第四十二話 『同盟会議?』
晩餐会という名の会議が踊ります。
海洋都市国家エルトリアのデネバイトス外交官は、お疲れ様ですと片方のグラスをエリアに渡すと、頭を下げて挨拶を交わした。
「始めまして、エリア様。私は南のカルトゥス半島にある海洋都市国家、エルトリアの外交官で名をデネバイトス・バイデスと申します」
「改めまして、エリア・アーハートです」
渡されたグラスを一度テーブルに置き、丁寧に挨拶をするエリア。
「このカレーの調理法は商売になります。其れを皆ただで教えろなど・・・ヒュージ司祭様は純粋な知識欲、探究心からでしょうが・・・」
デネバイトスはやれやれと言った顔でグラスを呷った。
「知識欲ですか?」
そう訊ねたエリアに、デネバイトスは「はい」と少し呆れた表情を見せる。
「ラーサ神は知識の神ですからね、未知の物には興味津々なのですよ」
本当は、根掘り葉掘り聞きたいのを司祭という立場と周りへの建前も有って好奇心を押し殺しているのだと、デバイストは語った。
知識欲は葛城涼にも有る。前世では割と聞き魔だった。なのでこの世界に来てからは新しい事柄が多過ぎてパンク気味である。
「と、言う私もカレーの製造には興味が絶えないので気を付けて下さい」
冗談っぽく笑っているが、レシピが知りたいというのは本心なのだろう。
「気を付けて下さいと言われましても・・・」
苦笑するエリアに真面目な顔になって、デネバイトスは口の前に人差し指を立て小声になった。
「情報は財産であり力です。カレーの店を出せば多額の富を生むでしょうが、こういった新しい物は独占しようとする者や紛い物を作る者が必ず出て来ますからね」
エルトリアは都市国家だ。幾つもの個別の自治を持つ都市が集まってる連合体でもある。当然価値観や常識の違いでの問題も多い筈、そんな国の外交官ならそんな問題も解決したり、乗り切ったり、宥め賺したりしてきた筈だ。
(この人なら、特許法の法整備に付いても何か有益な助言が聞けるかもしれない)
「ではどうしたら良いのでしょうか?」
エリアはデネバイトスから、知識を引き出す事にした。故に釣られて小声になる。
「難しいですね。素晴らしい物は世に出た時点でどうしてもマネされますからね。兎に角製造法、レシピを教えない事ですね」
それは、素人のエリアでも分ってる。
「でも、それだけじゃ弱いですよね。デネバイトス様が料理にも精通していれば明日にも似たものは作れるでしょうし、バズラー大使は料理の研究家。ここのモーリア夫人は料理がプロ並みですから、材料が有れば今直ぐにでも似たものは作れるかもしれません」
エリアはデネバイトスが善意で話してるのか、自分の利益になる情報を得様としているのかは分らないがこの御仁との会話が楽しくなってきていた。が、そろそろ終らせないと子供達との時間が無くなる事に気が付いた。
それにデネバイトスからは商人の様な雰囲気を感じている。もし自分が調子に乗って必要以上の情報を話すのも面白くない。
「確かに、しかし其れを止める事は出来ません。なら、せめてエリア様のカレーをマネされるまでに儲けを出すしかないでしょう」
なるほど、確かに今は其れしか無いかもしれないしかし・・・。と、丁度モウラがこちらを見たので後ろ手でこちらに来るように手招きする。
「なら・・・例えマネが出来ても商売が出来ない様にする事は出来ませんか?」
「それはどういう・・・」
海洋貿易を行なっている都市国家の外交官なら、多くの商談や他国との交易の条約等にも詳しい筈と、エリアは以前モウラに話した特許法についての意見を聞いてみたかった。
「例えば、新しいものを作った人に特権を与えて他の人が偽物を作れば罰を与えるとか・・・」
と、其処に丁度気配が近付いたのでモウラが来たと思って振り返って驚いた。
「二人で、何をこそこそと話ているのですか?」
やって来たのはモウラと女王様だった。
「これは女王様、こそこそなど・・・」
恐縮して頭を下げるデネバイトス。
「特許法の話をしていました」
エリアも同じ様に頭を下げて、礼を尽くす。
「ああ例の・・・」
少し面倒臭そうな顔になる女王様。どうやら特許法の話は女王まで届いていたらしい。
「女王様はこの考えに賛成なのですか?」
「そうですね、面白い発想だと思っています。発効出来れば確かに国の産業や文化は発展するでしょう。その為に大臣や知識者に内容を詰めさせてるけど、正直まだまだですね」
(国が発展すると断言した?)
そんな事を他国の高官に話したのは何故?と思ったが直ぐに察しが付いた。
「デネバイトス様は多くの都市が集まったエルトリアの方なので、良い取りまとめ方を知っているかも知れませんね?」
エリアはデネバイトスを見てニコリと笑う。
「いや、私は・・・」
突然振られたデネバイトスは手を振って一歩下がったが、結局女王に捕まりモウラや他の重鎮も集めて話を始めてしまった。
(難しい話は素人の俺が考えるより、政治家に御任せである)
特許法は周りの国も巻き込まないと意味が無い。だから旨味を現しつつ周辺国も巻き込み、尚且つ意見も出させて巻き込むのではなく自ら参加させる。女王様はそう考えたのだろう。
(いや~、モウラや女王様には頑張って貰いたい)
これで、少しは特許法の成立も早まるかな?と思いつつ、エリア会合の輪からそっと離れ、何時に無く使った頭を冷やす事にした。
そんなエリアの背中にドン!と誰かがぶつかった。
ファムがエリアが開放された事に気が付いて走り寄って抱き付いたのだ。
「お話は終りましたか?お姉様」
「やっとね」
疲れた笑顔で返したら、ファムは少し表情を曇らせたので、慌てて取り繕ってファムを抱き上げた。
そんな2人をキラファや子供達が呼んでいる。
「これで、ゆっくり子供達と話が出来る・・・」
が、当然エリアは約20名の子供達に囲まれ休まる事無く遊び倒したのだ。
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