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ナマコオンライン  作者: スモークされたサーモン
5/51

その5


『ふぉふぉふぉ、よくぞ来られた異世界の戦士よ。ここではその体にあった戦い方を教えてしんぜよう』


「……あ、はい」


 南国エリアでチュートリアルを受けることになった私。モナミ17才。初めて教わるナマコ戦闘術に頭が真っ白になりました。


 だって目の前に髭の生えたナマコがいるんだもん。


『と、その前に基本の移動方法じゃな。ひとまずその体に英霊を宿す。そしてその感覚を掴むのじゃ』


「……えいれい?」


 自己紹介とか無いのね。なんと機械的な。


『まずはレッスンワン! ナマコ移動じゃ!』 


「いやぁぁぁぁ! なんか体が勝手に動くぅぅ!?」


 私の体が! 私のナマコボディが勝手に蠢いておるぅぅ!?


『考えるな……感じるんじゃ』


 こうして地獄のナマコレッスンが始まった。


 私は最初、所詮チュートリアルでしょ? と舐めていた。だがこのゲームのチュートリアルはガチだった。自分の体が勝手に動いて触腕を伸ばす。そして地面に吸い付いて少しずつ進んでいく。そこは可愛く芋虫移動で良かったのに……ガチのナマコ移動で絶望した。


 だって自分がナマコだって嫌でも感覚で分からせられるんだもん。ぐすん……もうモナミはナマコなのです。ナマコ歩行をこの身に刻まれたナマコ女子高生なのです。


『うむ! お主はナマコの才能がある。切磋琢磨せよ』


「ううっ……是非もなし……ううっ」


 全てはマイホームを拡張するため……私は頑張るの。ううっ……触腕の動かし方が分かるよぉ。なんかいっぱい動かせるよぉ。


『では次はもっと楽な移動方法じゃな。これはナマコ戦士にとって必須と言える技となる。心して学ぶのじゃ』


「はい……」


 ナマコ戦士になんてなりたくないよ。でも体が勝手にコロコロと……おおおお!?


『これこそがナマコの基本にして奥義にもなるコロコロ移動じゃ! 陸でも水中でも素早く移動出来るが慣れるまでは目が回るような感覚に襲われるじゃろう』


「きぃぃぃやっほぉぉぉぉぉ!」


 なにこれ超楽しい! コロコロしてるだけなのに超早い! 足元が砂地でもサクサク進むわ! 


 それに……ふんぬ!


 あ、やっぱり方向転換も簡単だ。ナマコのボディって実は筋肉なのよね。そらそら進めー! コロコロダーッシュ!


『……なんと……こんなにもあっさりとコロコロをマスターするとは……うむ! 見事なり! 免許皆伝である!』


「ひゃっはー! 私の前に立つんじゃねぇぇぇ! 轢き殺ーす!」


『ほぎゃぁぁぁぁ!』



 ……あ。


 …………。



 ……ええ、ちょっとフィーバーしました。大丈夫。このゲームにはPKが無いから。チュートリアルだからそもそもHPは減らないの。



『……』


「師匠! ありがとうございました! これで私も立派なナマコになれます!」



『……』


 大丈夫。髭の生えたナマコはぴくぴくしてるだけできっと死んではいないのだから。なんか中身が出てるけど……きっとキュビェ器官だ。もしくは内臓。



 ピコン♪


《ナマコ始めました》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《歩くナマコ》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《転がるナマコ》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《ナマコ戦士ヒヨコ》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《ナマコ殺し》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《師殺し》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《外道ナマコ》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《悪逆ナマコ》の……



「やっかましぃわ! おらぁ! チュートリアルが終わったんならさっさと元の場所に戻せや!」




 ◇




 私はモナミ。純情可憐な17才。ちょっとナマコに染まっただけの普通の女の子なの。勿論、足は蒸れてないわ! 



『……じゃん?』


「……何か?」


 マイホームに帰ってきた私は至って普通のナマコなの。何かしら、この責めるような視線は。


 気のせいよね。うん、きっと気のせい。光の玉に目玉があるとは思えないし……むしろこいつはなんなんだ? 妖精とかそっちなのか?


