第二十話 『人間至上主義者、神の子』
アクフォロンには寄らず、直接ハイネルセンを目指すエリア達。
そのエリア達より先にハイネルセンへと向かった冒険者達は予想だにしない状況に見舞われた。
「死臭がするな・・・それも凄い数だ」
顔を顰めた猪魔族のハーフであるダリウスが鼻を押さえた。
「人の気配は分らないが・・・行くしか無いか」
ダリウスのパーティリーダーのバルードが大剣を抜いて、一歩を踏み出す。
昼尚暗い森の中、その小さな村は有った。家屋は30件程、納屋や倉庫等と村の奥、広場の前には集会場も兼ねた少し大きな村長宅が有った。
3m程の木造の柵に囲まれたその村に人の気配は未だ感じられ無い。
村民が100以上、そこに冒険者が50は下らない数来ている筈なのにだ。
村の中を警戒しながら進む冒険者一行は異様な雰囲気に警戒心の針が今にも振り切れそうだ。
「気が付いてるか?」
「ああ、人の気配は無い。が村の外まで死臭がプンプン匂ってる」
ダリウスが鼻を利かせつつ周りを探ろうとするが死臭がきつ過ぎて、自慢の鼻がまるで役に立たない。
「注意しろ!何か出て来るぞ!」
エルフの男、ハルキスの言葉で完全に臨戦態勢に入った。
この冒険者パーティは4つのパーティを纏めた物だ。全体のリーダーは相談の上でBランクの冒険者で有るハルキスが取る事になった。
魔法使い、神官を中心に回りを戦士系で固めて陣形を組んで進む冒険者達。ハルキスも弓に矢を番えて周囲を警戒する。
ズルリ・・・。
建物の中から、何かを引き摺る様な音がした。
咄嗟にその方向に矢を向けるとゆっくりと扉を開ける手が見えた。
どちゃり・・・。
ダリウスが鼻を押さえる。他の者も溢れる死臭に嫌悪感を募らせ顔を歪ませる。
どちゃ・・・べちゃ・・・。
アアアアァァァ・・・。
声にならない声を上げる元村民だった男が、千切れた腕を持って姿を現した。
ずしゃ・・・べしゃ・・・と周りからも足音がする。その数がどんどん増えていき10、20と動く死体の数が増えていく。
「くっ!?撤退だ!一度村を、いや森を出るぞ!」
ハルキスは素早く指示を出す。
「バズ!ガルード!活路を開け!ダリウスも前に出て警戒を!神官と魔法使いは武器に魔法を掛けてやれ!後退!後退!」
Bランクはハルキスだけでとは言え、C、Dランクが殆どのこの4パーティは流石に統制が取れている。そして判断も早い。陣形を乱す事無く素早く後退を開始した。
速度は足の遅いドワーフのロバンニ達に合わせる。
「ロバンニのおっさん!早くしないと置いてくぞ!」
「うるさいわ!こっちはこれで全力じゃ!」
ドガッ!ドガッ!と一生懸命走るが、足の短いドワーフの体型ではどうしても遅い。
「へっ!なら何も気にせず前向いて走れよっ!」
横から出て来たゾンビに炎の魔法が付与されたナイフを投げ付けた。
ハルキスも出て来た村人ゾンビに矢を放つが、村人ゾンビは歩みを止めない。
「くそ!やはり矢は効きが悪い!」
言いつつもう一度矢を番えた、ハルキスは何か呪文を唱えて矢を放つ。
矢は寸分違わず村人ゾンビの太腿を貫き、燃え出した。
炎の精霊魔法を使って矢に炎の属性を与えて、目標に当たると燃える様にしたのだ。
苦しみながら悶え、倒れる村人ゾンビ。
「元村人だと思うと遣り難い」
ゾンビには炎や神聖系の魔法が効果が高い!このパーティにも神官や魔法使いは居るが、出て来たゾンビの数を考えると不利と判断したのだ。
もし、村人全員がゾンビ化していたら100体では効かないのだ。それを肯定する様に女性や子供が物陰や家の中から出てき始めてる。這いずりながら出て来た赤ん坊のゾンビに嫌悪感が跳ね上がり、全身の血が沸騰しそうになるが怒りに我を忘れる訳にはいかない。
「ゲルヴァ、ドローナ、後方警戒、殿を頼む!ラウニー!エンツ!2人の援護を!」
ハルキスは何かを感じた村長宅を見て、苦虫を噛んだ。後退戦は順調で村の入り口が見えた時、魔法で攻撃していたディンにしがみ付いていたアルラウネのリリアニーネが悲鳴の様に叫んだ!
