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第三十七話 『再会』

 アフィに連れられ、突然ベルタの街の領主ベルゼルス侯爵の屋敷にやって来たエリアは今、侯爵に案内され奥の部屋に通された。


 「こちらでお待ちですよ。どうぞエリア殿」


 ベルゼルス侯爵が扉を開けると、ぱっと輝く笑顔が飛び出した。


 「エリア様!」


 「ファム!?」


 抱き付くファムを受け止めて、エリアはその奥の存在に驚いて、慌てて膝を着いた。


 「女王様!?」


 女王は私達の仲で臣下の礼は必要有りませんよ。と言ってくれるがエリアはそう言う訳には行きませんと言って、チラリと意識を領主に向けた。


 なるほど、と理解した女王は領主に目配せすると、領主ベルゼルスは一礼をして部屋を出て行った。


 「これで良いかしら?」


 女王はアフィに抱き付きながら、やれやれと云った表情で尋ねてきた。


 自分の立場をもう少し考えて欲しいと、心の中で思いつつエリアは背中に張り付いたファムを背負ったまま立ち上がり、少し呆れながら「はい」と答えた。


 すると、アフィが「諦めろ、ミリィのこういう所は100年経っても治らないんだから」と、頭の上に乗せた顎を鷲掴みにして押し退けた。


 「ところで、ファムちゃんは今日ベルタに着いたの?」


 「はい、彼女達の準備もあって、少し遅れましたが間に合って良かったです」


 「彼女達?」


 頭の上に『?』を付けたエリア。


 「もう良いですよ」


 女王が声を掛けると奥の部屋の扉が開いて、わっと子供達が飛び出した。


 「エリアお姉ちゃん!」


 犬獣人の女の子が最初に抱き着き、他の子達もエリアを囲む様に抱き付いた。


 「エイナちゃん!?トゥク!?」


 他にも教会の子供達がエリアを囲む。そして、最後にアラクネの少女が現れた。


 「エリア・・・様」


 「キラファ!って、様って何?」


 2人の為に子供達が離れる。


 「だって、女王様と知り合いだし、お姫様の、そのご主人様だって・・・」


 おろおろとする余り、もう思考がとっちらかってるキラファは、目を回しそうな勢いだ。


 「うん、驚いたよね。でも大丈夫だから落ち着いて、ねっキラファ」


 抱き寄せて、背中をぽんぽんと叩いて小さな子供をあやす様に落ち着かせる。


 「エリアお姉ちゃん~」


 泣き付くキラファも可愛い、等と思っている場合でもないかと取り敢えず落ち着くまで頭を撫でてあげた。


 「女王様・・・」


 ジト目で女王を見る、アフィ。その視線に絶えかねて女王は視線を外した。


 「私は何もして無いわよ、キラファちゃん達がベルタに行くって聞いたから御一緒しただけよ」


 目を泳がせ、何もして無いと弁明する女王様って・・・。


 「キラファ、そうなの?」


 キラファは涙を浮かべたまま、頷き「ベルタに行く馬車を予約したら、次の日にエリアお姉ちゃんの知り合いって言うモウラって人が来て、予定していた馬車が使えなくなったので別の馬車を用意しましたって知らせてくれて、着いて行ったら王城で、馬車に乗ったら其処に女王様と王女様が居て~」


 一気にまくし立てて、また泣きそうなキラファ。


 「私、子供達が失礼な事しないか、気が気じゃ無かったよ~・・・」


 ガバッ!とエリアに抱き付く。 


 「ミリィ・・・?」


 アフィが凄む。


 「ほ・・・ほら、アフィの家族は、私の家族。そのお友達なら私もお友達・・・でしょ?」


 しどろもどろに弁明したが、説明不足、立場を考えろと窘められた。


 「キラファさん、女王様はちょっとお茶目な所は有るけど国民を大事にしてるわ」


 「・・・はい」


 「もし子供達がうっかり馬車の1つや2つ壊したからって、怒ったりはしないから安心して」


 アフィは努めて穏やかにキラファに話す。


 「それでも、女王様ですし・・・」


 おずおずとするキラファ。


 「まぁね、でも今は子供達の友達のファムの母親程度に考えてたら良いわ」  


 「そんなの無理です~!」


 エリアの胸に顔を埋めて首を振る。

 