『……モナミの職業はヤクザにするじゃん』


「そんなジョブがあるの!?」



 結局、ヤクザという職業は無かった。ナビの分際で小癪な真似をしてくれたが、私は最終的に『魔法使い』になることにした。


 だってほら……炎を纏ってローリングアタックとかロマンだし。空を飛んで『風火輪!』とか格好いいなぁとか思っただけで他意はない。魔法を極めると隕石を降らせる事が出来ると説明されたから魔法使いを選んだ訳でもない。


 そう……ただ魔法を使ってみたいだけなの。いろいろな魔法を……世界を滅ぼすような魔法も含めてね。うふふふふ。だって私は女子高生。魔法少女に憧れる乙女なのだから。くくくく。



『……ちょっとカウンセリング受けない? 現実世界でのモナミが心配なんですが』


「無用にして不要よ。さぁ、次のチュートリアルは何かしら」


 ステータスの説明は受けた。ジョブの説明も受けた。そして今の私は己の体を動かすことが出来る! ナマコだけどもう怖いものはない!


 ……光の玉の口調がマジすぎてアレだけど。


『……スキルの習得チュートリアル……は止めとくじゃん。ジョブに合わせたお勧め習得にしとくじゃん』


「何よそれは!」


 私は早く人間に……なりたくもないわねぇ。別に困ってないし。


『オートで最適なスキルを選ぶ機能じゃん。ハズレなしで悩む必要もないじゃん。外道なモナミに任せたら大変な事になるじゃん。称号をゲットしまくったから危険なスキルも取れちゃうじゃん。これは運営の意図と思って諦めるじゃん』


 なんか上から目線で言ってきた!? いや、運営は確かに上だけども!


「横暴だー! スキルぐらい好きに取らせろー!」


 大規模破壊できるスキルを手に入れてヒャッハーするのだー! ナマコデストロイビームとか出したーい! あるか分からないけどー!


『大人しく言うことを聞けばホーム拡張に利用できる課金チケットを三枚セットで贈呈しますが』


「よし! オートで楽チンね。良い仕事したわ、光玉」


 そうよ、私はこのゲームに殺戮を求めてなんかいなかった。求めたのは癒し。まったりと、そしてのんびりとナマコライフを堪能する為にこのゲームをしてるのよ。人間なんてくそ食らえ!


 スキルなんて……コロコロさえあれば上等! 全てを轢き殺してやんよ!


「で、その課金チケットはすぐに使えるの?」


 そもそも課金出来るのを今知った。そんなもの、どこで買えるのかしら。やっぱりオンラインかな。


『大丈夫じゃん。課金は最強じゃん。で、今のモナミだと拡張出来るのはこの辺じゃん』


 ほぇー、なんか目の前に出てきた。なんかシステム的なウィンドウだ。この辺は完全にゲームよね。


 えっと……一番上がホームの広さを変更……チケット一枚で十倍かぁ…………は?


「光玉ぁ! こ、この広さ十倍ってなに!? いきなり広がりすぎじゃないの!?」


 倍率おかしくない!? 課金最強か!


『十倍ならまだまだ狭いじゃん。今の島から海中に進めるようになるじゃん。海も作り込んであるけど領土拡大もした方がモナミ的に向いてるじゃん?』


 ……領土拡大? えっと……あ、あった。チケット一枚で領土(島)が五倍に広がります。オプションで植物や石もプレゼント! 


 ……五倍かぁ。


「……光玉。チケットを三枚使って領土を拡大します。そしてここにわたくしの国の樹立を宣言しなさい」


『……マジで?』


 お、光玉が動きを止めたわね。


「ええ、五倍の五倍の五倍よ。つまり今の島から125倍ね」


 うふふふ、私の桃源郷はわたくしの王国になるのよ! 夢が広がりますわー!


『……でも進めるようになるのはこの島の範囲だけで意味は特に無いじゃん』


「……は?」


 今なんと?