「あれ見て!」
村の入り口の両横に有る家から、鎧を着けたゾンビが現れた。その後ろからも戦士や騎士、魔法使いや狩人等色々な格好をしたゾンビが入り口前に詰め寄せる。
「!?・・・突っ切るぞ!」
「「おうよ!」」
答えたバズは戦斧でゾンビを切り崩し、ガルードのハルバードが薙ぎ払う。
リリアニーネの土の精霊魔法がゾンビの動きを止め、ドゥゾンとユニの神聖魔法がゾンビを浄化していく。
だが多勢に無勢で次第に冒険者達が押され始めた。何とか入り口まで来たが、元冒険者のゾンビが行く手を遮る。
「クソ、数が多過ぎる!」
ダリウスの悪態を横でメイスを振るうロンバニが同意した。
「ぐう!?」
前方で誰かの呻き声が聞こえる、見ればガルードの足に倒れたゾンビが噛み付いていた。
「この!」
ガルードは残った片足で、ゾンビを踏みつけ、蹴り飛ばす。
「大丈夫かガルード?」
「ああ、ワシの防具はゾンビ如きに歯が立つ物じゃないわい!」
ユニが上空から、浄化の魔法ターンアンデットを連発していたがユニは絶望に囚われ始めていた。
ゾンビの数が尋常でないのだ。十重二十重なんてものじゃない村中にゾンビが溢れかえっていた。
ユニは空から見た状況をハルキスに伝えた後、同じパーティのリーダー、ゲルヴァの後ろ足に取り付いたゾンビを浄化したが状況が大きく変わる事は無かった。
死を恐れないゾンビの群れに呑み込まれ、組み伏せられパーティ全員が取り押さえられてしまった。
「くっ、ユニ、逃げろ!この事をギルドに報告するんだ!」
「でも!」
「急げ!迷うな!」
唯一空を飛んでいたユニは目に涙を浮かべながら断腸の思いで逃げ出すのだった。
魔法を使える者達は魔力が枯渇し、全員が傷を追い、武器を取り上げられ、ゾンビに押さえつけられた所で村長宅の扉が開いた。
「漸く静かになりましたか・・・一匹卑しい鳥が逃げた様ですが」
男はゆっくりと冒険者達を見下ろした。
「奇妙なマスクを被ったのが出て来たぞ」
リザードマンのバルードが舌をチロリと出して睨み付ける。
白い円錐のマスクに白いローブを纏った人物は囚われた冒険者達を見下しながら丁寧に挨拶した。
「始めまして、醜い冒険者諸君。私は神の子、ジョン・スミスです」
全員を見回して、お見知り置きをと頭を下げた。
「神の子!?貴方、人間至上主義者ね!」
兎人のパターニャが嫌悪の表情を顕にする。兎人族は少なくない被害を受けているし、神官としても許せないのだろう。
「3人程、神の子が居る様ですが、醜い亜人種共に組しているのが運の尽きでしたな、今からでも改心すると言うのなら助けて差し上げても宜しいのですよ」
パターニャを無視して3人を見下ろす。
「断る!」
はっきり否定する3人を不敵に笑って、亜人どもに組するからこんな目に会うのです。と大袈裟に嘆く様な態度を見せた。
「しかし、まさかこれ程の数の生贄が同時にやってくるとは・・・、私のコマが随分と減ってしまいました。可愛そうに・・・」と頭を振る。
「生贄・・・こんなにアンデットを増やして何を企んでる!」
「うっふ~気になりますか~、聞いた所で貴方達の運命は変わりませんが、聞きたいですか~ふふふふふ~」
醜悪な笑みを浮かべ上機嫌なスミス。
「貴方達は生贄です。この子達はその副産物でしか有りません!廃物利用と云う奴ですよ。どうです?素晴らしいでしょう」
「人の命をなんだと・・・」
ドゥゾンがギリリと奥歯を噛んだ。
「私達の命を何かの儀式に使うと・・・」
ラウニーが睨む。
「おやおや、察しの良い。その通りですよ~貴方達は贄なのです。今のままでも問題ないでしょうが、これだけ居れば最強のあの子を完全な状態に持っていけます。残った死体はアンデットとして私が使ってあげますよ~」
スミスは歓喜に堪えきれず下卑た笑い声を上げた。
「さて、お話はここまでです。あのハーピィが増援を連れて来る前にあの子の目覚めの儀式を始めましょう!」
両手を広げ天を仰ぎ悦に入る。そして、ゾンビを使役して移動を開始した。と、ジョン・スミスの視界の端に何かが映った。咄嗟に振り返り空中に漂う何かを見つけた。
「何ですかあれは?」
(げっ!?気付かれた)
冒険者達もジョンと同じ方向を見たが冒険者達の大半には何も見えなかったが、ハルキスとリリアニーネは何か居るのは感じていた。
「何?あれ」
「分らん・・・だが邪悪さは感じないな」
ハルキスは横に居たラウニーに目で合図した。チャンスが有れば動くぞと。
ジョンは何か分らないがその何かに魔法を放った。魔力を衝撃波として放つ魔法の弾丸、ブレッドだ。
その魔力弾を躱す何か。
「ほう、意思が有るのですね」
ジョンは魔力弾を連発した。がなかなか当たらずイライラしだした頃、その何かは飛んで逃げていった。
「何だったのでしょうね?あれは」と暫く眺めていたが、逃げてしまった物は仕方無いと興味を失い「それよりも儀式です。我らが念願成就の時ですよ~!」と意気揚々と歩き出した。
そして、ジョンが扉を開けた時、村のゲートで爆発が起きた!
