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第二十一話 『龍を屠る者』

 「ダリウスさん、これは・・・」


 「ルルさん、このゾンビはこの村の住民と冒険者です」


 「後、攫われた子供達だね・・・」


 怒りと悲しみに顔を曇らせるルルの言葉に血の気が下がる。もう一度周りを見回したダリウスは亜人種の子供が妙に混じってる事に気が付いた。


 「じゃあ・・・」


 恐る恐る聞くダリウス。


 「各地で誘拐された子供達・・・」


 「!?」


 ダリウスは自分達が闘ったゾンビを見て嗚咽を漏らしながら涙ぐんだ。この中にはアクフォロンで行方不明になった子供達も混じっているのだ。


 「アイツは追わなくて良いのかな?」


 炎の魔法でゾンビと化した人達を焼き払いながらルルが呟くと「追うよ」と子供のゾンビを捕らえたエリアが戻って来た。と、その時奥の森の中で衝撃が起こる。


 ドオオオーーーン!


 響く轟音と魔力の波動。


 「これは?」


 剣に付いた腐食した肉を払い、近くに落ちていた布で剣を拭くリリ。


 「あいつが何かした様だね」


 眉を顰め村長宅の方を見る。


 「ボク達は行くよ、ダリウスさん達は退避してね」


 ルルは明るく笑ってダリウス達冒険者に手を振った。


 ダリウス達冒険者は顔を見合わせたが、リーダーのハルキスが前に出た。


 「いや、私も行く。パウオルを殺したアイツを許す訳にはいかない。皆はこの森を出て現状を伝えてくれ」


 何とかゾンビを倒し、疲労困憊の仲間達に無理はさせられないという判断だ。だがその気遣いは徒労に終る。


 「はぁ?何言ってやがる。リーダーを置いて逃げれるか。それに仲間をやられて黙ってられる程、人で無しでは無い」


 ドワーフの神官ドゥゾンは胸の前で手を組んで祈りを捧げた。


 「それに、アイツを野放しには出来ないからな」


 「子供を攫う様な外道は許さぬ」


 一人、また一人と立ち上がり戦う意思を示した。


 互いに頷き合って戦闘続行の意思を確認する。


 そんな熱い展開にルルが身を震わせた。


 「じゃあ、行くよー!」


 杖を高らかに振り上げ、全員にマジックウェポンとマジックアーマーを掛けた。


 「無理だと感じたら迷わず撤退。私達が指示しても同じ」


 リリは相変わらず、淡々と言い放って村の裏へと向かった。




 「・・・エリア」


 「なに?」


 そんな光景を複雑な思い出見送ったエリアは涙でグシャグシャになったファムの顔を拭いている。


 「私も行くわ、ファムの事お願いね」


 立ち上がりアフィが馬車を出ようとする。


 「え!?、いや、それなら私が向こうに・・・」と立ち上がったが「ダメよ、その子を護れるのはあなたよ、葛城涼」と真剣な顔で言われた。


 「・・・」


 何か言おうとしたが言葉が思いつかない、結局アフィに従うことにした。


 アフィが離れて直ぐファムが目を覚ました。タイミングが良い、そう言う魔法なのかもしれない。


 「ファムちゃん、私がわかる?」


 「はい・・・エリア様・・・」


 頭がスッキリしないのか頭を振った時、さっきまでの事を思い出したのだろう、一瞬で顔が青ざめ慌てて周りを見た。


 「タニア!?」


 取り乱すファムの肩をエリアが掴む。


 「聞いて、ファムちゃん、貴方のお友達はもう・・・」


 辛そうなエリアの表情に、ファムは現実を再度突き付けられ、心臓が、心が痛くなる。体が震え涙が溢れ出した。


 エリアはそんなファムを抱きしめ、優しく頭を撫でた。背中を赤ん坊をあやす様にポンポンと叩く。


 「う、うう・・・うわ~ん・・・」


 ファムは一頻り泣いた。


 エリアに抱きついて、わんわんと泣きつくしてヒックヒックとしゃくり上げながらゆっくりとエリアから体を離した。


 顔をエリアが綺麗に拭いてやる。


 「大丈夫・・・?」


 心配して顔を覗き込むと、ファムは、はいもう大丈夫です弱々しく答え唇を噛んだ。


 こんなに小さいのに、我慢をして気丈に振舞うファムを見て、エリアは遣る瀬無い気持ちになる。


 エリアはファムが落ち着くのを待って一つの建物に案内した。途中に転がるゾンビとなった人々の死体に気分が悪くなりながらも入った暗い部屋の中、ゴソリゴソリと動く気配があった。見れば其処には柱に括りつけられたタニア・・・だった物が前に進もうと足を動かしている。


