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第三十一話 『意外な特技』

 ワーウルフの少年トゥクと知り合ったエリアはトゥクのお世話になっている教会で、アラクネの少女シスターキラファと出合った。


 「ああ!?エリアさん!」


 照れ隠しで顔に巻きつけた糸の所為で倒れたエリアに気が付いたキラファが糸を解いて助け出した事で、大事には至らなかったが危なかった。


 「ごめんなさい!ごめんなさい!」


 何度も頭を下げるキラファ。真っ直ぐに整えられた前髪が大きく揺れる。


 「ああ、うん大丈夫気にしないで」


 ぶんぶんと下げる頭を撫でて止めると、また赤くなって黙り込んだが今度は糸を吹きかけられずに済んだ。


 お茶を飲んで一息吐いたエリアは、まだ服に付いていた糸を取りながら教会の現状に話を戻した。


 「キラファさん、その病気の子を見せて貰っても良いかな?」


 「それは、構いませんが」


 「私も回復魔法が使えるから使ってみようかなって。あでも、もうキラファさんが試してるのか」


 「いえ、私は魔法が苦手で回復魔法もまだ弱く・・・」


 「そう、じゃあやってみる価値は有るね」


 エリアは立ち上がると早速エリアは病気の女の子の部屋に案内して貰った。 


 教会の奥、他の子達とは離れた一室にその子は寝かされていた。


 犬の顔をした魔人の少女が体を起こし、こちらを伺った。


 「エイナちゃん、体の調子はどうですか?」


 キラファが声を掛けるとエイナと呼ばれた犬魔人の少女は読んでいた絵本を置いて「今日は大丈夫だよ」と笑顔を作った瞬間、咳き込んでしまった。


 毛に覆われてるので、顔色は分らないが、呼吸だけでも苦しそうにしているのは分る。


 「今日はね、私の新しいお友達を連れて来たんだよ」


 キラファは扉から顔を出すと廊下で待っているエリアを招き入れた。


 「キラファお姉ちゃんのお友達?」


 「ええ、私はエリア。キラファさんとトゥクの友達よ。良かったらエイナちゃんとも友達になりたいと思ってお邪魔したの」


 手を差し伸べたが、拒否されてしまった。


 さっきまで楽しそうにお話してたエイナの顔が怯えた表情に変わる。


 「私に触ると、病気がうつっちゃうから」


 胸の前で自分の手を押さえてる。その申し訳なさそうな表情を見てエリアは少し辛くなった。


 「大丈夫だよ」


 エリアはエイナの手を両手で包み込むと、にっこりと笑う。


 複雑な顔をしているエイナの頭を撫でて、大丈夫、大丈夫だからと言ってエイナに纏わり付いている黒い靄を摘み取って食べた。


 そう、エイナに纏わり付く黒い靄。それは間違いなく呪いだった。何故エイナに呪いが掛かったかは分らないが、呪いを掛けた男の執着心だけは読み取る事が出来た。


 「呪いですか!?」


 エリアが呪いを引き剥がした事に因って容態が安定したエイナを残して、部屋を出たエリアはそこで、エイナに呪いが掛かっていた事、既に呪いを解除した事をキラファに話すと、涙を浮かべ倒れ込んで安堵の表情を浮かべた。


 「私が、私がもっと高度な魔法を使えたなら・・・解呪の魔法を使う事が出来ればあの子をあんなに苦しい目に遭わせずにすんだんですね・・・」

 

 キラファは肩を落して、落ち込んでいる。シスターとして、彼女らの姉として、彼女らに何も出来なかった事を悔やんでも悔やみ切れないのだろう。


 「キラファさん、あの子はもう大丈夫。後は落ちた体力を回復すれば元通り、元気になるよ」


 キラファの手を取りエリアはこれまでの頑張りを労う様に微笑んだ。そんなエリアにキラファは涙を浮かべながらも何度もお礼を言うのだった。


 「エリアさん、本当になんてお礼を言ったら良いか、本当に、本当にありがとうございます」


 祈りを込め深く頭を垂れる。


 「ううん、気にしないで。私は友達の手助けをしただけだから」


 既に元気に歩いているエイナに子供の体力凄いな~と感心しつつも手を振った。


 「ありがとう!エリアお姉ちゃん!」


 「本当にありがとうございました」


 「気にしないで、私達友達でしょ?」

 

 「はい!でもこの恩は必ず返します。何か困った事が有れば迷わず相談して下さい。私になにが出来るか分りませんが必ず力になります」と、硬く約束をしてエリアとキラファは分かれたのだった。


 

 

