第二十八話 『絵本』
王都リィンバイン。その王城に設けられたアフィの部屋にやって来たモウラとの会合は順調に進み、今は小休憩を取っていた。
「特許の話は、父達に丸投げしましょう」
このモウラの一言で話が付いたのだ。
・・・付いたのかな?
「エリアお姉ちゃん、お話終った?」
ファムがやって来て膝にもたれ掛かってる。
「う~ん、もう少しかなと」
疲れた頭を冷やす為、皆でお茶にする事となった。
「あ~むっ!」
ケーキを食べるファムを見て、皆がほっこりしているゆったりとした一時。
「所で、エリア様は作りたい本とか有るのですか?」
モウラがケーキを一口食べてから尋ねてきた。
「読みたい物は色々有るけど、別に作る方は・・・」
自分で本を作る。内容的にこんな本が作りたいとかはまったく考えていなかったな、と考えてたエリアの横でファムが元気良く、絵本!と言ってエリアを見た。
「ファムは絵本が読みたいです」
エリアとモウラを見て目を輝かせる。
「絵本か・・・ファムちゃんはどんなお話が好きなの?」
「えっと~、『龍とお姫様』と~『白馬の英雄王』と~」
指を折りながら思い出していく。
「でも、一番好きなのは『小さなお姫様』~」
顔が明るく輝く。
「あ~、あれは面白いですね、私も読みました」
モウラも手を合わせて賛同する。
「憧れるよね~、お姫様」
本物のお姫様が言っている。
「ふ~ん、こっちのお話は知らないから、今度読んでみようかな?」
「エリア様の国のお話って、どんなのですか?」
エリアの顔を見て目を輝かせ、興味津々で聞いている。
「う~ん、私の国のか~、昔話なら桃太郎とか浦島太郎とか、泣いた赤鬼とかかな?」
何処と無く上を見て思い出す。何せ絵本なんて、小学生の低学年までしか読んでないのだ。そう言えば、ア○パ○マ○も絵本か。
「モモタロウ?」
エリアの言った言葉に首を傾げるファム。
「そう、、桃太郎」
「桃っていう果物から生まれた男の子桃太郎が犬、猿、雉をお供に、悪い鬼を懲らしめて平和を取り戻す話」
内容を掻い摘んで説明するが雉が分らず、ちょっと大きな鳥と説明した。
「お話で子供に教訓を教える、そんな話って無いの?」
今度はエリアが皆に尋ねると「有るには有りますが、それは絵本でやる様な子供の話ではなく、教会の物語だったりしますね」と、モウラが答えてくれた。
「なるほど、じゃあ新しいお話を作って、絵本にするというのはどうかな?今度のベルタのお祭りで売ったら良い宣伝になると思うんだけど」
「其れを、この活版印刷で作ると・・・」
モウラは文字の彫られた木片を見て、何かを考えてる。
「出来れば絵も入れたいね」
エリアは考えを膨らませる。
「絵ですか・・・」
「文字ばかりだと子供には分り辛いし、字が読めない子でも絵だけで楽しめる様にしたい」
口元に拳を持っていって考え込む。
「文字と違って絵は全て手書きですよね?」
「版画にすれば、活版印刷に近い感じで作れるよ」
「成る程・・・」
また考え込むモウラ。口元に手を持って行くのはこの娘の思考スタイルの様だ。
「難しいかな?」
「問題は紙ですね。どうしても高いので・・・」
印刷された紙を持ってひらひらさせた。
「そうか~」
今度はエリアが考え込み、テーブルの上の紙を見た。
「・・・紙ってさ、どうやって作ってるのかな?」
「それは、特定の木から皮を剥いで、その皮から繊維を取り出すのですが・・・」
モウラは記憶を辿りながら話してくれる。
「それかな?」
難しい顔でモウラを見た。
「何がです?」
不思議そうに首を傾げるモウラ。
「紙が高い原因。私は専門家じゃないから、聞きかじったうろ覚えの知識しかないけど・・・」
前置きして自分の考えを話した。
モウラも専門家では無いし、アフィやルルも詳しい事は分らなかったので、後日紙作りの現状を見学する事になった。
「先ずは、工場で紙を作る工程を見せて貰ってからかな?私の知識の入り込む余地が有ったらその後、専門家を集めて意見を聞いて、職人に道具も作って貰わないと、それから・・・」
「待って待って、それ、全部にエリアが関わるの?」
今まで大人しく聞いていたルルが手を挙げ身を乗り出して聞いてきた。
「ん?楽しそうだし、そのつもりだけど」
さも当然と答える。
「それ、どれだけ時間が掛かるのよ」
アフィも呆れ顔で聞いきた。
「あ~・・・」
確かに、時間は掛かりそうだ。エリアの知識の入る余地が無ければ工場見学だけで終るが、そうでなければ想像もつかない。
「冒険者としての仕事も有るよ。あまり長い期間仕事しないと降格になっちゃう」
ルルが心配そうにしている。
正直ランクはどうでも良いのだが。ルルにはそうでもないらしい。
「専門家を集めて、仕事を割り振って貰えればそれ程時間は掛からないかと」
「それに」とモウラはにこやかに「最悪依頼としてエリア様に紙の材料集めとかして貰う、と云う手も有りますし。お仕事の方はどうとでも成りますよ」その笑みが不敵な物に変わった。
「モウラ、悪い顔に成ってるよ」とアフィの突っ込みに「あら?」と頬を押さえておどけて見せる。
モウラは席を立ち上がり「では、製紙工場の見学の申請と父に事業の発案報告をして来ます」と、言ってお辞儀をした。
「明日の朝には見学に行けると思うので、準備してて下さいね」
「分りました」とエリアが答える横で、ファムが元気良く「は~い!」と手を上げた。
((((あ、付いて来る気だ))))
其処に居る全員の心の声が重なった。
☆
次の日の朝、女王達との朝食に招かれた。
「アフィは食べれないけど、みんなは遠慮しいでね」
エプロン姿の女王様がうきうきで料理を運んで来る。
ここは王城の中でも最奥の物理的に強固な建物の中、何重にも張り巡らせた魔法結界に護られた扉の中の異空間に有る一軒家で王家のプライベートスペースとなっており、その広さは広大で空まであり、女王やファムが本気で飛び回っても問題ないとか。更にここでは臣下も王族も無いという事で家長である女王様が料理をしている。
テーブルにはアフィにエリア、ルル、ファムは席に着き、その横にはモウラが畏まって座っていた。
「ところで、なんでモウラはそんなに小さくなってるの?」
「え、そ、それは私の様な一役人がこの様な場所に招かれれば・・・」
目を泳がせている。
「それはね、昔ここで大きな悪戯をして怒られたからよねぇ?」
キッチンから大きな皿に載せられた子豚の丸焼きを持って、女王様がやってきた。
いや其れより、朝からその丸焼きは誰が食べるのでしょうか・・・?
