第三十四話 『祭りの前のひととき』
やっとベルタに帰って来たエリアは祭りの為、うろ覚えの知識でカレーに挑戦します!
ベルタに帰ったエリアは、1日ゆっくり(今回留守番だったリリが一日中離さなかった)した後、祭りの準備に明け暮れた。
先ずはギルドで簡単な依頼を受ける事に。
冒険者ギルドは長期間依頼を受けないと降格や除籍も有るからだ。あと、祭りの準備の資金調達でも有る。これにはルルも参加して実入りの良い物を中心に近場で複数こなし易い物を選んだ。
次に祭りの運営に出店の申請。これは申請を出すのが遅かった為、最初は断られたのだがアフィの口利きも有って街の端っこの広場の片隅だがどうにか場所を確保出来た。
使うテーブルや食器、調理器具をホウさんに頼んで貸して貰ったのだが、一体何を作るのかとしつこく聞かれて困った。
どうにかこうにか宥めすかして、当日の楽しみとその場を凌いで道具の調達を確約。次にバザーに向かうとお米農家のお婆さんから米を購入。更に近くの店で色々な香辛料と野菜を購入して家に帰って来た。
「ただいま~」
米の入った袋と大量の香辛料、野菜を抱えたエリア。
「御帰りなさ~い」と顔を出したララが荷物運びを手伝ってくれる。
「こんなに沢山の野菜と米で何を作るのですか~?」
ララは箱の中の野菜を見ながらエリアに尋ねた。野菜は兎も角、高い香辛料の量が気になったらしい。
「カレーだよ」
にこやかに答えたエリアの顔を見てララが微笑んだ。
「そのカレーが何か分らないけど、また美味しい物を作るんですね~」
「そう!流石に香辛料が足りなくて無理だと思ってたんだけどね、知り合いになった王都のレストランでコリアンダーとターメリック、そしてクミンの代わりになる物を見つけたんだよ!」
いつに無く力説するエリアを微笑ましく見ている。
これで、カレーが作れる筈!と息巻くエリアは早速試作に入った。問題は香辛料の割合で有る。
エリアこと葛城涼はカレールウを使ったカレーは作れるが、流石にスパイスから作った事は無かった。ただ一般常識程度に必要な素材は知っている。その代表がコリアンダー、ターメリック、クミン、唐辛子、黒胡椒で、他にウコン、シナモン、ナツメグ等必要そうな物も紙に書き出してどうにか思い出した。
唐辛子、黒胡椒、そしてナツメグはこの家にも有ったが、他の香辛料が無くて諦めていた。しかし、ゴマドレッシングを教えた店で香辛料を見せて貰った時にその代わりとなる香辛料を数種類見付け、購入ルートも聞いていたのだ。
この日からカレースパイスの開発が始まった。香辛料を混ぜ合わせる比率を色々試して10日目にはそれっぽい物が出来上がり、その5日後にはなんとかカレーと呼べる物が出来た。
「なにやら食欲をそそる香りですね~」
匂いに釣られて洗濯籠を持ったままやって来たララが台所を覘く。
「大分近付いたけどね~、これ以上はまた次回か」と、エリアは匙を置いた。
「で、この茶色い粉は何なんです~?」
瓶の中の香辛料を見て首を傾げる。
「ああ、カレー粉だよ。これを使って料理を作るんだよ」
そう言うと鍋を取り出し、野菜の下ごしらえを始めだす。
「じゃあ、お昼は楽しみにしてますね~」
ララは洗濯物を干しに台所を出て行った。
ジャガイモ、玉葱、人参、肉を用意した。実際は葛城涼の知っている物とは少し違うのだが、味に問題は無い。
玉葱は飴色になるまで炒めて、一口サイズに切った他の野菜と一緒に鍋に入れ、水を足してコトコトと煮込んだ。
肉は別に茹でて軟らかくして、後から投入する。そうしないと臭みが残る肉なのだ。どんなに新鮮でも生では食えた物では無いらしい。
この時エリアは更に軟らかくなる様に魔法で蓋が外れない様に圧力を掛けて茹で上げた。魔法を使った簡易圧力鍋である。
茹でた肉を加え灰汁を取りながら更に茹でた材料に、試作カレー粉を投入すると調理場にカレーの匂いが充満する。
その匂いに釣られて先ずはララがやって来た。
「この匂い、先程のカレー粉ですか?」
好奇心と匂いに狩られて未知の料理にワクワクしている様子。
「そうだよ~♪まだ完成じゃないけどね~」
エリアも食欲をそそる懐かしい香りに、気分を高揚させ言葉が弾んでいる。そこに、ルルが飛び込んで来た。
「なになに?この匂い!」
始めて嗅ぐ匂いの筈なのに目が輝き、涎が落ちそうになっている。
「カレーだよ~」
「華麗?豪華な料理なの?」
うん、違う・・・。
「カレーと言う料理らしいですよ~」
ララが説明をしていると今度はリリがやって来た。
「何作ってるのっ?」
リリもキラキラと目を輝かせエリア見詰めて来る。
「リリちゃんもか!?」
「カレーって言う料理だよ!」
今知ったばかりのルルが自慢気にリリに説明する。
