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第十八話 『王都リィンバイン 散策(デート?)2』

 ワイバーンの空中遊覧の後、下着屋や服屋を回ったエリアとルルは更に服屋を少し回ってから、市場に入った。エリアが何か新しく作る料理に使えそうなものを探してる。ルルは後ろを付いて回り、これは、あれは?と質問に答えているだけのルルだったが、存外楽しそうにしている。


 その後は、王都でも有名なレストランで食事をしていた。


 昨日の冒険者の格好なら入れなかっただろうが、今日は普段着なのでギリギリセーフだ。


 ルルは小さく切り分けられた肉を一口含んで「ん~~~♪」と唸った。そこから零れる満面の笑みに、エリアも嬉しくなる。


 そんな風にルルを見詰め微笑んでるエリアを見て、気恥ずかしそうに頬を赤くした。

 

 「・・・なに?」


 「ううん、ルルちゃんが楽しそうで良いなって」と笑うエリア。


 更に恥ずかしくなったルルが、美味しいんだからしょうがないじゃないと言うと後ろから、「気に入って頂けて光栄です、マドモアゼル」と声が掛かった。


 ビックリして振り向くルル。


 「はい、とても美味しいです」


 素直に答えるエリアに声を掛けたシェフも嬉しそうだ。


 エリアも一口大に切られた所謂サイコロステーキを食べる。確かに軟らかくて美味しい。


 茹で野菜の炒め物も甘くて上品な味だ。


 思わず、ゴマのドレッシングが欲しいねと口に出していた。


 「ゴマのドレッシングって?」とルルが聞いてきた。


 「ゴマを磨り潰したソースかな?作りたくてもゴマが無くてね」


 残念そうに笑うエリアの話を横で聞いていたシェフが興味を持った。


 「そのソースはゴマが有れば作れるのですか?」


 「それが、ちゃんとした作り方は知らなくて、ゴマペーストに酒、醤油を入れる筈なんですが・・・」


 「酒は分りますが醤油とは?」


 興味深げに話を聞くシェフ。


 「酒と云っても私が言ってるのは米で作った透明のアルコールで、醤油は醗酵させた大豆を搾って作る黒っぽい色の調味料です。魚を醗酵させて作るやり方も有るらしいけど良くは知りません。味としてはしょっぱい感じです」


 「ふむ・・・」


 少し考え込んだシェフは少し待ってて下さいと厨房に戻っていった。程なくして帰って来たシェフが持って来たトレーの上には小皿に入った液体が数種類載っていた。


 「少し味見をして貰えませんか?」


 シェフはエリアのテーブルにトレーをそのまま置いた。


 「最初はアルコールから・・・」


 手前の5つのカップがお酒らしい。小さなスプーンと水洗いする為のカップも用意されている。


 エリアは1つづつ舐めてはその味を確かめていった。5つの中で透明な液体をもう一度味見して、この中ではこれかな?と提示する。

 同様に残った6つの皿も味見をして、醤油に近いものを提示した。


 シェフも同じ様に味を確かめてから逡巡したが「もし良ければ、ゴマドレッシングを作ってみませんか?」と持ちかけてきた。エリアはルルの方を見るとゴマドレッシング作ってきたら?と笑顔で言われたが、エリアはシェフの申し出を断る事にした。


 「ごまのペーストに今の2つを少しづつ混ぜてみて下さい。もしかしたら少し砂糖を混ぜた方が良いかも知れません」と知ってる限りの情報と、茹でた野菜や薄くスライスした豚肉をさっと熱湯に通した物も美味しいですよとアドバイスして食事を再開した。

 シェフは恭しく頭を下げお礼を言うと厨房に下がって云った。食事が終る頃飲み物の追加とデザートが追加された。シェフ自ら配膳して、最後にもう一度来店する事を約束させられた。


 「私なりのゴマドレッシングを作ってお待ちしております」


 凄くやる気に満ちた顔にエリアは今度はもっと作るのが難しい物を教えてみようか?等と考え、カリエで見つけた魚醤とベルタで見付けた日本酒を教えた。


  2人は中央の円形演舞場に戻って、そこで行なわれてる演劇を見ていた。劇は異国の王子と敵国の皇女の恋物語だ。子供にも分り易い様にコミカルに話は進み最後には感動のハッピーエンドで終った。


 一度洋服店に戻って、サイズの調整の終った服を受け取りルルはその場で着替えた。


 「どうかな?」


 少し照れながらも聞いてくるルルに凄く似合ってる、かわいいよと微笑んだ。


 そんな素直な感想にルルも照れる。

 

 店を出た2人はブラブラと街中を当ても無く歩いた。


 建物の間を抜け出た先に公園が有ったので、そこで休憩をする事にした。公園の入り口の店で飲み物を買って、2人で木陰のベンチに座る。

 

