第十七話 『王都リィンバイン 散策(デート?)』
ファニール王国王都リィンバイン、その街並みは正に活気に満ち溢れていた。行き交う人の多さも人種の多さもベルタの比では無い。
道は全て整備されており、大小様々な建物が有り巨人族にも対応しているものも多い。そんな建物の並ぶ街並みを人間は勿論、小人や妖精の様な小さな種族や竜人族やデュラハンなんて珍しい種族、サイクロプスといった大型の種族にラミアやアラクネと行った異形種までが歩いている。
恐竜の様な魔物が荷馬車や乗合馬車を引いていたり、空にはワイバーンや有翼の魔人、ハーピィが飛び交い、大きな籠を使って物を運んでいた。そして、驚いたのは人を乗せている者まで居る事だった。
街全体には綺麗に整備された大きな水路が走り、そこには人魚やセルキーと云った水棲種族が泳ぎ、ある者は水路を使った運送を担っている。
所々に水路の広場が有り、広めの広場では丸い演舞場が有っていて舞台ではセイレーン達が竪琴やハープを奏で歌を歌い歓声を浴びていた。
店には見た事の無い商品や食べ物、服や道具が並び、変わった動物や鳥も売っている。
エリアとリリの2人はこの街を堪能していた。
アフィとの合流時間までは自由にしていいとの事だった。と云う訳で気兼ねなく2人が気になった所を順番に回っていく。
2人は揚げたパンに肉と葉物野菜を挟んだ物を食べつつ、見世物を見物していた。
(きな粉って無いのかな~)
そんな事を考えながら歩くエリアとリリの前に冒険者ギルドが現れた。
「少し覘いて行こうか?」
コクリと頷くリリ。
2人は揚げパンを食べ切って、ギルド会館の扉を開いた。ベルタのギルドの3倍程有る広間に沢山の冒険者が行き交っている。
エリア達は近くのテーブルに座って、飲み物を頼み周りを観察した。
誰も彼もが強そうに見える。そうしているとリリがローブの裾を引っ張った。
「あそこ」リリが指差す方を見ると其処にはケンタウロスの男性が何かを飲みながら仲間の話しを聞いている。
「森の武官、アルグス・ケンタウリ、Aランク」
あれがAランク冒険者、とその姿と醸し出す雰囲気だけで圧を感じる気がする。
更にリリがエリアの横に来て腕に組み付き、あっち、と指差した。
其処に居たのは鬼人の戦士だった。
「爆撃の戦斧、ゲルオルド・バーガリー、あの人もAランク」と解説している時、フロアがどよめいた。
奥の部屋から出てきた金髪の青年だ。
「光の剣、アルト・ハイト・・・」
小声で言ったリリは何故かフードで顔を隠した。
「アルト・ハイト・・・」どこかで聞いたような?
「この国でたった1人のSランク冒険者」
「あれがSランク・・・」
先の2人の様な漏れ出る分りやすい感じはしない。軟らかい物腰の好青年だ。男の俺から見ても美形だな。とリリに耳打ちしたらリリは複雑な顔をした。
アルト・ハイトがギルドを出た後も30分程エリア達はギルドの中で寛いでいた。その間にAランクの2人も消えギルドの中が落ち着いた頃、フードを被った子供が依頼の受付カウンターに仕事の依頼をしているのが見えた。
程なくして依頼書が掲示板に貼り出される。するとゾロゾロと周りの冒険者達が集まり依頼内容を確認するとまた離れていった。依頼を受けてくれる冒険者を待つ子供を見て、ベルタでも同じ様な光景を見たなと思っていたが、まだ駆け出しっぽい獣人ばかりのパーティが依頼を受け出て行ったので、今回は直ぐに依頼を受けて貰って良かったな、と漠然と考えていた。
ギルドを出て街を歩く。綺麗な水路を泳ぐセルキーを見ながら鎚の音が響く方に足を向けると熱気の漂う区画に入り、更に進むと鍛冶屋街に出た。一軒一軒中を覘きながら歩いていく2人。店の商品や鍛冶の仕事を垣間見ながら行くと角から2つの影が飛び出した。
「わっ!?」「ぶっ!?」「きゃ!?」
1人はドワーフの子供の様でエリアのお腹に顔を突っ込み、もう1人はサイクロプスの女の子でこちらはエリアが肩を掴んで衝突を避けた。
目の前には大きな一つ目がパチパチとしている。
2人は慌ててエリアから離れて頭を下げた。
「「ごめんなさ~い・・・」」
大丈夫?とエリアは2人の頭を撫で、走っては危ないよ特に曲がり角はね。と窘めた。
ドワーフの子供は小さいながらもガッシリした体型に既に髭が生え始めている。
