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第三十九話 『カレーハウス、アーハート』

ベルタの祭りで定番のカレーを振る舞い、奮戦するエリア達。

まだまだほのぼの回です。

 アフィが注文を受け会計をして、ララとエリアが厨房で盛り付けたカレーを渡す。ウェイターのリリとメイド姿のルルは接客をしながら、テーブルを吹いたり水を運んだりと大忙しだ。


 メニューが普通と甘口のカレーしかないので作業が簡単なのが助かってるが、アフィは簡単な料理の説明をしながら注文を受けているので、価格が同じとは言え大変そうだ。


 そして、暫く経つと問題が出てきた。徐々に食器の洗浄が間に合わなくなって来たのだ。ある程度溜めて手が開いた者が食器を洗う筈だったが人が途切れない。

 

 4人席のテーブルを10卓出して貰ったので、皿とスプーンを60組用意したのだが席以外で食べる者も居て、間に合わなくなってしまったのだ。


 このままでは目の前で新しい食べ物にワクワクしている老紳士の分で食器が無くなってしまう。どうしようかと頭を悩ませてる時、聞きなれた声が聞こえた。


 「流石、エリアのお店。流行ってるね~」


 「ああ~!ヴェルナ、ホロロ丁度良い所に!」


 「来たよ~、って丁度良い所って?」


 手を振り答えるヴェルナの頭の上に?マークが付く。


 「ゴメン、後で埋め合わせはするから少し手伝って!」


 手を合わせ拝むエリア。


 理由は分らないが、困っている事は理解したヴェルナはホロロと顔を見合わせた。


 微笑んで、頷くホロロに快諾を得たヴェルナは、仕方無い!と袖を捲くる仕草をして、エリア達の手伝いを始めたのだ。


 返却された食器をホロロが洗い、ヴェルナが拭いていく。


 ヴェルナとホロロのお蔭で、現状はどうにかなったが心許無い事に変わりが無い。


 と、今度はザルザザがやって来た。


 「やぁ、エリアさん。随分繁盛してるようだね」


 手を振りやって来たザルザザを捕まえると、渡りに船とばかり扱き使う。


 「分った、ホウさんの店から食器を借りてくればいいんだな」


 「任せとけ!」と、胸を叩いたザルザザは詳しい話も聞かず早速走り出した。 

  

 結局、ザルザザは背中、と両手に30組の食器を持って帰って来た。その間にやって来たキラファにも手伝って貰い、300食のカレーは2時間で売り切ってしまい、大盛況の内に初日を終らせたのだった。


 「今日はみんな手伝ってくれてありがとう!皆の分のカレーは残して置いたから食べて行ってね」


 客の居なくなったテーブルを寄せて、リリルルにララとアフィ、ヴェルナにホロロ、ザルザザにキラファがテーブルに着いて遅めの昼食を摂っていた。勿論アフィは食べられないのだが。


 そんな、わいわいと楽しい昼食の一時を壊す男達が現れた。


 「おいおい、折角来てやったのにもう終わってんのかよ!?」


 冒険者風の格好をした男達4人が大仰に声を荒げてクローズの看板を蹴り倒して入って来た。


 「おいおい、お客に飯も出さずに自分達で食ってんのか?」


 凄む大男に、エリアは呆れていた。いや、ここに居るほぼ全員が呆れていた。


 お互いの手を取り合って、あわあわしていたのはホロロとキラファだけだ。


 「ああ、どうした?ビビッて声も出ないのか?」 


 実に頭の悪いセリフである。何故この男達はこんな態度に出れるのか。こっちは冒険者が6人も居るというのに。と、リリ達を見て、自分の姿を見た。


 紛れも無くメイドである。しかも男はザルザザ一人だけ。もしかしたらルルを男の子と思ってるかもしれないけど・・・。


 成る程、こいつ等はこの街の冒険者ではないのだ。だから、普通の女の子ばかりのこの店にちょっかいを出して来たのだ。

 出なければ、リリやルル、ましてやアフィの名前の店にちょっかいを出す訳が無い。


 (命知らずな・・・)


 少し哀れになって頭を振った。


 「おら!黙ってねぇで顔見せろや!」


 男がアフィのレースに手を掛け様としたした瞬間、その男が吹き飛んだ。


 10mは吹き飛び、ぐふぇ!?っと間抜けな呻き声を上げて転がる男。


 地面につっぷしたまま動かない仲間を見て。他の3人の動きが止まる。


 「私、まだ何もしてないんだけど」


 アフィは発動しかけた魔法を解除して、隣を見た。


 「汚い手でアフィに触るんじゃない」


 アフィと男達の間に立ったのはエリアだ。まだ手の平に魔力の渦を留めたまま転がる男を睨み付けた。


 「・・・」


 怒っているエリアを見て呆然となっているアフィを残して皆が立ち上がる。


 「同感、主に手を出すなど・・・」


 「万死に値するよね~」


 リリルルの言葉にはどちらも怒気が篭ってる。


 「アフィさんに手を出すなんて、この街で生きていけないってのに・・・」


 「だよね~」


 ザルザザとヴェルナも前に出た。


 「て、てめえら!?」


 やっと状況を理解した男達が其々武器に手を掛けた。


 アフィの前に並ぶ5人、その後ろでキラファが祈っている。


 「貴様らただで済むと・・・」


 抜刀した男達、その瞬間大きな影が男達を覆った。


 ズウウウン!


