第十六話 『旅は道連れ世は情け、茜色の双丘』
今、エリアは馬車に揺られてベルタの北にあるファニール王国の王都リィンバインを目指していた。メンツは留守番をしているララ以外の4人である。今はリリが手綱を取っている。
「所で御主人、今回は何で王都に?」
キリッとした表情で真面目に質問しているが、格好はと云うとエリアに抱きついてる。
「ん~、ちょっとした用事よ。昔馴染みに呼ばれてね」
「なるほど」
そう言っただけで、興味を無くしてしまったのかルルは黙ってしまった。
「え~と、ルルちゃん離れてくれないかな?」
腋に当たる軟らかい物が気になって仕方が無い。
「良いじゃないか?久々のお出かけなんだし。それにリリの邪魔も無いし」と、にししと笑ったが、交代した後今度はリリが横に座って、ルルが悔しがるという光景を繰り返していた。
因みにエリアが手綱を持っている時はリリルルに挟まれる形になっている。後ろの方が広いだろうに・・・。
「しかし、大した懐かれっぷりよね」と少し語気が荒い。
「全くだね、なんでなんだろう?」
エリアも苦笑いをしている。
「なんでって?」
顔を上げエリアを見るリリ。
「決まってるじゃない」
同じく顔を上げるルル。
「エリアは私の妹じゃない」
「・・・かっこいい」
「かわいいし!」
「助けてくれたし・・・」
「甘やかしたい!」
「嬉しかった」
二人の感想が微妙にずれてる気がするが、間に挟まれ逃げ場も無くそんな事を言われてるエリアは恥ずかしくなって、黙り込んでしまったが「何より、魂の色が良い」「魂の香りが好き」と妙な感想に流石のエリアもビクリとなった。
「え、魂ってなに?」
少し恐々で二人に聞き返すと。
「側にいると気持ちい良いんだよね~」とルル。
「とても安らぐ」とリリ。
「このロリコン!」とアフィ。
「いや、その感想はおかしい!」
ってロリコンって言葉この世界に有るの?
気を取り直して「魂がどうのってどういう事?」と聞くと「あんたは基本霊体だからね。憑依してても霊体としての波動の様な物が出てるのかもね」と解説してくれる。
「波動・・・」
自分の体を見てみるが分らない。
「それをこの子達は色や香りと表現してるのかも」
「それってアフィにも見えてるの?」
「私はオーラの様な物を何と無く感じる程度よ」
「ふ~ん意外だね。アフィならもっとはっきり見えてると思ってた」
「私も普通の魂ならもっとはっきり見えるわよ。でもあんたはイレギュラーなんだからしかたないじゃない」
どうもさっきからアフィの機嫌が悪い気がする。
「しかし、この状況は余所から見てどうなんだろう?」
偶に擦れ違う御者や旅人にどう思われてるのやら・・・エリアは完全に観念した表情で空を見る。
「さぁね、でもその子達は基本あんたを男として見てると思うわよ」と、呆れた様に溜息を付いた。
「へ!?」
エリアが間抜けな声を出して振り返った。
「あなたはまだ自分を男と思ってるんでしょう?」
確かに自分自身はそう思っている。エリアに乗り移ってる間は女性の様に演じているが基本は男、葛城涼だ。
「さっきも言ったでしょう?その娘達はエリアの体じゃなくて、魂、葛城涼をちゃんと見てるのよ」
・・・エリアこと、葛城涼は唖然としていた。
「しょ、衝撃の事実なんですが・・・」
涼はてっきりエリアとして慕っているのだとばかり思っていたのだ。
涼自身2人を妹の様に思っていたし、2人の態度も仲の良い姉妹はこんな物なのかとなんとなく思っていた。ルルは妹だと実際言っているし。
涼が二人を見ると、ルルはえへへ~と笑っているが照れているのが分る程度に頬が赤い。反対側のリリはと云うと真っ赤になって完全に下を向いている。
(ええ~!?)
困惑から思考が追いつかない。
ルルに手綱を代わって貰って後ろに下がったエリアは項垂れた。
「気にする事無いわよ」
言ったアフィは何故か、してやったり見たいな顔で少し機嫌が良くなっている。
「おのれ・・・」と、恨み節。
「って云うか気が付いていない事にビックリよ」
「エリアの体なんだぞ、仕方無いだろ!」
「鈍感!」
「あんまり経験無いんだよ!」
「私だってそうよ!」
そう言ってハッと口元を押さえた。ゆっくりエリアの方を見るとエリアがニンマリとした顔をしている。
「なによ?」
「別に・・・」
表情が無い骨でも顔を真っ赤にしていると分る対応に顔が緩む。
まぁ、赤くなる皮膚無いんだけど。
「ふん!」
分り易い照れ隠しで横を向いて頭をポカリと叩いた。
恥ずかしがりながらも、そんな2人の遣り取りを背中で楽しむリリとルルだった。
☆
エリアが馬車の旅に慣れた頃、ルルが元気に声を上げた。
「見えてきたよ!」
馬車の前に行くと道の先、まだ遠く霞んで見えるが大きな尖塔が見えてきた。
近付く程に尖塔の数が増え、それらを繋ぐ巨大な壁が見えてくる。
巨大過ぎて全てを見る事は出来ないが、12本の尖塔と巨大な壁が街を護っていた。エリア達の進む街道が続くその先には巨大な門も見えている。その前は行きかう馬車で既に大賑わいだ。
当然検問での待ち時間も長い、その間周りを観察していると色々な職業と種族で溢れてる。その中にエリアは見知った顔を見つけた。
「ダリウス様!?」
ダリウス・グロイド。デリフォス法国との国境の街アクフォロンの子爵の御子息だ。
「エリア殿とルルさんっ!?」
意外な反応を見せた!ルルさん?