 「タニア・・・」


 泣きそうな声。


 「アア・・・アアア~」


 濁った瞳でただ前へと進もうとする。足は地面で削れてその地面を赤黒く染めている。


 ファムの姿に気が付いたタニアは更に激しくもがいた。


 ファムはタニアの前で膝を落した。


 「ごめんね、どっか行っちゃえなんて言って。本気じゃなかったの。何処でも自由に行けるタニアが羨ましかっただけなの・・・本当に、ごめんね」


 下を向き涙声で懺悔する。


 膝の上の握り拳を震わせ、ファムはタニアを見上げた。


 「・・・さようなら」


 ファムはふうっと息を吐く様に口から青い炎を吐いた。


 燃えるタニアを見詰めるその瞳に何かを決意した、強い光りが見えた。



                ☆



 ジョン・スミスを追い掛けた冒険者達は村長宅の裏に作られた祭壇の前に集まっていた。


 「もう逃げられないぞ!」


 11人の冒険者とアフィ、リリ、ルルに囲まれた状況でもジョンは不敵に笑っていた。


 「逃げる?私が?ご冗談を、これからこの国を滅ぼそうと云う私が貴方達如きに逃げる訳が無いでしょう!」


 「国を、滅ぼす?」


 怒気を含むアフィの言葉に嬉しそうに口元を歪ませた。


 「そうです。こんな化け物共を人間と同列に扱う狂った国など私が滅ぼしてさし上げますよ」


 冒険者達を指差しあざけ笑うジョンに冒険者達の怒りが燃え上がる。


 「貴様ーーー!」


 ラウニーが杖を振り翳して呪文を唱えた。


 「大地の拳、ストーンバレット!」


 杖の先から拳程の大きさの石が10個程現れ、ジョン目掛け飛んでいった。

 

 だがジョンは避け様ともしなかった、それどころか微塵も動かなかったのだ。だが、飛んでいった石は全て祭壇の前で掻き消え塵と化した。


 「なに!?」


 驚いたハルキスが弓を放つと今度は地面から巨大な骨が現れジョンを狙った矢を弾き返すのだった。


 「なんだあれは?」


 巨大な骨はジョンを護る様に徐々に姿を現した。


 巨大な牙の生えた頭蓋、その頭蓋だけで軽く人の大きさを超えている。大きな角に太く長い首広い肩甲骨に其処から伸びる骨だけの翼。


 「あれは・・・」


 ケンタウロスの魔法使いゲルヴァは後退りながらその姿を形容した、ドラゴン・・・と。


 姿と共に溢れ出す禍々しい気配。鋭く巨大な爪を生やした2本の腕、棘の付いた太い背骨と背骨より太い足。


 瘴気を纏ったその姿が全身を現す。


 長い尻尾が鞭の様に振られ、有りもしない喉から絶望の咆哮が放たれた。


 オオオオォォォオオォォオオオォォォォーーーーーー!


 「ドラゴン・・・ゾンビ・・・」


 「Aクラスのアンデットモンスターか!?」


 ゾンビの大群で馬鹿になった鼻を物ともしない、その余りにも酷い瘴気に気圧されながらも神官達が神聖魔法を唱えた。


 「現世に囚われし魂よ、心の鎖を断ち切り彼の地へと誘わん、ターンアンデット!」


 しかし、アンデットに有効な筈の魔法は届かずその手前で霧散した。


 「はーっはっはっはっ!効かないね~。お前たち如きの呪文などこのグラージ・ドラゴンには全く効かないのだよ!」


 「グラージ・ドラゴン(呪い竜)?」


 リリがその禍々しい気配に顔を歪ませる。


 「そうです!私が何匹もの亜人やモンスターから作り出した究極のアンデットモンスター、グラージ・ドラゴン!」


 「何人もの亜人って?」


 「そうですね~、軽く150匹は超えてたと思いますよ~クククッ・・・」


 本当に楽しそうに笑うジョン。


 「貴様ーーー!」


 オーガのバズが魔法の掛けられた戦斧をグラージ・ドラゴンに有りったけの力を込めて投げ付けた。


 回転する戦斧はグラージ・ドラゴンの頭を粉砕して向かいの木に突き刺さる。


 どうだ!とガッツポーズをするバズ!