 王城のアフィの部屋に帰ったエリアは集めた資料を並べにらめっこを始めた。


 女王とファムに夕食に誘われたが、それもお断りして没頭していると2人がアフィの部屋へとやって来て、結局5人で食事を取った後、半時程で概要を書き上げた。


 「最初に言って置くけど、まだプロット状態だから、変な所とか有ったら教えてね」


 コホンと咳払いをして4人を前に朗読を始めた。


 「最初に旅の人間さんが現れた。人間さんが歩いていると急な突風に帽子が飛ばされてしまいました。風に飛ばされた帽子を取ろうと崖を登ろうとしますが、上手く登れません」


 「そこに、サイクロプスさん現れた。大きなサイクロプスさん高い崖の上の帽子をひょいっとジャンプして取り戻した」


 「ジャンプの振動で崖が少し崩れ足りもしましたが、『ありがとうサイクロプスさん』とお礼を言って2人は分かれます」


 「人間さんと分かれたサイクロプスさん、足元で鳴く小さな小さな小鳥の雛を見つけました」


 「サイクロプスさんの身長でも届かない高い高い木の上に鳥の巣が見えます。ジャンプをしたら届くかもですが、そうするとジャンプの衝撃で巣が落ちそうです。そもそもサイクロプスさんの大きな手では雛を上手く掴めません」


 「困ってるサイクロプスさん。そこにハーピーさんが現れた」 


 「話を聞いたハーピーさんが持っていた袋に雛を入れると飛び上がりました」


 「巣の側まで来たハーピーさんでしたが、驚いた親鳥が巣を護る為にハーピーさんを攻撃します」


 「親鳥の攻撃に耐え、傷付けない様に注意をしながらだった為、随分と時間が掛かってしまいましたが無事、雛を巣に帰す事ができました」


 「で、この後日が暮れて鳥目のハーピーさんが夜目の利くケットシーに助けられるって感じで話は進むんだけど・・・どうかな?」


 まだまだ、プロット段階の話を聞かせて皆の感想を待つ。


 「子供の為の物だし、内容も良いんじゃないかな」

  

 「お互い助け合おうって話は良いわね」


 「短所と長所もちゃんと書かれてるし問題はないかな?」


 と、大人達の感触は悪くない。が悪くないだけだ。


 「ファムちゃんはどう思う?」と聞いてみると「王子様やお姫様が出て来るのが良い」と、バッサリだった。


 「流石に私じゃ、これが限界かな~?」


 ズリズリと姿勢を崩して椅子からお尻が落ちそうになるまで体を沈めた。


 そもそも、葛城涼は作文が上手い訳じゃないのだ。というか下手である。正直ここまで書けただけでも奇跡なのだ。


 「取り合えず最後まで書いてからよね」


 アフィがズバリと言う。


 「りょうか~い」


 姿勢を正して座り直すとエリアは下書きを見直した。


 「じゃあ、後はエリアのお話の完成を待つと・・・」と、アフィが話を閉め様とした所でエリアがアフィの袖を摘んで止めた。


 「アフィ、一つ忘れてるよ」


 にこにことアフィの顔を見るエリアの微笑み。


 「・・・」


 アフィがエリアの顔を複雑な表情で見る。皮膚無いんだけど。


 「・・・」


 笑みを作ったまま、退かないエリア。


 「・・・分ったわよ」


 項垂れるアフィは別室から持って来た数枚の紙をテーブルの上に広げた。


 其処にはかわいらしい、人間やハーピー、人魚にケンタウロス等が描かれていた。


 しかも上手い!写実的ではなく、ファンシーでキュートでプリティーなキャラクター達。


 何!?この○ィズニーかサンリ○の様な可愛さわ!


 エリアは予想を遥かに裏切られたが、これは嬉しい誤算というやつだ。


 アフィの手を取ると「私の専属イラストレーターになって下さい」と懇願していた。

 

 

 アフィの絵に触発され、話を書くエリアと登場するキャラクターが決まる度に、キャラデザを描くアフィ。翌日には書き終えた原稿を皆に読んで貰って、意見を貰い更に改訂していった。


 アフィはその話に登場する人物のイラストを既に数枚上げてきてたので、こちらも全員の意見を元にデサインを変更していった。

           

 そして、お話が完成した頃、採取部隊が色々な素材を集めて帰って来たのだ。


 アフィのイラストも残り5枚。既に書き上がったイラストは職人に因って版画が作られている。


 活版印刷用の文字はエリアの用意した木製では無く、女王が鍛冶ギルドに作らせた金属の物が既に出来上がってる。


 エリアは早速、採集部隊を労いつつモウラを探したが「エリアさん!」と、先にモウラに呼び止められる。


 「首尾は?」と、聞くエリアに微笑んで「大丈夫ですよ、予定していた3種類無事収集出来ました」と答えた。


 製紙工場に運び込まれた材料は、工員に因って早速其々紙へと加工された。


 エリアも手伝いながら、4日後全ての素材の紙が完成した。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

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