 突如飛来した黒い塊が男達の眼前に落ちてきた。


 もうもうと上がる砂埃の中、黒い巨体が立ち上がる。


 「祭りの中、剣を抜くとは何事かね?」


 ギラリと睨むその眼光が男達を貫く。


 「ひっ!?」


 黒く大きな体に銀色に輝く背中、その後ろ姿にエリアは見覚えが有った。シルバーバック、巨大なゴリラの特徴的な背中だ。


 「領主様!?」


 突然降って来た男はベルタの街の領主、ベルゼルス・ロローノだ。


 「女子供相手に何をしとるかーーーっ!」


 ビリビリと響き渡る轟音に思わず全員が耳を塞いだ。そう、アフィも思わず塞いでるのだ。鼓膜無いのに。


 「こ、この獣人風情がーーー!」


 恐怖のあまり、まともな判断が出来なくなった男が剣を振りかざした。


 「ま、待て!?」


 仲間の制止も聞こえず、斬りかかる男。


 「ばっかものがーーー!」


 怒声と共に振り下ろされた拳が地面を抉り、衝撃波が砂埃を舞い上げ斬り掛かった男を吹き飛ばした。


 エリアとアフィは咄嗟に風の魔法で壁を作って店と皆を守る。 


 「衛兵ーーー!!!」


 男の声に飛び出してきた衛兵達を見て、冒険者風の男達は逃げ様としたがルルとエリアの土魔法に足を捕られ抜け出せず、そのまま御用となった。


 ズンズンとエリア達の前に戻ってくると「アーハート先生、皆さんお怪我は有りませんか?」と、訊ねたベルゼルスをアフィが小突いた。


 「馬鹿者、折角の食事が砂塗れになる所だったではないか」


 腕を組んで、叱責するアフィに事情を知らない者達がおろおろとする。


 「おお、これは申し訳有りません」


 片膝を着いて頭を下げる領主に周りは更にうろたえた。


 「あの、アフィさんその方は・・・」


 ザルザザが声を掛ける。


 「知っているわよ、領主だって言いたいんでしょう?」


 「え!?ええ、そうなんですけど・・・え!?」


 「大丈夫、主の方が強い」


 真顔でそう言ったリリに「リリちゃん、そう言う問題じゃないからね」と突っ込んだ。


 「そうだよ、ご主人の方が年上だし♪」


 (それも違うかな~)と言うかその話はアフィに怒られそうだ。   


 「で、領主様こちらに何か御用ですか?」   


 これ以上話が可笑しくならない様にエリアが話を変える。


 「おお、そうでした。実は私もカレーと云う物を食べたくて来たのですが・・・」


 周りの様子を見た領主は客らしい姿が居ない事に気が付いた。


 「申し訳御座いません~。今日の分は全て無くなってしまって~」


 「もう、ですか!?」


 「300食完売」


 リリが誇らし気に胸を張る。


 「それは素晴らしい、しかし尚の事食べたくなりましたな」


 御腹を鳴らす領主にエリアはホウの出しているパスタを勧め、更に明日の夕刻女王達を招いての食事会にも誘った。


 「良いのですか?明日は女王様や御友人との会食と聞いていましたが?」


 「はい、構いません。キラファも良いよね?」


 「はい、エリアが良いのなら私は構いません、どうぞ御越しになって下さい」


 (それに女王様が同席する時点で私のメンタルはもう・・・)


 「という事です、多めに用意しますので御家族の方々等もお誘い下さい」

 

 「それは忝い。それでは明日改めて御伺いします」


 頭を下げた領主は、残ってた衛兵に指示すると街中に消えていった。



 無事食事を終らせて、ザルザザ、ヴァルナ、ホロロを見送ったエリアは片付けをしていた。


 「所でキラファはここに来てて子供達は大丈夫なの?」


 「ええ、今は女王様達と出店を回ってます。私はエリアの様子を見て来て欲しいと言われたので」


 「そうなんだ」


 「でも、私もそろそろ戻らないと」


 少し寂しそうなキラファの頭を撫でた。


 「3日目は一緒に回れるから、我慢してね」


 優しく微笑むエリアに顔を赤くした。が、周りの視線に気が付いて「わ、私戻りますね」と、不本意ながらエリアの手から逃げた。


 「あらら・・・」


 少し残念そうにしてるとすっと横に来たルルが頭を差し出してきた。


 「ボク、今日は一杯頑張ったと思うんだ」


 「まったく・・・」


 ルルの頭を撫でるエリア。


 「今日はお手伝いありがとうね」


 満足そうにしているルルの横に、別の頭が現れた。


 じっと無言で見詰めるリリに、やれやれと頭を撫でてやる。


 「リリちゃんもありがとう」


 嬉しそうに目を細める2人の頭を撫でてると、3つ目のピンクの頭が現れた。


 「私も頑張りましたよ~」


 上目遣いのララを見下ろす形になって、思わず身を起こしたエリアは顔を赤くして「はい、終わり」と、後片付けを再開した。


 抗議するララとその後ろで少し残念そうなアフィ、キラファを残して。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

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