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第十話 『武具屋カエン』

 陽気な日差しの中、馬車に揺られエリアは地方都市ベルタに向かっていた。その横にはリリが座り、馬の扱いの教官をやっている。この世界では馬車や馬の扱いに慣れるに越した事は無いとベルタの街までの間、練習する事にしたのだ。  


 ゆっくりと進む馬車、その穏やかな日常をリリはエリアの横で満喫していた。


 ベルタの街手前でリリに交代し街に入る。

 

 今日ベルタに来たのは、先日ロウレン氏より頂いた口止め料、もとい迷惑料で装備を買い揃える為だ。

 

 結局エリアはその身体能力の高さを使って冒険者としてお金を稼ぐ事にしたのだ。リリルルのお蔭で基本的な訓練は終っているし、冒険者としても十分やっていけるとお墨付きも頂いた。後は無理せず少しづつ実戦で経験値を積むだけだ。


 で、今はリリの案内で武具屋に向かっている訳である。


 「ここは道具屋、冒険に必要な薬や道具を売っている。ここは魔法屋、スクロールや魔道書、魔法による鑑定なんかもしている」


 今日のリリは饒舌だ。馬車で進みながら店の解説をしてくれている。


 街の東側、武具の店と工廠が並ぶ通りに差し掛かると店の外まで熱気が襲い掛かり、鎚で鉄を打つ音が鳴り響く。


 そして、リリの案内で初心者でも安心の武具店『獅子の翼』にやって来た。最初リリルルもここでお世話になったらしい。


 ギィ・・・と開き戸を開けると其処には様々な武具が並んでいた。


 「ここは初心者用の物から、そこそこの上級者が使う様な良質な物を売っているお店、しかも質が良い」


 「へ~・・・と店内を見回す」


 安い物は棚や箱に無造作に入れられ、値の張る高級品は壁に飾られている。


 「じゃあ、リリみたいな上級者以上の人は別の店に行くんだね」


 「そんな高級品を作れるのはこの街ではドワーフのドランさんとバズさんのお店しかない」


 「ドワーフ、あの鍛冶や物作りが上手い!魔法の掛かった装備とかも有るのかな?」


 前世で聞いた事の有る種族名に心が踊る。 


 「魔法の武具は珍しい、ダンジョンや古代遺跡で偶に見付けるか国に数人しか居ない職人に頼むしかない」


 「へぇ、魔法の武具が買えるんだ」


 「凄く高い、コネで作って貰った方が早い」と、少し苦い顔をした。


 「そんなに高いのか~」


 壁に架かった高そうな装飾の入ったロングソードの価格を見て、げっ!?と驚いた。


 「コネなんてそんなの無いし、魔法の武具は夢のまた夢だね~」と、項垂れていると、ちょいちょいと裾を引っ張られた。


 屈むと耳元で(当ては有る。良い武器を手に入れて主に頼めば良い)と小声で言われた。耳がこそばゆい。


 (アフィに・・・ああ、そうかアルケミスト)と小声で耳打ちすると耳まで真っ赤にしながらリリは頷いた。


 「ただ魔法を付与するにはそれなりの品質が必要で、強力な魔法を付与するなら出来るだけ良い物を手に入れないとダメ」


 「そんな高級品は無いが、新人には過ぎた商品も有る。もしかしたら未来の名工の品だって混じってるかもしれない。冒険者になるなら自分の道具は自分でしっかり見極めるんだな」と、後ろから豪快な声がした。


 振り向くエリアとリリの前に身長は低いがどっしりとした筋肉質の体に髭を蓄えた男が立っていた。


 「こちらはこの店の工匠、カエンさん」


 「始めまして、エリア・アーハートです」と、少し興奮気味に手を差し出した。


 カエンは正にさっき話したドワーフなのだ。


 すると「おう!」とカエンも手を取り握手を交わす。


 「俺がここの主、カエン・バドルドだ」


 ニッと笑うその歯は白く焼けた肌とのコントラストが印象的だ。


 カエンの案内で先ずは防具から見せて貰った。アフィの言葉通り自身を護る鎧は良いものを買って残りのお金で買える最高の武器を買うと決めて来た。


 「で、嬢ちゃんはどんな防具をお求めかな?」


 「軽くてそれなりに丈夫な物、良質のブレストアーマーとガントレット、レッグアーマーとヘルムは簡素で構いません」


 「ふむ、軽戦士という事かな?」


 「そうですね、武器は主に双剣のつもりなので防具は動きを余り阻害しない物が良いです」


 「でもブレストアーマーとガントレットは良い物をか・・・」


 「ガントレットはシールド代わりに使えるくらいの物が有れば良いのですが」


 「ふむ、結構無茶を言うな・・・だが、無いわけじゃあない。結構値が張るがの」


 「ブレストアーマーとガントレットはこいつかな」


 カエンの出してきた防具は胸と首周りを護る白いブレストアーマーと拳の部分には爪の様な棘が2本有り、そのまま殴っても痛そうな形をしている。腕部分は3枚の装甲で構成されたまるで竜の甲殻の様な意匠の青いガントレットだった。と、どちらも高そうである。

 赤い膝当てとバンダナ風の額当てが出てきた。額当てと言っても側頭部と後頭部にも鎧が施されている。


 ・・・この後頭部の形はポニーテール用かな?


