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美しい悪意  作者: 宮永文目
2 感傷決裂
6/8

美しい悪意(5)

 私は彼女に優しく触れた。

 彼女は私をひどく傷付けた。

 

 それが正しい。私達の間には、ぎの痛んだ関係が相応しい。


 泣き腫らした彼女とは、前のように話せなくなっていた。偶に目が合えば、何を云うでもなく気まずそうに逸らし合う二人だ。

 気分はすこぶる気怠げだった。

 部屋には常に黄橡きつるばみの煙が立ち込め、息を詰まらせてしまいそうになる。強膜も土気色に濁り、口元の無精髭は伸びるばかりだった。

 心は次第に膿んでゆき、彼女との間に諍いも増えた。小さな小競り合いは、私達の溝を更に深め、決して戻せぬように巨大な壁を作るのだった。手に取れるように、淡く光を漏らしていた彼女の心は、たった一度の断絶で、その距離を無限大のものとしたのだ。


 晩期の生活に何か不満があった訳ではない。強いて挙げるなら、その漠然とした雰囲気だろうか。碌々として、云うに云われぬ、もどかしい思いをするその距離感。ちくちくと刺す明確な敵意は、かつて、楽園のように心安まる場所であったこの空間を、針の筵に変えてしまったのだ。


 以前には、彼女の夜泣きが心に染みた。

 声を押し殺して、オパールのようなたまの涙を流す少女が、幼い時分にも関わらず、健気に私へ気を使っているので、ひどく寂しく思った。だが、それを慰めることはせず、私は知らない振りをして、少女の甘美な配慮を嗅いだ。目を塞いで、彼女の内にある少女を喰べていたのだ。

 そんな私を、彼女は受け入れてくれたように見えた。


 だが、もう彼女の声は聴こえない。

 静かに唸る哀哭も、伏せって沈む憂愁も。

 背を向けた彼女の心は、一切を外に向けずに綴じ込めてしまった。


 悲しみはせず、涙も流さぬ。

 その代わり笑みすらも零さずに、残酷な彼女だった。


 ……結局はどちらだったのだろうか。

 知らず知らずの少女の悪意か。うろの内部に腐りかけていた私の嗜虐心か。


 いつの間にか、見も知らぬ娘になっていた。それは、きっと自然なことだったに違いない。

納豆って、混ぜれば混ぜる程美味しくなるらしいですよー。

あ、この話は全然関係ないっす。

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