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第三十五話 『忍び寄るは不穏な影』

 アフィが何も告げず姿を消して、帰って来るまでの間エリアは気が気でなかった。


 自分の不用意な言葉がアフィを傷付けたのでは無いか?と捜し回ったのだ。


 ララやリリルルは、こういう事は偶に有ると落ち着いた様子だったが内心は心配していた。ただ自分達が取り乱せばエリアが更に不安になると落ち着いて見せたのだ。


 それでもエリアは、周囲を捜し回り、夜には霊体になって昼夜問わず捜したが何も見つける事が出来なかった。


 そして次の日、一度戻ったエリアが再びアフィを探しに家を出ようとしたお昼前にアフィは何事も無かった様に帰って来た。


 「ただいま」


 今、正に取っ手に手を掛け出ようとしていたエリアは帰って来たアフィに抱き付いた。


 「アフィ!」


 「え!?なに?なに?」


 急に抱きつかれて驚くガイコツ。


 「ちょっと、なんなの?」


 恥ずかしくて、暴れ出すアフィだったがエリアは離してくれない。


 「ゴメン!俺、不用意な事言ってアフィを悲しませたのかと思って・・・、拗ねて家出したんじゃって」


 エリアとしての演技も忘れて涼はアフィが無事に帰ってきてくれた事を喜んだ。


 「子供扱い!?なんで私が家出なんてするのよ」


 「だって、何も言わずに消えるから・・・」


 項垂れ、消え入る様に話す。


 「それは・・・」


 言葉に詰まるアフィ。


 「ちゃんと説明しなかったアフィちゃんが悪いです~」


 ララがエリアの背中からひょっこり顔を出してアフィを見た。


 「いや、今までにも何回も有ったでしょう!」


 「でもエリアはそんなの知らないし~」


 ルルが頭の後ろで手を組んだまま、くるくると回りながら責める。


 「貴方達が説明したら良かったでしょう?」


 「説明はした。行き先を言い忘れる事もあるって」


 リリは真面目に呟く。


 「おっちょこちょい認定かな?」


 「女の子が行き先も告げず、外泊なんて良く無いよ」


 突然の女の子扱いに戸惑う。少なくとも今までエリアはそんな素振りは見せなかった。


 「えっと、私この中で1番お姉さんで、リッチなんだけど・・・」


 余り言いたくないセリフでこの状況を打開する為の一手を撃つのだが「関係ない!アフィは女の子なんだろ」と言う言葉で確定した。内心涼はちゃんと女の子扱いしていた事に。そうだと分ると突然恥ずかしくなってくる。


 「分った、分ったから離れて」


 (こんな私で、そんな体のあんただけど、恥ずかしい)


 後半の言葉は何とか飲み込み、赤面して体を離す。赤くなる頬は無いけど。


 「私は女の子で、あんたは男なんでしょ?」


 上目遣いで抗議するアフィにエリアは、慌てて体を放して謝った。


 「ゴメン・・・」


 「良い、私は仕事で偶に居なくなるから、家族にも秘密の仕事も有る。私はこの国の国務も請け負ってる事を忘れないで」


 「・・・分った」


 気落ちして俯く。


 「で、今回は何しに出掛けてたんですか~?」


 「魔獣の森に異変を感じたから見に行ってたのよ。ただそれだけ」


 魔獣の森はエリアも捜したのがだ・・・。


 「で、何か有りましたか~?」

 

 「これ、こんな物を持った人間が居たわ」


 アフィはローブの中から拳大の赤い水晶を取り出した。


 「魔獣封じの水晶?」

 

 リリは驚いてその水晶を手に取ってまじまじと見ている。


 「何、それ?」


 エリアも手に取って見てみたが良く分からない。

 

 「もしかして魔獣の力を抑えて、使役するアイテム?」   


 ルルも珍しそう。


 「折角使役したのに力を押さえるの?」


 「そうじゃなくて、この水晶の近くに居る魔物は魔力を乱され、本来の力が出せなくなるの。正しこの水晶で使役された魔物は別って訳。で、あいつ等そんな水晶を7つも持ってたのよ」


 「なるほど。で、この水晶がここに有るって事は・・・」


 「確認もせず突然襲われたのよ、ちゃんと人の姿に変身してたのに」


 「そうなんだ・・・」


 アフィのやる事だから、そう言う連中なのだろうが少し同情をしてしまう。


 「気しなくて良い。普通の人を主は襲ったりしない」


 「そこは疑って無いよ。それにまだ6つ持ってるみたいだし」

 

