策』

ベルタのお祭りも遂に3日目。

楽しく祭りを楽しむエリア達の平穏な日々も・・・。


 翌朝、お祭りも3日目最終日を向かえた。


 エリア達のお店は昨日で終了。今日は皆でお祭りを楽しむ事になっている。


 が、エリアは朝から戦争状態だ。


 「これ!これにしましょ~♪」


 ララが手にしてるのは、ピンクのフリフリが沢山付いたドレスだ。

 

 「い~や!エリアにはこっちが似合うよ!」


 ルルが持つのは綺麗な刺繍が全身に入った色鮮やかな何処かの民族衣装だそうだ。ただし、前と後ろしかカバーしてない。サイドは丸見えである。


 「これが良い・・・」


 リリは色目は質素だが、超ミニのワンピースを持っている。

   

 3人3様の服を持ってエリアににじり寄る。美少女3人に迫られてると言えば聞こえは良いが・・・。


 「待って、待って、目が怖い!目が怖いー!」


 エリアの服のコーディネイト合戦で朝からドッと疲れた。


 結局、自室に逃げ込んだエリアは動き易い普段の服を着て出てきて3人をがっかりさせた。


 

 アーハート家の5人は馬車で街の入り口まで来ると、何時も以上に混雑している人混みの中に見知った顔が街を出て行こうとしているのを見付けた。


 何事か門番と話した男はエリア達が声を掛ける間も無く街を出て行ってしまった。


 「あれ、隣の見世物小屋の団長さんだったよね?」


 「そうね、あんなに慌てて何か有ったのかな?」


 ルルに答えたエリアも不思議に思ったが、思った以上に時間が掛かり待ち合わせの時間に余裕が無かったのでそのまま馬車を進めた。


 馬車を預けて、アフィ達と別れると一人急いで中央の広場に向かう。其処ではキラファと子供達が大きく手を振ってた。


 「ごめん、待った?」


 「ううん、今来た所だよ」


 まるで、テンプレのデートの待ち合わせの様だ。しかし、我慢の利かない子供達を見れば一目瞭然である。


 「子供達がエリアに早く会いたいって聞かなくて」


 エリアに群がる子供達を見ながら「そうなんだ、じゃあ、早速行こうか」と、エリアは手を取っていた一番小さな2人と手を繋いで歩き出した。      


 皆で歩きながらも、もじもじとするキラファ。


 実は今日の為に古い私服を自分で可愛く手直ししてきたのだ。しかし、当のエリアはその事には触れず、子供達と楽しそうに話してる。キラファは自分から服の話をする事も出来ず、気が付いて貰えないもどかしさに気も漫ろだった。


 「ねぇお姉ちゃん、あれは何?」


 トゥクの指差す方向に視線を向けると其処から甘い匂いが漂っていた。


 「あれは、トゥーアっていうお菓子だよ」


 「お菓子?」


 一番小さな娘が目を輝かせてエリアを見上げる。


 「はい、皆で買っておいで」


 最年長のエイナにお金を渡すと子供達は連れ立ってお店に直行した。其れを見送るエリアとキラファの目が合った。 


 何か何時もと違うキラファ。少し恥ずかしそうというか・・・。


 「キラファ、今日は何時もの服と違うんだね」


 「え!?」


 キラファの今日の服はいつもの濃紺と黄色の修道服ではなく、白に青いリボンの付いたワンピースだ。小さなツインテールにもリボンが付いている。小さなポシェットは淡いピンクで良いアクセントになっている。


 「普段のシスターの服も似合ってるけど今日は特に可愛いね」

 

 バフッ!


 突然の言葉にまるで爆発する様な勢いで真っ赤になる。


 「な、ななな・・・」


 焦りと照れで思わずエリアの顔に糸を巻き付けた。


 「キラファ~・・・」


 照れ隠しとはいえ、顔を糸でぐるぐる巻きにしてしまったキラファがエリアの状態に悲鳴を上げる。


 「ご、ごめんなさい・・・」


 「ああ、うん大丈夫だから気にしないで」


 エリアは顔の糸を解きながらキラファを宥める。


 (粘着力の有る方の糸だと窒息してたかな?)


 其処に子供達がお菓子を買って戻って来た。


 「キラファお姉ちゃん、何か有ったの?」


 「な、なんでもないよ」


 顔を真っ赤にしながら手を振り否定するが、全く説得力が無い。


 「エリアお姉ちゃん、キラファちゃんを苛めちゃダメだよ」


 何故か女の子達から責められた。顔を隠したまま何も言わないキラファを見て、エリアは肩を落す。


 「苛めてないって~」


 情け無い顔で取り繕うエリアを見て、2人を取り囲む子供達から笑いが起こる。 

 