 エリアはハンカチを取り出してベンチの上に敷いて、どうぞと言って自分自身はロングスカートがまだ慣れないのか、バフバフとはためかせそのまま座ってる。


 ルルはと云うとエリアのハンカチが汚れるからと除け様としたら、その手を取られた。


 「どうぞこちらにお座り下さい、お嬢さん」


 にっこりと微笑んでルルをハンカチの上にエスコート。


 折角のかわいい服が汚れるといけないからと言われ、しぶしぶハンカチの上に座ったルルは(そういうとこだぞ)とエリアに聞えない様に呟いた。


 公園のベンチで2人してゆっくりと流れる時間を他愛の無い話で楽しんでいた。


 「ところでエリア、ううん涼は今後どうするの?」


 「今後?」


 「そう今後、この世界でどう生きていくの?」


 「今後ねぇ、取り合えずもっとこの世界の事を知って、一人でもやっていけると思ったら男性のホムンクルスを探すかな」


 「男性のホムンクルス?」


 「そう、アフィに頼んだけど、色々言って断られたからね。何時までもエリア、じゃ無くてレレか、この体を借りてるのも悪いしね」


 申し訳無さそうに笑って答える。


 「その為にも、もっと強くなってお金を稼がないと」


 双剣を構える様に両手を前に伸ばした時だった。


 バキバキと云う木の折れる音と「うわ!?うわ~~~~」と云う男性の悲鳴がエリアの頭の上でしたかと思うと、伸ばした両手の中に落ちて来た。


 「あたた・・・」


 突然落ちて来た青年をお姫様だっこしている形になったエリアもビックリして固まっている。そして、腕の中の青年と目が合った。


 「君は・・・」


 エリアはこの青年に見覚えが有った。


 (光の剣、アルト・ハイト・・・)


 青年の正体に気が付いた瞬間、エリアは、うわ!?と驚いて青年を放り投げた。


 放り投げられ地面に落ちた青年が立ち上がるより早くエリアはごめんなさい!と言い残してルルを抱き上げると走って逃げたのだった。


 「あの女性は・・・」


 地面に転がったままアルトはエリアを見送るしかなかったが、ベンチに白い物が見えた。


 エリアはと云うとルルを抱っこしたまま、街中を走り区画を3つくらい離れた所でルルに止められ、やっと走るのをやめた。


 「何だったの?あの男の人、エリアの知り合い?」


 少し困惑した顔で訊ねてくる。


 「知り合いじゃないけど、多分アルトさんだよSランク冒険者の・・・」


 答えながらも後ろを見てアルトが追い掛けて来ないか心配している。


 ルルはと云うと、アルトの名前に驚いたがそれまでで、何も言わなかった。と云うか今更ながらにエリアにお姫様抱っこされている状況に気が付いて、それどころではなく顔を赤くして固まってしまっているのだ。


 「エリア・・・その、もう大丈夫だから下ろして」


 「うん?ああゴメン・・・」


 ルルを下ろして、そろそろ帰ろうかと手を差し出した。


 「うう・・・」


 呻いたもののルルはエリアの手を取った。


 帰り道、お菓子を売っているお店でお土産の菓子を買って、小さな公園の中を抜け様と歩いていた。


 途中の大きな木の下に来た時、何か大きな影を感じてエリアは上を見た。


 バキバキバキと枝を折る音が迫ってくる。  


 (あ、うんこれ知ってる)


 エリアは両手を出して落ちて来た何かを受け止めた。


 「エリア!?」

 

 驚くルルを余所に、エリアは落ちて来た少女の様子を見た。頭を抱え、小刻みに震えてるが大きな怪我は無い様に見える。


 「空から落ちて来たお嬢さん、怪我は無いかな?」


 頭を抱えたままの女の子がビクリと体を強張らせてから、ゆっくりと目を開けた。


 目の前には水色の長い髪を大きく1つに編み上げた、ルビーの瞳の少女が心配そうに覗き込んでいた。


 「綺麗・・・」


 思わず呟いた少女はハッとなったが、エリアは貴方の金の瞳の方が綺麗ですよと微笑んだ。


 そう言われて少女は慌ててベールで顔を隠した。


 「痛い所は無い?怪我とかして無い?」


 「だ、大丈夫です」


 恥ずかしそうに俯いた美少女。


 そんな遣り取りを見ていたルルは、そんな所だよ涼・・・と一人、もう悟りと諦めの綯い交ぜになった様な顔をしたいた。


 ゆっくりと下ろして、服に絡んだ枝を取って汚れた服をはたいてやる。


 ルルも背中に付いた葉っぱを取って軽くはたいて汚れを落してやった。


 「よし、こんな物かな」


 微笑むエリアとルルに、ありがとうお姉ちゃん達と伏し目勝ちにお礼を言う。


 プラチナブロンドの髪、白い肌、ベールの横から覗くほんのり赤くした頬・・・って、これは・・・とルルは何かいやな物を感じた。


 「木登りは危ないから、気を付けてね」


 エリアは俯く少女の頭を撫でた。プニっと膨らんだ何かに当たった。


 (たんこぶ・・・じゃ無いよね?痛がってないし)