 グラージ・ドラゴンの顔の半分を粉砕した事に歓喜を上げる冒険者達。


 「なに!?」


 驚くジョンに、俺達を舐めるなよ!と仲間が叫んだ。


 「そ、そんなバカなーーー!?」


 驚愕の表情のジョンが悔しさの余り「くそ!くそ!くそー!」と地面を踏み悔しがる。


 「これでお前の野望も終わりだな!」


 勝ち誇ったディンだったが、地団駄を止めニッタ~とした顔を上げたジョンの笑いに身震いを起こした。


 「な~んてね、どうです?強大な力に勝った気分は?」


 「なん・・・だと!?」


 「ふふふ、では地獄を見せましょう」


 仰々しくグラージ・ドラゴンの頭を指差した。


 砕け散った骨がまるで逆戻しの様に集まり、壊された頭蓋を再生したのだ。


 この時に全員が気が付いた、このグラージ・ドラゴンが巨大な骨では無く、沢山の骨が集まって出来た物だと。其処には当然子供の物と思われる、小さなガイコツも幾つか混じっていた。


 「なんて酷い事を・・・」「外道が・・・」冒険者達が口々にそのおぞましい所業を侮蔑する。


 「すばらしい!流石私が手塩に掛けて生み出した化け物よ!」


 「再生能力か・・・」


 魔法は勿論、ターンアンデットも効かず、物理も再生能力で意味を持たない。

 

 「さぁ、こっちの番ですね」とグラージ・ドラゴンに指示を出す。


 グラージ・ドラゴンはその重たい頭を持ち上げ、振り下ろすようにブレスを撃った。


 「この!?」


 バズは投げた戦斧を回収する為に反対側に走り、盾を持っている者は掲げて自身を護り他の魔法が使える者は魔法の壁を出して自身を護った。


 アフィ達も魔法の壁で防いでいる。


 「どうにか凌いだ様ですね、しかし貴方方でこのグラージ・ドラゴンに勝てますかな?」


 ジョンは実に楽しそうだ。


 ここに居る冒険者はBランクが1人、残りはCとDランク。勝てない道理は無い。が、突破口も見当たらないのだ。しかし、グラージ・ドラゴンを放置も出来ず、悩んでいたハルキスにアフィが指示をだした。「逃げなさい」と。


 「しかし!?」


 アフィの実力はハルキスも聞いている。冒険者登録はしていないがSランクとの噂まで有る位だ。そのアフィが逃げろと言っている。しかし、今逃げ出した所で何人生き残れるか?それなら全力で抵抗して少しでもダメージを与えた方が・・・と云う考えはアフィに見透かされていた。


 「逃げる時間は私が稼いであげる。貴方達は1人でも良いから街に辿り着いてこの事を国に、女王に伝えなさい!」


 「くっ!?」


 ハルキスは逡巡したが諦めた様に項垂れた。


 アフィに「後を頼みます」と、それだけを搾り出して「全員撤退!死んでも街に戻ってこの事実を女王に伝えるぞ!」と号令を掛けた。


 「逃がしませんよ!」


 逃げる冒険者の背中にブレスを撃つグラージ・ドラゴン、だがそのブレスをアフィとルルの魔法防壁が邪魔をする。


 「やらせないよ!」


 ルルがウインクをして冒険者達に余裕だと安心を与えた。


 ルルはブレスに耐えながら冒険者が全員逃げ出すのを確認したが、見事な二度見をした。


 「えっ!?」


 冒険者が1人残っていたのだ。


 「ダリウス様!?なんで?」


 ルルが、さも当然とこの場に残ったダリウスを指差した。


 「恩人を捨てて逃げれませんよ」とダリウスはショートソードを構えた。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

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