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第四話 『地方都市ベルタ』

 コケー!コッコッコッコ・・・コッケコッコー!


 ゆったりとしたまどろみの中、ニワトリの鳴き声が聞こえる。


 葛城涼ことエリアは昨晩はアフィの家に部屋を借り、今日街を見てその後自分の生活の方針を考える事にしたのだ。


 眠り際、ふと死に別れた家族や友人の事を思い出して少し悲しくなったが寂しさや不安を紛らわそうと色々考えている間に眠ってしまった様だ。



 朝、まどろみの中姿勢を変える。温かく軟らかい布団に軟らかい感触が腕にも2つ・・・?


 すっきり晴れない思考の中、今度はむにゅ!と自分の胸に感触が・・・!?


 「なっ!?」


 飛び起きた涼こと、エリア・アーハートは起き上がるともぞもぞと動く布団をめくり上げた。


 其処には半裸のルルが抗議するかの様に「うう~ん・・・」と身を捩っている。


 「なっ、なんで俺の布団に入ってるんだ!?」


 「うう~ん、おはようエリア~っていひゃい!?」


 目を擦りながら挨拶をするルルのほっぺを抓む。


 「なんで俺の布団に・・・いや部屋に入ってるんだ?俺は本来男なんだぞ。危ないだろう」と、言ってほっぺを放す。


 「はう~、だって今は女の子じゃない!それにエリアはボクの妹じゃない」


 体を起こしニコニコと警戒心の全く無い笑顔を向けられ、エリアは呆れ返った。


 「兎に角、危ないんだから男のベッドに勝手に入るんじゃない」と、言ったら無邪気な笑顔で「なんで?」と、返して来た。


 リリとルルは見た目、12、3才だがホムンクルスだ。姉のララが約100才と言っていたからそれよりは若いだろうが、見た目は当てにならない。それにルルは一部発育が良いのも問題だ。

 (なのに、なんでこんなに子供なんだ?それとも分っててからかってるのか?)


 寝巻きも肩紐が落ち、着崩れていて目のやり場に困る。


 「ほら、ちゃんと着ないとダメだろ?風邪引くぞ」と、寝巻きを整えてやる。気分は小さな妹だな、とか思ってた所にドアが開いた。


 ドアの方を見ると寝巻き姿のリリが顔を出してジッとこちらを見ている。


 「・・・」


 ジト目のリリの視線が何故か痛い。その視線を追って今の自分の状況を把握した。と同時にリリが叫ぶ!


 「エリアがベッドの上でルルの寝巻きを脱がしてる~」


 叫ぶと言うには小さく抑揚の無い口調だが、リリさん寡黙なキャラじゃなかったんですか~?


 「違う!逆だ逆っ!」


 慌てて訂正しているとパジャマ姿で怒っているガイコツと何故か楽しそうなピンク髪のメイドが部屋に突入してきた。


 「あんたなにやってんの!こんな小さな娘をしかも今はあんたも女でしょうが!」


 「いや~ん、涼様何したんですか?何をなされたんですか~?」


 「何もしてない!何もしてない!」


 襟首を掴んでガクガクと揺らすアフィとそれを楽しそうに見ているララ。ルルに至ってはヨヨヨ・・・と胸元を押さえて泣く演技をしている始末だ。

 ペロっと舌が見える。そして何故かリリはエリアの背中に張り付いていた。


 「この変態!」


 「本当に何もして無いって!」


 「何もしないなんて酷いです~」


 「いや、ララさん意味分んない」


 「ぎゅ~」


 「リリちゃんはなんで背中に張り付いてるの?」


 「ヨヨヨ~・・・」


 「そこ、棒読みの演技しない!」


 ギャーギャー、ワイワイと賑やかな朝を迎えガクガクを揺らされながら葛城涼は異世界に来た事を実感していた。


 いやほんと、昨日死んで異世界に来てしまったって云うのに落ち込む暇も無い。




 みんなと朝食を済ませた後、エリアはララの荷物持ちという大役を承り街へと向かう事となった。

 