 「大丈夫よシスターキラファ、私のお母さんは優しいから」


 それまで子供達と話をしていたファムが、話に入って来てにっこりと笑って助け舟を出した。


 「娘やアフィの言う通り、公の場以外ではエリアさんの友達程度に思って下さいね」


 優しく微笑み、手を差し伸べるその手を恐る恐る取ってどうにかこうにか場が収まった。その後、久々の再開に時間を忘れ話の弾んだエリア達だったが日が傾き西日が射した頃、御暇する事にした。


 「キラファ、皆、明日私の店に来てね取って置きのお昼ご飯作って待ってるから」


 エリアは見送る子供達に手を振って、名残惜しそうに領主の館を後にしたのだ。




 「アフィ、ありがとね」


 夕日に照らされる街の中をゆっくりと進む馬車の中、エリアの唐突な感謝の言葉にアフィは視線を変える事無く聞いていた。


 「・・・祭り、楽しみなさいよ」


 そう答えたアフィの顔は夕日に照らされた所為か赤く見えた。




 夜、ララと一緒にカレーを仕込んで風呂に入った後、涼はエリアの体を抜けて家の外に出ていた。


 寝る必要の無い涼の訓練の時間だ。


 寝なくても大丈夫なだけで、眠くなったら寝てるのだが。


 「さて、やりますか」


 最近始めた訓練、魔力を使い切る事で魔力の総量を増やすという日課をもっと効率良く進める為、早く魔力を消費する為に始めた訓練、それがこの訓練。


 涼は右側に炎の球を作り出す。


 「よし」


 その炎の球を維持したまま、今度は左側に水の球を作り出した。


 単純に魔力の消費は倍になり更に魔法の並列処理、魔法の同時発動の訓練を始めていた。


 「くっ!?」


 魔法を維持しながら、其々の球を大きくする。当然魔力の消費も増える。


 更にその火球を高速回転させる。


 更に脳の負荷が増える。脳みそ無いけど。


 今は簡単な魔法の同時発動がやっとだが、今後エリアの体を動かしながらまったく別の魔法の練習もする予定だ。


 アフィ曰く、治癒、攻撃、防御、この3つを同時発動出来る様に訓練しなさい。だそうだ。


 ボシュッ・・・。 


 魔法のコントロールが上手く行かず、炎の球と水の球が崩壊した。


 「くはっ~」


 頭の酷使に耐えかねて、天を仰ぐ。


 属性は違うが、同じ魔法を2つコントロールするだけでこの負荷だ、先が思いやられる。


 だが、アフィの言う通り同時発動は役に立つ。それは涼でも分る話だ。


 アフィが出来ると言うのなら、出来るのだろうと涼は深夜まで魔法の練習をして、魔力が尽きる寸前で倒れる様に寝るのだった。


 

 次の日。ベルタの街の祭り当日の朝も何も変わりなく始まった。


 「エリアちゃん、朝ですよ~」

 

 ララの声が遠くに聞こえる。寝返りを打って転げる様に、というか実際にコロコロと転がってベッド横の台からエリアの寝ているベッドに落ちる様にして、エリアの体に入る。


 「んん・・・」


 もぞもぞと疲れた体を動かすと、むにっと顔に軟らかい物が当たる。


 「ルルちゃ~ん、エリアちゃんまだ起きませんか~?」


 ララが部屋を覗くとその惨状に合点がいった。


 エリアを起こしに来たルルがそのままエリアのベッドに忍び込み、顔に抱き付く形で一緒に寝ていたのだ。


 「・・・」


 朝から何とも言えない気分で目覚めた葛城涼ことエリアはルルを起こさない様にそっと引き剥がすと、何も無かった様に着替えを始めた。 


 平常運転、平常運転。

 

 何時もより早く起きたエリア達は早々に朝食を終らせると街に行く準備を始めた。昨日準備したカレーの状態も問題無くエリアは巨大なカレーの鍋3つを馬車に積み込むとベルタの街に馬を歩かせた。