サイクロプスの娘はもっと幼い感じだが、既にエリアより少し背が高いくらいだ。女性とはいえ大人になれば4m近くなるのだからこの娘は人間で言えば5才くらいの感じかもしれない。
ドワーフの子が鼻の頭を打っていたのと、既に何処かでこけたのだろうサイクロプスの女の子は膝を擦り剥いていて涙目だったので、回復魔法を掛けてやるとドワーフの男の子は笑顔で「ありがとう!」と言って元気良く走って行った。
サイクロプスの女の子も何度も頭を下げて男の子を追いかけて行ったのだった。
「気を付けてね~」とリリと2人、手を振ってその背中を見送ってまた散策を再開する。
角を曲がり鍛冶街を抜けた先、開けた場所に出た2人の目の前にワイバーンが現れた。
突然、街中にワイバーンが居たので驚いたがその背中に鞍とそこに跨るリザードマンを見て飼い慣らされてる物だとホッとする。
一定の距離を取りながら、ぐるりと回ってワイバーンを眺める。
すると「嬢ちゃん達、乗ってくかい?」とリザードマンの男性が声を掛けてきた。
「え!?乗るって?」
「この街は始めてだろ?リィンバイン名物ワイバーン運輸の空の遊覧飛行はどうだい?」
どうする?とリリの顔を見るともうワクワクが止まらないといった感じで目を輝かせていた。
「じゃあ、2人分で」とエリアは諦めた。
エリアにとって飛ぶ事は特別な事じゃない。何せ霊体になれば飛べるのだから。
案内されたゴンドラにエリアとリリとが二人で乗る。本当は4人用らしいが他に客が居ないので2人だけだ。
座席に座ってベルトで腰を固定。リリのベルトも確り確認、それをリザードマンの女性の係員が再確認して準備が出来た。
「じゃあ行きますよ!」
巨大な翼を羽ばたかせ、ワイバーンが宙に浮く。低い高度を保ちながらゴンドラの上に来るとアーチ状の持ち手を掴んで空へ上がっていく。最初はゆっくりと、序々にスピードを上げ空へと舞った。
遠のく屋根が小さくなっていく。人も建物も街並みも小さくなって王都リィンバインを一望できる高さまで上がる。
余りの高さと浮き上がる感覚に途中から目を瞑って下を向いていたリリを安心させる為、その小さな肩を抱いて優しく囁いた。
「見てごらん、リリちゃん。リィンバインが箱庭の様だ」
ゆっくりと目を開ける。美しい銀色の瞳に映る目の前の風景に心を奪われた。
碧空の空に翆緑の大地、荘厳な白亜の王城とそこの広がる街並みがまるで精密なミニチュアの様に鮮やかで美しかった。
「綺麗・・・」
心から出た素直な言葉、優しい表情で目の光景に見惚れているリリに見惚れていた。
(ああ、本当に綺麗だ・・・)
遊覧飛行を終えて戻って来たエリア達をルルが待ち構えていた。その顔は不機嫌極まり無い。
予定が変更に成りもう1泊する事になったので、明日はルルと街を回る事を約束させられどうにかこうにかルルの機嫌を直した。
☆
翌日はルルと街を回るという事で、最初にワイバーン遊覧飛行をする事になった。朝のまだ涼しい空気の中の空の散歩はまた別の良さが有った。ルルも上機嫌で紫紺の瞳を輝かせている。
「凄いね、エリア!」
エリアの腕にしがみ付きながら興奮を押さえられずに思わず体がぴょんぴょんと弾んでいる。
柔らか・・・じゃなくて、揺れて怖いのでやめて欲しい。
「さて、この後はどうする?」
地上に戻って来た2人はぶらぶらと歩きながら次の予定を相談していた。
う~ん、腕組みをして考えるルルは「昨日はどの辺を回ったの?」と聞いてきた。昨日回ったのは大通りの見世物と冒険者ギルド、鍛冶街だ。基本街の東側に当たる。なら、とルルは街の西側を目指した。
アフィなら、「男がちゃんとエスコートしなさい」とか言いそうだが、初めての街だし、調べる時間も無かったしで簡便して欲しい。
大通りで暖かいスープを買って空の散歩で冷えた体を温めつつ街を練り歩く。
途中蒸かしジャガイモにバターを乗せた、所謂ジャガバターを買って食べながら水路に沿って西へ。
中央の演舞場に着くと今日はマーメイド達が水上での見事なダンスを踊っていた。そうするとスキュラに誘われて水上に連れ出されたルルは水上歩行の魔法を掛けらた様で水の上を歩きながらマーメイド達と踊っている。
キラキラとした笑顔で踊るルルや他の子供達にエリアも拍手を惜しまなかった。
「楽しかった~♪」
魔法で濡れた服を乾かして貰ったルルが笑顔で帰って来た。
「エリアも一緒に踊れれば良かったね」
「私はルルちゃんが楽しそうに踊ってるのを見れただけで満足だよ」