「ルルで良いてば~」
笑いながら手を振っている。
「え!?知り合いなの?」
「昔、モンスターに襲われてた所を助けた事が有るんだよ」
ふふん♪と少し自慢気に笑ってる。
そうか、ダリウスはリリの事を知っていたのだ、実際有った事が無い様だったから話だけ知っていたと云う所か。でリリの顔と名前で気が付いたんだ。だからあの時あんな反応をしてたのか、と今頃納得した。
「まだ駆け出しで、調子に乗ってた鼻を圧し折られたんですよ」
頬を掻き、恥ずかしそうに笑っている。こんな気さくな感じの人だったのか。
「こんな所で何してるの?」
アフィが顔を出すと驚き、恐縮して身を強張らせた。
「アフィ様!?とリリ様まで」
「様は要らない」
ジト目で云うリリに、ではリリさんでと言って頭を下げた。
「あの時は大変失礼しました」
「もう良い、そっちも被害者、気にして無い」
「そう言って貰えると助かります」
再び頭を下げるダリウス。
「で、ダリウス様は何故王都に?」
「仕事ですよ、冒険者としての仕事と父に代わって国への陳情です」
陳情と聞いてエリアはあの事件を思い出す。
「もしかして子供達の誘拐事件ですか?」
「えっ!?あ~、流石です良く分りましたね」
ダリウスは一瞬はぐらかそうと思ったが、直ぐに思い直して「内緒ですが」と前置きして話を始めた。
ここ何ヶ月かアクフォロン近郊やデリフォス法国の村等で人攫いが横行しているらしいのだ。最初は普通の失踪事件かと思っていたが、普通の失踪事件も各地で毎月毎月続けば可笑しいと気が付くのも当然で国も動いてるらしいが、情報が今一つ降りて来ない上に進展も見えないのでロウレン子爵の代わりに国の対応の状況を聞きに来たと云う。
ただ、行方不明者は子供だけでは無いらしい。
「子供だけじゃない?」と考え込むエリアに言って良いのか逡巡したが、もう1つ共通点が有ります。と言って近付き周りを気にしながら「人間族以外が狙われてます」と小声で教えてくれた。
「お~い!」
そこでダリウスの仲間から声が掛かった。
「皆さんなら大丈夫だとは思いますが、お気を付けて」
頭を下げ、走って仲間の所へ戻っていくダリウスを見送りながらも考えてしまう。
「・・・」
自分が悩んだ所で何か解決する訳じゃないと言い聞かせながらも、悶々と考えていたエリアに思わぬ情報が舞い込んで来たのだ。
☆
ダリウス達に遅れる事30分程でエリア達は門を通過した。検問はアフィの手形で1発通過、偉そうな警備兵に何か言われてた様だが問題はなかったみたい。今回もアフィはローブとベールで顔を隠している。
馬車を預けた後、アフィ一行は中央通りに出た。
「さて、私は用事が有るから行くけど、あなた達はどうする?」
そう聞かれリリとルルがじゃんけんを始めた。その表情は真剣そのものだ。
「リリ、ボクの方が勝ちが多いの知ってる?」
胸を張り不敵な笑みでリリを見下ろすルル。
「いざという時の勝率はリリが上」
リリも自信満々だ。
構えて睨み合う2人。
「ボクはグーを出すよ」
ルルが出す手を宣言して心理戦を仕掛けてくる。
「ならリリはパー・・・」
リリも無表情で告げる。
その真剣さに思わず固唾を呑んだ。
「じゃ~ん」「け~ん」
「「ぽいっ!」」
繰り出された手はルルのパーに対して、リリの手はチョキだった。
「うわ~!」
叫んで膝から崩れ落ちるルルとチョキを高々く上げて、ふふんと勝ち誇るリリ。
勝敗は1発で決まったのだ。
「エリアは王都を見て回ると良いわ、色々有って楽しいわよ」
何故か上機嫌でそう言って手を振るアフィは、じゃあ行くわよと歩き出した。
「は~い・・・」と力無く返事をしたルルに「私の方が負けなの!?」と驚いて少なからずショックを受けていた。
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