気を取り直してモウラに、大きな悪戯?と話を続けたがモウラはだんまりだ。
「ファムと2人で部屋を1つ吹き飛ばしたのよ」
呆れ顔で語るアフィ。
「うう、黒歴史を掘り返さないで下さい・・・」
「それから、モウラはここに来るとこんな感じになるんだよね~」
けらけらと笑っている共犯者。そして、全員が席に着き楽しい朝食が始まった。
女王自ら調理した料理に舌鼓を打ちつつ会話が弾む。
「そう言えば、今日は製紙工場を見学するんですって?」
カップを置いて、一息吐いた女王が話を振る。
「はい、エリア様の知識で紙の生産能力と品質の向上が出来るかもしれないそうです」
「それは、素晴らしいわね」
「それでね、それでね、エリアお姉ちゃんが絵本を作るんだって」
口元にソースを付けたファムが嬉しそうに話す。
女王はファムの口元を拭きながら、絵本?と聞き返す。
「新しいお話を作るって!」
「まぁ、エリアちゃんはお話まで作れるのね」
「みんなが手伝ってくれるそうなので、大筋しか決まってませんが、ベルタでのお祭り迄に完成させたいと思っています」
「ベルタのお祭りね、私も行こうかしら?」と、手を胸の前で合わせて言うと「いや、あんたは最初から参加するでしょうが、主役なんだから!」とアフィに突っ込まれていた。
所で、女王様に“ちゃん”付けはやめて欲しいとお願いしたが、プライベートだからと丁寧に断られた。
☆
女王に見送られ、エリア達一行は製紙工場へと足を向けた。
因みにファムはお勉強で、不参加である。
工場の前にはドワーフの工場長、ドムントが待っていた。
「内務省のモウラさんとエリアさんですね。工場長のドムントです」
頭に巻いたタオルを取って、畏まった挨拶をしてくるドムント。内務省からの見学等滅多に無い事で少し緊張している様だ。
「はい、今日はよろしくお願いします」
モウラは軟らかく完璧な営業スマイルだ。
「では、ご案内します」
ドムントが先頭に立ち、モウラ、エリア、アフィ、ルルが続く。
製紙工場は高い塀に囲まれた広い敷地に作られていた。外には材料の木の倉庫に素材を水に漬ける溜池、室内に入ると木の皮を剥ぐスペースに、その皮を煮込む大きな釜が並んでいて凄い熱気だ。
茹でた皮を力自慢の種族が棍棒で叩き、ある程度軟らかくなった所で巨大な擂り鉢で擂り下ろしてる。
擂り下ろした繊維と糊を合わせて木枠で囲った簀の子で紙を漉くい、漉くった紙を別の簀の子に並べ乾燥させて完成だと説明してくれた。
「流石、国が経営してるだけに規模が大きいわね」
「紙を漉くのは何か面白そう♪」
と、アフィとルルは感心と興味を示してる。
完成した紙を見せて貰い、手触りや見た目を確認するとやはり品質が悪い。エリアの、涼の居た世界の紙に比べれば、だが。
「表面の粗さと白さか・・・」
紙を手に呟くエリアにモウラが、どうかしましたか?と訊ねてきた。
テーブルの上で紙を折りながら、エリアは気が付いた事を話す。
「やっぱり、素材の見直しですね。これは専門家の協力が必要だと思います」
「専門家ですか?」と訊ねながら、モウラはエリアの手元を興味津々に見ていた。
「そう、植物学者とか錬金術師とか、木工職人に園芸や花屋と云った木、植物に関わる人、後は植物系のモンスターに詳しい人とか、思いつく人なら誰でも」
「なるほど・・・」
さらさらとメモを取りながらもチラチラとエリアの手元を気にしている。
「アルラウネやトレントってこういう事にも詳しいのかな~?」と言った後、少し離れた場所に居たルルを呼んだ。
「何~?」
「ちょっと其処に居てね~」と手を振って、翼を調整すると「行くよ~!」と合図して完成した紙飛行機を飛ばした。
翼面の広い四角い紙飛行機はゆらゆらと浮き沈みを繰り返して、ルルの足元まで飛んでいった。
「なにこれ!?」
紙飛行機を拾って驚くルル。いや、その光景を見ていた全員が驚いた。
「ん?紙飛行機。何と無く作った・・・ん、だけ・・・ど?」
やっと回りの反応に気が付いて、エリアがしまった!?と云う顔をした。
「モウラ、ドムントさん。見学はもう良いので向こうで話を詰めましょう!」とエリアは慌ててその場を離れた。
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