 ガラガラガラ・・・。


 馬車に揺られ、街を目指す4人。リリとルルの2人も冒険者としての仕事を請けに街に行くので一緒に後ろの荷台に乗っている。

 手綱を取るのはララだ。


 のどかな牧草地を馬車が往く、他の街との街道だが他に行く者は居ない。


 「ねぇ?2人はどのくらいのレベルの冒険者なの?」


 後ろを振り返って2人の顔を見た。


 「ボクがDランクでリリがCランクだよ!」


 「リリちゃんの方が強いんだ」と、言うとドヤ顔で「ん」と頷いた。


 「ところでCランクってどのくらい強いの?」


 エリアの質問にがっくりとルルがコケた。


 「あ~そうかそうか、そう言うのも分らないんだよね~」


 「面目無い」と、頬を掻く。


 「ランクはGからSの8段階。魔物も同じ」


 「でもモンスターを倒したからってランクが上がる訳じゃないよ。ギルドが決めたDランクの依頼を解決出来たら、Dランクに。Bランクの依頼を解決出来たらBランクにって感じ」と、ルルが補足する。


 「正し、ギルドが実力を認めないと自分より上のランクの依頼に挑戦出来ない」


 「そうそう。後、強い人に付いて行っただけなんてのもダメ」


 「ギルドはちゃんと見てるから」


 リリとルルが交互に説明してくれる。


 「なるほど、でCDランクでどのくらいの強さなんだ?」


 「リッチ倒した」


 つまりそのクエストを攻略してCに上がったらしい。

 

 「ボクはその時居なくてね、Dに上がった時は2人でトロールを何匹か倒したんだよね~」


 「運が良かっただけ。参加したパーティーが良かった。特に腕の良い神官が居たから・・・」


 「でも一番活躍したんだよね~」


 そう言われ、少し下を向いた。少し頬が赤い?。


 「リッチって事は、リリちゃんはその連中とならアフィを倒せちまうのか」


 「主は無理」「ご主人は無理だよ」


 2人が口を揃える。


 「創造主へのプロテクト的なやつか?」


 「プロテクトってのが何か分らないけど、ボク達の実力じゃ到底無理って話だよ」


 「え!?そうなの?」


 「主は色々と凄い。先ずあの装備を傷付けられる武器が無い」


 「例えそんな武器を持っていたとしても本気を出されたら当たらないけどね~」


 「そもそも近付けない」


 「マジか!?あの自称乙女が・・・」


 「冒険者登録してないけど、Sランクは確実」


 「そうか~」(本気で怒らせない様にしよう)


 そうこうしている内に街に近付くと流石に人の姿も増え、賑わいを見せてくる。エリア達が来た街道とは別の道は結構な交通量がある様で、流通の動脈となっているのだろう。


 新顔のエリアの事は少し聞かれたが、ララ達は信用もされてる様で問題なく通れた。


 「こんなに簡単に通れるなんて信頼されてるんだな」


 30m位ある巨大な門を潜り見上げる。厚さもかなりで堅牢な作りの門だ。


 「まぁ、2人は有名人ですしご主人様の御威光も大きいですからね~」と、ララはにこにこしながら答えた。


 「有名人?」


 「この見た目で冒険者、かわいい上に強いですからね~」


 「12歳ほどの見た目で、熟連の冒険者の双子の美少女・・・そりゃ目立つよね」にっこり微笑むルルに「自分で美少女って・・・」ぼそりと突っ込むリリ。良いコンビである。


 「確かに、こんなかわいい娘が凄腕冒険者だなんて思わないよね」


 そう素直に言うと2人とも照れた。



 門を抜け、ぱっと開けた視界には多くの人々の活気と喧騒で輝いている。


 「ようこそ、ベルタの街に~♪」


 ララの笑顔が何処と無く誇らしげに見える。


 ベルタの街の最も賑わう中央通り。其処を最初に見せたくてララはわざわざ南門に迂回して来たのだ。


 そんな喧騒の中ゆっくりと進む馬車。その道の両側には多種多様なお店が立ち並んでいた。その光景は正に中世ヨーロッパファンタジー。人間、獣人、亜人、数は少ないが魔族っぽい者まで大通りを行きかう。

 店の内容も各種食料品から着物、工芸品、薬、道具、武器に防具の店などが立ち並んでいた。 

   

 「凄い・・・」


 「ここベルタは大陸の東西を結ぶ陸路の大動脈の1本、南街道の中継地点なんですよ~」


 「南街道?」 


 「北の山脈の向こう、ラ・ギースを通る北街道とベルタを通る南街道、後は海路ですね~」 


 色々な国の人が行き交う街道の拠点、それが故に様々な国の空気を纏った人々で溢れかえっている。


 「商人も旅人もこの道を通るんですよ~。人が多ければ互いに協力して警戒したり自衛したり助け合ったり出来ますから~」


 皆で通れば怖くないって事か、等と思いながらエリアは賑わう街の喧騒に圧倒されていた。




 「じゃあまたね~」


 大きく手を振るルルと小さく振るリリ。街の中央、円形広場になっている場所で手を振って双子と別れた。2人はこのまま真っ直ぐ進んで街の北側の通りに有る冒険者ギルドへと向かい、エリアとララは西側の通りに向かった。ララ曰く、そこに行き付けのお店が有るそうだ。