手の平で踊りを拒絶しながら笑顔で答える。
初めての水上円舞を堪能したルルはエリアの腕を引っ張って商店街へと歩いて行く。
商店を眺めながら歩いていく2人。ルルに引っ張られ、その中でも華やかな様相の店の扉を開くとそこは女性用下着店だった。
「ちょっとルルちゃん!?」
動揺して慌てふためくエリア。
「何?」とキョトンとするルル。
「何ってここはちょっと・・・」
エリアの顔が赤い。
「女の子同士だし問題ないよ」
ルルに容赦は無い。それに今日は付き合うと言ったと恨めしそうに見られると何も言えなくなった。
今の姿はエリア。完全な女の子なので店の中に居ても変な目で見られる事は無いが、こっちは目のやり場に困る。
だが、何時に無く楽しそうに商品を探しているルルを見ているのはエリアも楽しかった。
ただ、手に持ってる物はまともに見れないが。
あまつさえ「ねぇ、どっちが好き?」と下着を翳す。ルルちゃん!大声に出しそうになったが押さえて、はしたないからやめなさいと諭した。
周りからはクスクスと笑い声が漏れ聞こえてくる。
「じゃあ、試着するから待っててね」と幾つかの下着を持ってフィティングルームに入っていった。エリアはルルが閉めたカーテンを背に立ち、溜息1つ。自分でも着てるのだから多少は慣れたつもりだが流石に疲れる。
いや、慣れちゃダメなのでは?男として。
しかし、色々有るもんだな。形も色も千差万別の商品にクラクラする。と目を押さえてると後ろからルルが声を掛けてきた。
「エリア、エリア!」
少し逼迫した雰囲気に振り向いて、どうかした?聴いた瞬間、勢い良くカーテンを開けられた。
「どうかな?」と少し大胆な下着姿でポーズを取るルルに思わず、「はしたないからやめなさい!」と声が出てしまった。
遂に隠す事無く湧き上がるクスクスと云う笑い声に、エリアは真っ赤になって下を向いてしまった。
「お客様、もう少しお静かに」
そう言ってきた店員もきっと仲の良い姉妹がふざけてるあってると思っているのだろう、目が優しく笑ってる。
更に2着試着したルルがエリアに見せ、どれが良かった?と聞いてきた。
「ルルちゃん・・・」
疲れきったエリアだったが、どうしても選んで欲しいとせがむので、ちゃんと考えて再び顔を赤くしながらオレンジのと答えた。
その姿を見て満面の笑みを見せたルルが自身も顔を赤くしながら、「じゃあ、これ買って来るね」と下着を翳してレジに向かった。
天国と地獄を垣間見た気がしたエリアは今度は隣の店に連れ込まれた。
こちらは普通の服屋だが、やはり女性専門である。こちらでもルルのファッションショーが始まりエリアは審査員となって評価を下していく。
その途中エリアが良いと言った衣装にルルがえっ!?と驚いた。それは冗談半分で来たヒラヒラフリルのかわいいワンピースだったからだ。
「これはボクには似合わないよ~」
ルルは照れたが、エリアは気に入って店員を呼んで話をしている。
ルルはワンピースを脱ごうとフィッティングルームに戻ったが直ぐにカーテンを開けられた。
「きゃっ!?」
エリアが開けたのかと、慌てて脱ぎかけた服で隠すが、其処に居たのは綺麗な店員さんで、細かい調整をするのでちゃんと着て下さいね~と、ルルの着付けをして採寸と調整を始めた。
「2着なのでお引渡しは昼過ぎになります」
引き換え用紙を受け取った。1着は色違いで胸のサイズだけルルが口頭で変更して貰ってる。
「あんなのは僕達には似合わないと思うんだけどな~」
少し不貞腐れてるルルの頭を撫でながら、「二人ともかわいいんだから絶対似合うよ」と笑った。
後これ、と差し出した小さな包みを手渡す。
「なにこれ?」
ルルに問われたエリアは照れながら、「柄じゃないし、どんなのが良いかも良く分らないんだけどね」と包みを開けてルルの首に手を回して着けたのは、小さなペンダントだった。小さな青い宝石が填った金のリーフの意匠が美しい。
急に正面から首の後ろに手を回されたルルはそれ所では無かったが、ハッと我に帰り胸元のペンダントに見入った。
「え・・・これ!?」
「ルルちゃんにプレゼント、リリちゃんには内緒ね」と口元に人差し指を持っていって微笑んだ。
(うん、こういう事をするのに自覚は無いんだよね)
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