 膝当ては丸いお椀型の物だが、棘が2本ついている。 


 膝当てとガントレット以外は女性用とあって何処と無くデザインが凝っている。


 「あとこいつもかな?」


 さらに銀色の腰アーマーも出て来た。


 確りしたベルトに下腹部と両サイドに小さめの鎧が着いている。腰アーマーは要らないかと思っていたが、これなら余り重くも無いし、動きの邪魔にもならないだろう。


 隣の着替え用の部屋で装備を付けてみる。多少のサイズの調整は要るけど問題無さそうだ。ただ膝当ては棘の無い普通の物に変えて貰う事にした。レッグアーマーはブーツの前面を硬い皮で強化した軽く簡素な物にして、それ以外はカエンさんのオススメをそのまま買う事にした。値段の方も少し負けて貰った。


 女性店員にサイズのチェックをして貰って、手直しを頼む。


 「・・・色が変」


 「何、リリちゃん?」


 「防具の色がバラバラ・・・」と不満そうに言った。


 「ああ、なら塗り直してやるがどうする?」


 カエンは言ったがタダでは無いので断ろうとしたら「お金は私が出す。ブレストアーマーに合わせた白で」とリリが財布を出した。


 「いや、良いよ色くらい・・・」


 「ダメ、そんな変な色の組み合わせ私が許せない」


 頑として拘るリリ。2人の押し問答を聞いていたカエンが大笑いした。


 「ははは!リリ嬢ちゃんの方がレディだな!分った、色変えはサービスしてやる。だから武器は良いものを買ってくれよ」


 そう言って武器の棚の方を親指で差した。


 「でも・・・」


 エリアが畏まるとカエンはお前さんが強くなってもっと高い物をここで買ってくれたら良い、とまた笑った。


 最初に言った通り武器の種類は最初から決まっていた。


 『双剣』早く動けるこの体の長所を生かす事にしたのだ。勿論双剣は単純な攻撃力では長剣等に劣るが、そもそも力も強いのでそこは自力でカバー出来ると考えたのだ。


 ただ、この店に望むような双剣は無かった。


 「一体どんな物が良いんだ?」


 呆れた様に聞くカエンにエリアは自分の考えを話した。


 「大型で丈夫で斬れ味の良い双剣があればと・・・私、力が強いので少々重くても問題なく振れると思うので、なら頑丈な物が良いかなと思ったのですが」


 ふむ、と腕を組んでカエンが思案を巡らせる。


 「実際にはどのくらいの重さまでいけるんだ?」


 う~んと悩んだエリアは側に有る両手剣を2本手に取った。その2本を片手で持って軽く振り回す。


 このくらいなら問題ないですね。ともう片手にも2本持って両方の手を振り回してみた。

 

 「こいつは驚いたな。それだけ力が有るならグレートソードでも良いんじゃないのか?」


 「重過ぎて手回しの遅そうなのはちょっと。洞窟内では長い武器は不利ですし・・・」


 「ふむ、形状や素材なんかに拘りは有るかい?」


 顎鬚に手をやりながらカエンが尋ねる。


 「そうですね、何か描く物有りますか?」と黒板と石蝋を借りて形を描いて行く「刃は厚く丈夫に、形は直剣ではなく曲刀で、あと柄の前に手を護るこういったガードを付けて・・・」と、描いた絵が完成した。


 「こんな感じですかね?こういう双剣有りますか?」


 小首を傾げる。


 う~んと一応頭の中で記憶を探っていたカエンだが、あっさりと無いなと言った。


 「そもそも、そんな分厚い双剣なんて聞いた事も無い」


 そうですか・・・と落胆するエリアだったがカエンが提案を1つ出してきた。


 「御嬢ちゃん、こいつに幾ら迄なら出せる?」


 カエンは頭の中でソロバンを弾く。


 エリアは少し悩んだが、有り金を全て差し出す事にした。  


 「全部で大銀貨5枚。これで全部揃えたいのですが」


 財布から大銀貨を出して中が空で有る事を照明する為、財布を逆さにして振って見せた。


 「大銀貨5枚か・・・」


 頭を掻くカエン、そして何かを決断した様に手を叩いた。


 「分った、大銀貨5枚で手を打とう」


 それは、どう云う・・・と尋ねるとカエンは「リリ嬢の身内だしな、お前さんに合った最高の武器を俺が作ってやる」と、言ってニッと歯を見せ笑った。


 リリ曰く、カエン自身が作るなら大銀貨5枚では全く足りないのだろうとの事だった。


 エリアはカエンに感謝しつつ防具の塗装と武器の製作をお願いして武具屋『獅子の翼』を出た。


 次に来たのは冒険者ギルドだ。冒険者ギルドは街の中央から少し北へと行った大通りに面している、入ると左側に依頼者用のソファが並んだ待合室があり、右側には冒険者達が屯して新しい依頼を探したり、食事や酒をする酒場の様な場所がある。そして正面奥に受付カウンターが有った。その右横の壁には依頼書が張り出される掲示板が有り。掲示板に張られた募集要項の紙を見ているとリリに呼ばれた。


 受付カウンターに行くと、リリは馴染みの受付嬢を1人紹介してくれた。


 「始めまして、エリアさん私がこのベルタ冒険者ギルドの受付嬢、メメイ・ベルフィノーラです」


 素晴らしい笑顔を見せたのは、燃える様な真っ赤な髪の受付嬢だった。


最後まで読んでくれてありがとうございます。


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