 西の通りに入って直ぐ、途中一本裏の道に入るとそこに目的の店は有った。


 『何でも屋、シュウメイ』看板にはそう書かれている。因みに異世界の文字で書かれてる為エリアには読めない。


 「こっちの文字や数字を覚えないとだめだな・・・」


 この歳で新しく言語を覚えるのは気が重いと嘆く。


 何故か意気消沈しているエリアに「どうかしましたか~」と、顔を覗き込み尋ねるララ。


 慌ててその場を取り繕ったが、ふと今更ながらな疑問が頭に浮かんだ。


 「なぁ?なんで俺はみんなと会話出来るんだろう?この世界の言葉なんて知らないのに」


 「どういう事です?」


 エリアは看板を指差して「こっちの文字が読めないのに会話は成立してるじゃないか、これっておかしいだろ?」 


 しかし、ララは首を傾げキョトンとするばかり。


 「いや、だからさ俺、異世界から来てる訳だしさ・・・」と、続けた所でララは意外な事を言った「でも涼さん、こっちの言葉喋ってますよ?」と・・・。

  

 「え!?」


 「いえ、だから昨日からと云うか私達とはずっとこちらの言葉で喋ってますよ~?」


 顎に人差し指を当てて首を傾げる。


 「・・・え!?初耳なんですが・・・」


 「ちゃんと喋れてるんですから良いじゃないですか~。それよりお店に入りますよ~」


 ララは全然納得のいってないエリアの手を引いて入店した。


 店の中は雑多な物で溢れかえっているが、きちんと整理整頓されている。食べたら死にそうな色をしたキノコや雑草にしか見えない草から武器や防具類、食器や本等本当に色々な物が並んでいる。


 「こんな物まで・・・」


 木で出来た人形を手に取ったりして店中の商品を見て回った。


 「ホウさん居ます~」


 ララは店の奥に声を掛けるとカウンターの奥から声が聞こえた。


 「はいはい、居ますよ~」


 店の奥の扉が開いて出て来たのは巨大なクマの様なぬいぐるみ・・・ではなくそれを抱えた女性だった。


 「ごめんね、今この子の出品準備してたから~」


 そう良いながら人より大きなぬいぐるみを運び、入り口横のショウウィンドウに座らせた。


 「いらっしゃいララちゃん。と、そちらは?」


 視線がエリアへと向けられる。


 「この娘はエリアちゃん。私の妹よ~」


 「どうも、エリアです」


 そう、このホムンクルス『エリア』の体を使っている間はエリアとして振舞う事になったのである。何れ涼が他の体を手に入れ、エリアから出た後再度エリアに魂を入れた時に不便が無い様にとアフィの考えだ。


 「ふ~ん」


 まじまじと探る様な視線で全身嘗め回す様に見られる。


 「新しいホムンクルス?にしては何か変だけど」


 (あっさりホムンクルスだという事がばれた!?)


 「当たりです~」


 ララもあっさりと認める。


 「色々訳ありだけどそこは察して下さい~」


 なんとも大雑把な説明!そんな説明では誰も納得しませんよ。と思っていたが「分ったわ」と、一言で納得された。


 「私の名前はホウ・シュウメイよ。よろしくねエリアちゃん」


 服で手を拭いて、差し出された手を取った。


 「こちらこそ、よろしくお願いします。エリアです」


 「所で私が言うのもなんですが、あの説明で納得して良いんですか?」


 「良いのよ。お得意様の言う事だしね」


 ホウは楽しそうにウィンクして答えた。


 ホウ・シュウメイは20代後半の見た目の妖艶な印象の女性だ。紫のウェーブの掛かった長髪に少し垂れ気味の紫紺の瞳。大きなローブでも隠しきれない大きな胸がどうしても目を引くが、それ以上に目を引くのが腰の後ろから生えている尻尾である。


 「これが気になる?」


 尻尾を軽く振ってみせるホウ。


 「あ、いえ失礼しました」


 「良いのよ、私はね魔人族のハーフなのよ」


 そう言って髪を掻き揚げて小さな角を見せてくれた。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

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