 「そんな訳無いじゃない」


 「そんな訳け無いですよ~」


 「そんな訳無いって」


 「・・・無い」


 全員が否定する。本人も含めてエリア以外満場一致だ。


 「全て奪って、この1つ以外は街道と森の境界に埋めて来たわ」


 「埋めちゃったんですか~?」


 「ええ、使役されてた魔獣は開放してね」


 「ああ、そうか結界に使ったんだね」


 合点のいったルルが手を打った。


 「そう言う事」


 ルルが正解して少し嬉しそう。


 しかし、相手の事を思うと少し不憫に成る。同情はしないけど。


 「鬼だね」


 「何言ってんの、私はリッチよ」と、アフィはフフン♪と得意気に微笑んだ。

 

 「兎に角、何か不穏な事が起きてるみたいね」


 気持ちを切り替え、皆に気を引き絞める。


 「やっぱり、祭りに合わせてるのかな?」


 う~んと腕を組むルル。


 「尋問しても何も喋らなかったけど可能性は高いわね。ミリィも来るし」


 ミリィ、この国の女王『ミリアス・グリーム・フォル・リンドバイン』の事だ。

 

 「お祭り、無事に出来ると良いですね~」


 ララの言葉に頷きつつも、それフラグ?と思ってしまった。


             ☆


 お祭りも本番3日前となると、他の街からの出稼ぎ連中も随分と増えてきた。


 ここ西門も前乗りの観光客や行商人、見世物小屋や出店の業者等で混雑している。そして、そんな人達を相手にするお店が出てる程だ。

 逞しいな~等と思っていたらどうやらそれだけでは無い様で、街中に出店出来なかった人達がここで店を出している場合も有るのだとか。


 祭り当日ともなれば更に増えてちょっとしたバザーやフェスタの様になるらしい。成る程と見回してみれば、奥の方にはステージまで作られていた。

 

 当然トラブルも増えるので、冒険者が借り出されエリアも今日は警備に参加していた。


 「エリア!」


 手を振ってエリアを呼ぶのは冒険者仲間のヴェルナだ。


 「代わるわ、ホロロと一緒に休憩に入って」


 「分った」


 ヴェルナと一緒に来たのはザルザザだった。


 「じゃあ、ザルザザさんもよろしくです」


 「よ、よろしくなのです」


 「はい!任せて下さい」

 

 バン!と胸を叩くが叩いた手が少し痛かったらしい。


 そりゃ、金属のブレストアーマー叩けばね。


 並んでいる人達は、業種も種族もバラバラだ。


 「この馬車、大きいですよね~」


 小柄なホロロが見上げると余計に大きく見えてしまう。が、エリアも気になっていた。


 そこで、馬車の御者に尋ねてみた。


 「ああ、これは見世物小屋の魔獣だよ。私達が運ぶ様に依頼されたのはこの3つだけど、もう何体か来るらしいよ」


 気さくに答えてくれたおじさんを気遣って、大丈夫なんですか?とホロロが聞いていたが、檻が特別製で魔獣の力を押さえ込んでいるらしい。


 おじさんが後ろ手でガン!と檻を叩くと檻の中の魔獣が咆えたが、怯えるホロロを見て笑う余裕を見せた。


 他にも多くの馬車の並びを見ながら、詰め所に戻った。


 詰め所の奥、休息用の部屋では他に休憩している冒険者と衛兵が食事を取っている。


 「結局、そいつらは何者だったんだい?」


 「いや~それが逃げらたらしい、かなりの深手を負っていたっらしいが魔獣の森に逃げ込んだそうだ」


 何と無く聞こえた衛兵と冒険者の話に、エリアは複雑な表情になる。恐らくその魔獣の森に逃げた奴はアフィが遭遇した連中かその仲間だろう。命からがら森を抜け出したのに、衛兵に見付かってまた森に逃げたのかと少し不憫に感じた。


 「ねぇ、ホロロ。魔獣の森ってそんなに危険なの?」


 既に食事をしていたホロロがエリアの質問にビックリしていたが、エリアがあのアフィの家の者だと思い出して勝手に納得した。


 「アフィ様が居るから、こっち側には寄り付かないもんね。アフィ様と住んでるエリアさんには分らないかもだけどあの森の魔獣は怖いよ」 


 「そうなんだ、私まだあの森に入った事無いから実感が湧かなくて・・・」


 ホロロは食べる手を止め、持っていたスプーンをくるくる回しながら、森の説明をしてくれた。


 なんでも中心に近い程、強力な魔物が生息していて、その中でも2匹強力なモンスターが居るらしい。


 「その2匹って何?」


 「本当にアフィ様から聞いてないの?」


 流石のホロロも呆れ気味で説明してくれた。


 「1匹は賢帝アルグルオス。マンティコアだよ」


 「マンティコア?」


 「知らない?獅子の体に老人の頭とコウモリの翼を生やした魔獣。尻尾はサソリなんだよ」


 知っている。ただその知識は葛城涼としての知識だ。昔やったゲームに出てきたそこそこ強いモンスター。


 (攻撃力も体力も高い上に魔法まで使う、頭の良いやつだったな)