 「頭痛くない?大丈夫?」


 何処かでぶつけたのかも知れないと、聞いてみたが少女はコクリと頷くだけだった。


 じゃあ私達は行くね。と言ってその場を離れ様としたが、クンッと袖を引っ張られた。


 見ると少女がエリアのスカートを摘んでいる。


 「・・・お姉ちゃん達、冒険者?」

 

 「え!?」


 2人共今は普段着なので、一目で冒険者とは分らない筈なのだが。


 「どうしてそう思ったのかな?」


 ルルが横から顔を覗き込んで訊ねる。


 「なんとなく」


 「なんとなくか~」


 なんだ、根拠がる訳じゃないんだ、と思っていたら、だってあんな高い所から落ちて来た私を簡単に受け止めたからと言った。


 なるほどと思える理由にエリアは「そうだよ、良く分ったね」と頭を撫でた。


 頭を撫でられ、えへへと笑っている少女は、真剣な表情になると「私の名前はファム、私の依頼を受けて下さい」と顔を隠してたベールを上げて頭を下げた。その表情は幼女には似つかわしくない切羽詰ったものを感じる。


 顔を見合わせた2人はある程度話を聞いた後、問題を丸投げする事にした。

 


             ☆



 「「ただいま~」」


 夕方帰って来た2人をリリがお出迎えしてくれた。


 「ただいまリリちゃん」


 「お帰」えりと続けようとしてリリの言葉はそこで詰まってしまった。ルルの可愛い姿に驚き、エリアとルルの間で手を繋いでる少女を見て、更に驚いて続けて出た言葉は「その娘は一体・・・?」だった。


 リリはルルを捕まえて、どういう事?と迫っている。


 「ちゃんとリリの服も買ってるから」


 予想外の答えに不意を突かれ「あ、ありがとう・・・」と言ったが「ち、ちがう!?」と慌てて話を戻した。

 

 「色々と有ったんだよ~」


 リリに肩を掴まれ詰め寄られてるルルは呆れた様に笑っている。


 「アフィは帰ってる?」


 「帰ってるわよ、でも直ぐ出るけどね」


 姿は見えないが奥の部屋から声がした。


 「お客さんを連れて来たのだけど何か有ったの?」


 聞いたと同時にアフィが部屋から出てきた。お出かけ用の完全ガード状態で出てきたが、それでもファムが驚いた。 


 「アフィ、この子ファムちゃんって言うんだけど・・・」


 説明しながら振り返って見たらアフィが固まっている。


 「私達を冒険者として雇いたいらしいんだけど・・・ってアフィ聞いてる?」


 アフィの目の前で手をひらひらと振って見せた。


 アフィはエリアの手を押し退けると「良いわ、話を聞きましょう」と部屋へ戻っていった。



 アフィは椅子に座り、向かいのソファにエリアとファムが座っている。


 「で、エリアとルルを雇いたいって」


 「そう見たい、でもギルド通してないし良いのかな?って」 


 「まぁ、個人的なお願いとか有るし、問題は無いわよ。冒険者としての功績にならないけど」


 つまり、冒険者ランクには影響しないという事らしいが、エリアはそもそもランクを気にして無いのでそこは問題無かった。


 「で、依頼内容は?」


 視線を下を向いたままのファムに移す。


 「ベルタを経由してアクフォロンへ行きたいらしいんだけど・・・アフィ?」


 代わりにエリアが答えたが、様子のおかしいアフィに気が付いた。


 「ファム、お母さんの許可は取ったのかな?」と聞かれ、ファムの小さな肩がビクリとする。


 お母さん。この場合普通ご両親は?とか親御さんは?とかじゃいのか?何故、お母さん限定?


 「母は知りません、私の独断です」


 アフィは長い溜息を吐いた。


 「私が気が付かないと思った?」


 「・・・」


 ファムは黙ったまま服の裾を握り締めた。


 「フィーリア」


 エリアの知らない名前で呼ぶとファムは体を強張らせた。


 フィーリアと言う名前はリリルルも知っている様で驚いている。


 「はい、アフィおばさま・・・」


 小さく答えたファムの姿が変わっていく。魔法で姿を変えていたのだろう。最初より幼くなり、髪も伸びている。そして元々可愛かった顔が更に可愛くなった。


 「アフィお姉さんね」


 アフィは頭をボリボリと掻いた後、すくっと立ち上がり今日はここに泊まって行きなさいと言い残して何処かへ出掛けてしまった。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

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