孤独の家
孤独の家
安岡 憙弘
一人家にこもって詩を書くという孤独な仕事をするためにわたしの家は創られていた。まるで倉庫のようなあばら家はしかし私にとってこの世から逃れる唯一の待避所のようなものであった。家のまわりには垣がめぐらしてあって季節の花が私の目を楽しませてくれた。家に人が訪れることは滅多になかったがお茶の一杯を味わうための風流さもどことなくこの家には漂っていたのだった。家の周りを犬を連れて散歩する習慣があったことは近所の者なら誰でも知っていた。私は遠出してせいぜい近くの海岸までだった。だった。私の1年はここで春夏秋冬を過ごしていた。寂しくなったら詩を書いた。外の事が知りたくなったら小説を読んだ。私はいんとん者とよばれていたがそれは滅多にないわたくしへの賛辞だったと思っている。わたくしはそれ以外の名でよばれることは好まなかったから。