 「そして、もう1匹が強王ドロロス。ハイ・トロールなの」


 「ハイ・トロール?」


 トロールなら知っているが、ハイ・トロールに付いては初耳だ。


 「うん、なんでも普通のトロ-ルより大きくて、再生能力も凄いらしいよ」


 話に因れば群れのボスなどの強い固体が偶に進化するらしい。あと、頭も良くなるとか。


 その昔は討伐しようとした事も有るらしいが、今はアフィのお蔭で街の方に出て来る事が無いので、放置されてるそうだ。


 「子孫達に丸投げだよ」


 ホロロは呆れていたが、触らぬ神に祟り無しって事だろう。


 「ところで、エリアさんってお祭りでお店出すって、本当ですか?」


 スプーンを咥え、小首を傾げる仕草が可愛い。 


 「本当だよ。西の端の広場でやるんだ。暇なら遊びに来てよ」


 「ぜひ!皆で行きますね」


 2人、話の弾んだ会話の中、昼食も終わり少し休憩を貰った後、仕事に戻るのだった。  


 夕方と言うにはまだ早い、空は明るく人々の往来も多い時間。門の警備の仕事が終ったエリアは自分の出店の予定地に来ていた。其処ではカエンさん達工廠の男衆がエリアの出店の竈や屋台を作ってくれている。


 「カエンさん、お疲れ様です」


 「おう、エリアか!?わざわざ見に来たのか?」


 「はい、仕事終わりにちょっと」


 エリアは魔法で冷やした果実のジュースを其処に居る人達に振舞った。


 すると、離れた所から女の子の声がするのに気が付いて其方を見ると、見慣れない女の子が2人楽しそうに話しながらやって来た。


 「カエンさん!珍しい物が飲めるって聞いたんだけど?」


 小走りでやって来た少女達、カエンさんの工房では見た記憶が無い。


 黒い腰までの髪は途中から赤く染まり、毛先は真っ赤になっている珍しい髪の少女とその後ろには同じく腰まであるピンクの髪の少女。

 2人、全く同じ色の紅い瞳が印象的だ。


 その2人とエリアと目が合う。(あれ、何か驚かれてる?)


 「カエンさんこの2人は?」


 「ああ、この黒髪のが俺の弟の工房で働いてるツェリ、そして、そっちのが姉のククだ。弟分に屋台を作らせようとしたらツェリを寄越しやがった」


 やれやれといった感じで首を振る。


 で、こっちがお得意さんのエリアだ、と紹介してくれた。


 「エリア・アーハートです。よろしくね、ツェリちゃん、ククちゃん」


 握手をしようと手を出したら、ツェリが身を捩ってブルブルと震えた。


 「ちゃんは要らない、ちゃんは!」


 気持ち悪そうにしている。


 「ごめんなさいなの、私はクク・リューエンなの。で、ちゃん付けで呼ばれて鳥肌立ててるのが妹のツェリなの」


 ククは見ているだけで幸せな気分になる屈託の無い笑顔でエリアと握手をした。


 「ツェリだよろしくな!」

 

 ツェリは男勝りというか、はきはきとした江戸っ子の様な印象の女の子だ。


 「ツェリはエリアさんの大ファンなの!」


 「んなっ!?そ、それは」


 「ファン?」


 ククの突然の告白にツェリが顔を真っ赤にしてる。


 「あの・・・その・・・」


 耳まで真っ赤にしながら俯いてまともに言葉になっていないツェリに「ありがとう」と言って、助け舟を出す様にジュースを勧めた。


 2人にジュースを渡すと珍しそうに、匂いを嗅いでから中を覗き込み、そして口を付けた。


 「美味しいの!」


 一口飲んだカップの中を覗き込むクク


 「ぷは~、本当に美味しいなこれ!」


 一気に飲み干したツェリ。


 「もう一杯、飲む?」と、聞くとツェリは「良いの?」と喜んで、2杯目も一気に飲んでしまった。


 ジュースを呑み終わった2人は何か話そうともじもじしていたが、そこにカエンの激が飛んだ。

 

 「ほら、もう直ぐ日が暮れる。早く仕事を終らせてきな!」


 カエンさんに急かされた2人は、カエンに恨めしそうな目を向けたが直ぐに諦めエリアにお礼を言って仕事に戻って行った。


 他の職人達にもジュースを配り終わった所でカエンがやって来た。


 「すまんな、わざわざ」


 「いえ、屋台を作って貰ってるのでこれくらいさせて下さい」


 「竈は明日には完成する、屋台はあいつらが今日中に完成させるだろうよ」


 一生懸命に屋台を作っているククとツェリ。その顔は職人のそれだった。


 「あの子が」


 先に組んだ支柱を他の職人と一緒に立て、木槌で打ち込んでいる。


 「筋は良いんだが・・・まぁ、まだ子供だし、仕方ねぇんだがよ」


 そう言うカエンはまるで自分の子供を見る様な優しい目で2人を見ていた。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

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