 「こういう大荷物を運ぶ時は漫画や小説みたいに、なんでも入って劣化しない袋が有ればと思ってしまうね」


 エリアは後ろを見て鍋の安全を確認する。馬車の後ろにはララとリリルルが鍋と一緒に乗っている。アフィは手綱を取るエリアの横だ。


 なんの話?とアフィが聞いてきたので収納袋の説明をしたら、そんなの有ったわね。と、のたまった。


 「えっ!?有るの?」


 驚いて振り返るエリア。


 「有ったけど、袋じゃなくて指輪だったわよ」


 『リザーブ・リング』所謂次元倉庫の様な亜空間に品物を仕舞えるマジックアイテムだ。


 ゲームでは無いと冒険が破綻するアイテムだ。装備だったりスキルだったりするが、まさかこの世界にも有ったとは。


 「其れって幾ら?私でも買える?」


 何時に無く食いつくエリアにアフィが仰け反りながら「貴重なマジックアイテムよ、性能の悪いやつなら買えなくもないけど、それでもかなり高いわよ」と、言って迫って来たエリアの顔を押し戻した。


 「って言うかアフィが持ってるなら使えば良かったんじゃ?」


 「エリィにあげたのよ」


 え!?と驚いて、愕然と項垂れる。


 「そうか~、残念」


 分り易く落胆し、肩を落すエリア。


 落胆するエリアを見て何故か申し訳なる。


 「そんなに欲しかったの?」


 「うん、何れ冒険に出る時有れば断然旅が楽になるからね」


 本当に残念そうに微笑むエリアに、そうとだけ返した。



 街に入ると、まだ朝早いのに行き交う人の数が多い。今日は女王が宣言なさる開会式が有り、その姿を近くで見ようと既に会場に人が集まっている様だ。


 そんな人々を見て、アフィはまだ2時間も有るって言うのに。と呆れていた。


 エリア達一行は、先ずホウさんの店に来た。預けていたお米や道具を積み込む為だ。


 「ホウさ~ん」


 エリア達が店に入ると、既に準備を済ませてたホウがニヤリとエリア達を見た。


 「?」


 「準備は出来てるよ、ただしこれに着替えたらね~」


 ホウの含みの有る笑顔に、嫌な予感がしたエリアだったが、それは見事に当たった。


 本当に嫌な予感程良く当たる物だ・・・。


 「ホウさん、これは・・・?」


 「とある方からのお達しでね、其れを着ないと材料や道具を渡さない様にって依頼されたんだよ」


 とても楽しそうにホウは、私も嫌だと断ったんだけどね~とか言っている。


 (うん、これノリノリで引き受けたな)


 「ホウ、あんた・・・」


 「どうせ、お店をするんだから丁度良いじゃない。さっさと着替えてしまいなよ」と、言いつつ口元が笑ってる。


 そんな遣り取りをアフィとホウがしている間に、リリとルルが既に着替えてた。


 「ご主人、ご主人、これ可愛いですよ」


 「主もエリアも観念して着替える・・・」


 リリルルの2人が着替えたその衣装を見せる様に、クルクルと回ってみせる。


 確かに可愛いが、勢い良く回ると短いスカートが危ない!?


 と、言っても危ないのはルルだけなんだけど。


 ルルの衣装はまるでファミレスのウェイトレスの様な少し胸を強調した服だった。そして、リリはウェイターの様なスーツである。


 「しかし何故、私のは男物・・・」


 睨むリリに私に聞かないで、とホウは手を振る。


 そんな2人を見て、仕方無いですね~とララが着替えに行こうとしたら、あんたのは無いわよ。とホウが止めた。


 「どうして、私の服は無いのですか~?」


 残念そうに抗議するララに、ホウはだってあんた最初からメイド服じゃない。と言った。 


 そんな涙目のララを横目に、エリアとアフィが渋々着替えに行く。


 そして、出て来た姿はまさしくメイドだった。アフィはロングスカートのクラシックなタイプでエリアはルルと同じデザインの服だが、可愛いエプロンが付いていた。因みにアフィはレースで顔を半分隠した上で幻影魔法で姿を変えている。


 「これは、流石に・・・」


 尻込みするエリアだったが、リリルルからは絶賛の嵐だ。


 「可愛いじゃない」と、アフィまで笑ってる。


 「じゃあこれ、頼まれてた物ね」


 ホウは早々に商品を渡すと、自身の準備も有るからと抗議する暇も与えず、エリア達を追い出した。


 「エリア?」


 呆気に取られ立ち尽くすエリアに不安気に訊ねるリリ。すると「あ~もう!やってやるわよ!」と、叫んだエリアにビックリするが、笑顔になって、うんと答えた。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

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