『ホームの拡張は領土の拡大とホームの広さの拡大をセットでやるのが基本じゃん』


 ……えっと、つまりあれか? 島を物理的に大きくするのとホームエリア(テリトリー的な?)を大きくするのは別物……だと?


「……この詐欺師め! わたくしの王国が……わたくしの帝国が……」


 モナたんはショックよ! なんてことなの……およよよよ。


『……本編を進めればホームの改造は簡単になるじゃん。課金に頼るのはダメって事じゃん。それに第一段階の拡張は元々難易度が低いからそんなものにチケットを使うのは勿体無いじゃん』


「なによ! だったら最初から言いなさいよ! ついでになんかお勧めも教えなさい! 三枚セットでドカンと使えるのとか!」


 この役立たずナビめっ! ぬか喜びさせやがってからに!


『……早まったじゃん。こんなに後悔するのは初めてじゃん。ミーは高性能AIなのに……』


「うふふふ、私は癒しが欲しいのよ。あと国ね」


 女として生まれたからには、やはり一国の女王を目指すのが夢ってもんよ。カカカカッ!


『……三枚セットで村が作れるじゃん。でも領土が狭いから水没するじゃん……灯台ならいけるか……』


「日向ぼっこして、まったり出来ないと嫌よ。このヤシの木も一緒にね」


『ぐぬぬぬぬ…………あ、ならこれならどうじゃん?』


 光の玉が勧めてきたもの。それはとても意外な物だった。


「どれどれ…………は? そ、それはありなのかしら?」


 これは……ちょっと……どうなのかしら。無茶ぶりした私もちょっとためらうけど。


『課金チケット三枚セットで問題無いじゃん。このあとも拡張は出来るから特に問題も起きないじゃん?』


 ……問題起こせるのかしら。


「……問題を起こせる拡張もあるのね?」


 それは気になるわ。とっても興味をそそられるわ。


『……大砲の設置とかじゃん。玉は別売じゃん』


 ふぅん……大砲ねぇ? 


「……地対空ミサイルはチケット何枚必要なの?」


 何となく分かった事がある。この課金チケットは複数一度に使うことでグレードが跳ね上がるという事に。これは……あるんじゃね?


『……黙秘するじゃん』


「リストを見せなさーい! 探しだしてやるぅぅ!」


『させぬぅぅぅ! 外道にミサイルなんて持たせてたまるかぁぁぁぁ!』



 ちょっとバトった。でも飛んでる相手にナマコは無力だったわ。ちくしょう。悔しいから筋肉に無理を言わせて跳ねてみた。


 そしたら当たった。


 見事にクリティカルヒットして光玉は海にかっとんでいったわ。スカッとした。うん、ナマコすごい。


 でもミサイル配備計画は阻止された。くそっ! 私の桃源郷が……。




 ピコン♪


《初めての課金チケット》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《必殺課金三連打》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《DIY始めました》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《どんぶらホーム》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《女帝》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《世界の敵》の称号を手に入れました。


 ピコン♪


《ナビ泣かせ》の称号を手に……



「やっかましいわ!」


 お知らせが怒濤の勢いで視界に飛び込んで来た。あまりのうっとおしさにムカッとした。


 失礼しちゃうわ! 何よ世界の敵って!


 イライラしたからヤシの木の下でふて寝をした。全く! 私は普通の女の子で平和をこよなく愛する乙女だというのに。困っちゃうわ! ぷんぷん!



 ピコン♪


《詐欺師》の称号を手に入れました。



「よーし。システム全体で私に喧嘩売ってんな。このゲームでも大暴れしてやんよ! 後悔すんなよ、ごらぁ!」


 とりあえずオプションで称号の通知をオフにしてログオフしてやった。これから私はナマコを滅ぼす鬼となる。でもまずは夕飯だ。今日はなんだろなー。


 


 称号システムは大変です。表にするのがすごく大変です。誰か、たちけてー! ゲームシステム作る人って本当にすごいのー! 

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