「おや?今度のお客様は随分と派手ですね」
振り返ったその視線の先、爆発の中から飛び出す馬車、その馬車は骨で出来た馬に引っ張られ爆走している。
「みんな助っ人だよ!」
見上げれば、逃げた筈のユニが空を飛んで戻って来た。
助っ人らしきが起こした爆発を背に爆装する馬車。その馬車の上に少女が立つ。
ローブを派手にはためかせながら両手を差し出して呪文を唱えた。
「我願わん!炎の揺らめきよ爆炎の矢と成りて彼の者達を撃て!フレイム・シューター!」
その手から10本の炎の矢が放たれ、ハルキス達を抑えてるゾンビの頭を撃ち爆発した。
「今だ!」
拘束を解かれた10人の冒険者達が反撃を開始、まだ囚われてる仲間を解放していく。
馬車は冒険者達の手前で止まると、中から2人が飛び出した。
魔法で周囲を焼き払う少女に加え、長剣で切り裂く少女と双剣で切り裂く乙女、3人は群がるゾンビを薙ぎ倒し、冒険者達を解放した。
「ええい、忌々しい!」
最高の気分を害されたジョンは呪文を唱えると、魔法の槍を作り出し冒険者へと放った。その槍は無防備だったパオウルの背中を貫いた。
「パオウル!?」
「ふん!」
馬車の中に他の冒険者とは違う異質さを感じたジョンはゾンビを盾に村長宅に逃げ込んだ!
「エリア!」
逃げ込んだジョンを追うべくルルがエリアを呼ぶ。しかし、エリアは馬車から出て来たファムを必死に抱き止めていた。
「エリア、何が!?」
ファムは喚きながら暴れまくっている。本来かなりの力を持つ筈のエリアが必死に押さえてるのに振り切られそうだ。
「ファム、落ち着いて」
リリもファムを押さえるのを手伝うが2人を引き摺って、ファムは1歩、1歩と前へ進んでいた。
「タニア!?タニアーーー!」
ファムの視線の先、小さな少女だった物が蠢いている。生前は綺麗な黒髪だったのだろうが、今は見る影も無い。すべすべだった筈の肌も腐り爛れ蛆が這い、目は光りを失い白濁している。
(あの子が・・・)
その姿が不憫で目を背けたくなる。
「エリアさん!リリさん!?」
其処にダリウスが加わって、やっとファムの動きを止める事が出来たが、それだけだ。
「ファム、落ち着け!ファム!」
必死の叫びも届かない。
「タニアァァァーーー・・・」
顔を涙でグシャグシャにしながら叫び続ける。
「まったく・・・」
馬車の中、アフィが呆れた様に目を瞑り指先を振った。
キラキラと舞う光がファムの体を包むと、ファムは意識を失い力無くぐったりと倒れ込んだ。優しく受け止めるエリアはファムを抱き抱えて馬車の中へと戻って来た。
「アフィ、何を?」
ファムを椅子に寝かせてアフィを見た。
「眠らせただけよ、それより・・・」
外を見るアフィ。リリルルと冒険者の活躍でゾンビが駆逐されていく。
「ファムは私が見てるから、あのゾンビだけは捕まえて頂戴」
平静を装ってるも言葉に苦々しい物を感じたエリアは爆発しそうな感情を抑えて、ただ分ったと馬車を出て行った。
他のゾンビには目もくれず元村民や冒険者、連れ去られた子供達のゾンビの群れを越え、タニアと呼ばれたゾンビの少女に向かった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
ご意見ご感想等有りましたら気軽にお書き下さい。
作者が喜びます。
ほんの少しでも
・面白かった
・続きが気になる
と思って頂けましたらブックマークや評価をお願いします。
評価はこのページの下の【☆☆☆☆☆】をタップで出来るそうです。
※無断転載・無断翻訳を禁止します。