「加齢・・・?」
(いや、違う。と云うかそんな料理嫌だろう)
「カレーですよ、カレ~」
ララがお昼に食べられるからと2人を追い出した後、何か手伝う事は無いかと聞いて来たが、後は煮込むだけだからと断ると自身も仕事に戻った。
別の釜で米を炊きながら汚れた道具を片付ける。時折鍋を掻き混ぜ、程好く煮詰まった所でりんごに似た果実を摩り下ろして投入。更に煮込んで始めてのカレーが完成した。
「さて、味は?」
小皿に取ったカレーを舐めてみる。
「!?」
昔作った物に比べれば確かに深みや複雑な風味は足りない。足りないが其処には『カレー』と呼んでも問題無い物が出来上がった。
ほろリと自然と涙が浮かんで来る。この世界に来て始めてのカレーで有る。その辛さと美味さに感動も一入だ。
早速炊き上がった米とでカレーライスにしたい所だが、其処をグッと堪えてお昼になるのを待った。
その間に、エリアは手紙を書くことにした。
手紙に苦戦して、小一時間程掛かってしまったがどうにか書き終えると丁度お昼時となり、待ち切れなったルルがエリアを呼びに来たので昼食となった。
ご飯に掛けられたカレーを興味深そうに見入るリリルルと、皿を持ち上げて香りを嗅ぐララ。
「さぁ、食べてみて」
両手を広げて勧めるエリア。自分にとってもそこそこの出来で、更に懐かしい思い出の味だがこの世界の人の好みに合うかは未知数だ。
3人が其々スプーンで掬って、カレーライスを口に含んだ。
その瞬間驚きの余り、声を漏らす3人。
ララはその辛さと複雑な味に目を丸くしている。ルルは既にスプーンが止まらないといった感じで食べ進め、一口食べる毎に美味い、辛いと連発していた。リリも黙々と食べているが、手が止まらない所を見ると気に入ってくれたらしい。
「どう?美味しいかな?」と、聞くと透かさず「美味しい!」と答えてくれた。
「こんな風味の有る辛い料理は始めてです~」
「美味しいよエリア!これ最高!御代わり!」
「美味しい、もっと辛くても良い・・・」
皆好評だが、ルルはもう少し甘くして欲しいとリリと意見が対立していた。
2杯目をよそい3人に出し、ルルには生卵を掛ける事を提案した。
食べ終わった3人は大満足と言わんばかりにお水を飲んで余韻を楽しんでいる。
「3人に聞きたいんだけど、このカレーが街の人達の口にも合うかな?」
食器を片付けて、戻って来たララを交えて意見交換だ。
「美味しい、問題ないと思う」
リリは親指を立た。何故かドヤ顔だ。
「僕にはやっぱり少し辛かったな~。でも卵掛けたのは美味しかったよ!」
「味は問題ないと思いますが、子供には少し辛いかも知れないですね~」
アフィの家の台所を預かるララの意見は貴重だ。
「ボクは子供じゃないよ!」
口を尖らせている子供っぽいルルがかわいい。
「私達はエリアちゃんのお蔭で慣れてますが、普通の人は生卵には抵抗が有る人も居ますし」
確かにそうだ。となると甘口も作った方が良さそうだ。
更に細かい意見を聞いてエリアは味の調整と甘口のカレーも作る事にした。
ここからは、ララにも手伝って貰って次の日の昼には2種類のカレーが完成した。
リビングで4人がわいわいとカレーについて話していると、この家の家主が顔を覘かせた。
「賑やかだと思ったら、完成したのね」
「ああ、アフィにも食べて欲しいけど・・・」
「気にしなくて良いわよ」
強がりの中に少しの寂しさが香る。
「変身魔法とかで生身に変身出来たら良かったのに・・・」
本気で悩むエリアを見て、アフィがフッと笑う。
「私の変身魔法は見た目が変わっても、基本は変わらないからね」
そう、アフィの使う変身魔法は見た目を変わっても基本が変わらない、食べる事は出来る。しかし、味わう事は出来ない。
ハーピーになっても飛べないし、マーメイドになってもエラ呼吸は出来ないのだ。序に言えば大きく質量を変える変身も出来ない。
ファムや女王のやる変身は能力で、こちらは質量保存の法則など完全無視である。
「まぁ、ララが覚えていればいつか食べる事が出来るわよ」
手をひらひらとさせてアフィは本を片手に外に出て行ってしまった。
「エリア、気にしないで良いよ、何時かご主人は自分の体を手に入れるから」
アフィの研究の手伝いをしているルルは、誰よりもその事を確信している。
「エリアちゃんの作る料理は全部私が覚えますから、問題有りませんよ~」
「大丈夫、何時か皆でカレーを食べる」
リリはエリアの背中を軽く叩いて、確信に満ちたドヤ顔をした。
そして、この日外に出たアフィは姿を消し、丸1日帰って来る事は無かった。
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