 美味しいお菓子や珍しい食べ物、綺麗な小物やおもちゃ等を見ながら歩いていく。


 賑あう街のメインストリート。そこから見える2本裏の道を冒険者が数人走っていくのが見えた。 


 「エリアお姉ちゃんどうかしたの?」


 手を繋いでる子が小首を傾げてエリアを見上げる。


 「ううん、なんでもないよ」


 笑顔で返しながらも周りを気にしていたら、凄い人だかりが見えてきた。集まっている人達の声を聞くと原因っは直ぐにわかった。


 「女王様~!」


 「ファム王女様~!」


 あの人垣の向こうには女王とファムが要るのだろう。歓声が凄い。


 「この人混みに巻き込まれたら大変だし、向こうに行こうか?」


 街の西側に向かう人の流れとは反対の東側、鍛冶屋や防具屋の並ぶ職人街へと足を向けた。


 この辺の出店は食べ物よりも道具や貴金属が多い。


 男の子達は子供用の木剣等の武器に、女の子達はアクセサリーに夢中だ。


 「あ!?お姉ちゃん」


 そんな店の中から突然声を掛けられた。


 小物の並ぶ店から出てきたのは、サイクロプスの女の子だ。


 大きなエプロンを付けた女の子は小さく手を振っている。その姿に見覚えが有った。 

 

 「ああ、王都の!?」


 以前王都でエリアにぶつかったドワーフの子供と一緒に居たサイクロプスの女の子。

  

 「久しぶり、ベルタでお店の出してるの?」


 「ここのお店は、お父さんのお友達のお店なの」


 2人の話声を聞いて出て来たのはドワーフの男性だった。


 「なんだエリアじゃないか?」


 「おじさん知ってるの?」


 「ああ、有名人だからな。だが、こんなに子沢山なんて知らんかったぞい」


 わはっはっ!と冗談を言って豪快に笑うドワーフの男。


 だが、冗談とは分らず子供達を見て驚くサイクロプスの女の子が両手で口を塞ぐ仕草をする。


 何の事かと思ったがその勘違いに気が付いた。


 「おじさんの冗談だから!友達だから!」


 叫ぶエリアを見て、トゥクがニヤリとする。


 「かぁちゃん、あれ買ってよ」


 「か、かぁちゃん!?」


 エリアが目を丸くする。


 「ママ~、私あれ欲しい!」


 マイナがトゥクに続く。そして他の子供達もママだお母さんだとエリアを呼んだ。


 「私はママじゃな~い!」


 エリアが両手を上げて反論すると、蜘蛛の子を散らす様に笑いながら逃げて行った。


 「まったく・・・」


 呆れて溜息を付くと横に居たキラファと目が合った。


 モジモジとするキラファが恥ずかしそうに、口に握った手を当てて上目使いで「・・・ママ」と言った。


 ズキュン!


 何かに撃ち抜かれた様によろめくエリアだったが、寸での所で持ち堪える。


 「キ、キラファ~・・・」


 「ごめんなさ~い」


 誤りながらも逃げた子供達を追ったキラファや子供達はクスクスと笑っている。


 「もうっ!?」


 エリアは照れ隠しで足を踏み鳴らした。



 「大人気ですね」

 

 「ゴメンネ、エリアお姉ちゃん♪」


 サイクロプスの女の子ダリアとキラファは疲れた様子のエリアを見て気遣うが他の子供達はエリアを置いて、店に並ぶ小物に夢中だ。


 そこにはガラスで作った小さな動物や花が並んでいたのだ。


 キラキラと日の光りを浴びて輝くガラス細工の魔獣や動物に見入る男の子と花や鳥、魚を見詰める女の子達。どちらもガラスに負けないくらい目を輝かせている。


 「これ、サイクロプスのお姉ちゃんが作ったの?」 


 「ち、違うよ。これはお父さんやおじさんが作ったんだよ。私は店番だけ」


 サイクロプスの女の子ダリアは体は大きいが、孤児院の一番下の子供達と年は変わらない。トゥクやエイナ等は年上なのだが・・・。


 「ダリアちゃんは偉いね、一人で店番が出来るなんて」


 「そ、そんな事ないです~」


 この中で誰よりも大きなダリアが照れて小さくなる。


 エリアは子供達にガラス細工を1つづつ買って、ダリアにお礼を言われながら店を後にした。


 エリア達はわいわいと祭りの賑わいの中、街の東側の門の前までやって来たが、そこで何時もと違う状況に首を傾げた。


 巨大な城壁に囲まれたベルタの東門。本来そこは街を訪れる人々で賑あう場所なのだが今は何故か閉ざされている。


 「なんで閉まってるんだろう?」 


 警備が何時もより厳しくなっている事は知っているが、封鎖するとは聞いていない。


 不思議に思ったエリアはキラファ達にここで待つ様に言って、門の衛兵に話を聞きに言った。


 「おじさん!」


 顔なじみの衛兵のおじさんを見つけて声を掛け、事情を聞こうとしたら、街に居る事を驚かれてしまった。


 「なんじゃ!?エリアは外には行ってなかったのか?」


 何の事かと思ったが、ヴェルナ達が依頼が増えてると言っていたのを思い出した。


 「ええ、知り合いの子達と祭りを回ってました。で、何か有ったんですか?」 


 「ん?ああ・・・」


 おじさんは一瞬口篭ったが、後ろに来ていたキラファ達を見て、何でも無い、用心で門を閉ざしてるだけさ。と笑って答えた。


 「通行人の審査を厳重にする為に南門と西門だけ開けて其処に衛兵を集中させてるだけさ」


 おじさんの表情や仕草に違和感を感じたエリアだったが、ドン!という地面を揺るがす轟音にそんな違和感は吹き飛んだのだった。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

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