美しい悪意(5)
私は彼女に優しく触れた。
彼女は私をひどく傷付けた。
それが正しい。私達の間には、継ぎ接ぎの痛んだ関係が相応しい。
泣き腫らした彼女とは、前のように話せなくなっていた。偶に目が合えば、何を云うでもなく気まずそうに逸らし合う二人だ。
気分は頗る気怠げだった。
部屋には常に黄橡の煙が立ち込め、息を詰まらせてしまいそうになる。強膜も土気色に濁り、口元の無精髭は伸びるばかりだった。
心は次第に膿んでゆき、彼女との間に諍いも増えた。小さな小競り合いは、私達の溝を更に深め、決して戻せぬように巨大な壁を作るのだった。手に取れるように、淡く光を漏らしていた彼女の心は、たった一度の断絶で、その距離を無限大のものとしたのだ。
晩期の生活に何か不満があった訳ではない。強いて挙げるなら、その漠然とした雰囲気だろうか。碌々として、云うに云われぬ、もどかしい思いをするその距離感。ちくちくと刺す明確な敵意は、かつて、楽園のように心安まる場所であったこの空間を、針の筵に変えてしまったのだ。
以前には、彼女の夜泣きが心に染みた。
声を押し殺して、オパールのような珠の涙を流す少女が、幼い時分にも関わらず、健気に私へ気を使っているので、ひどく寂しく思った。だが、それを慰めることはせず、私は知らない振りをして、少女の甘美な配慮を嗅いだ。目を塞いで、彼女の内にある少女を喰べていたのだ。
そんな私を、彼女は受け入れてくれたように見えた。
だが、もう彼女の声は聴こえない。
静かに唸る哀哭も、伏せって沈む憂愁も。
背を向けた彼女の心は、一切を外に向けずに綴じ込めてしまった。
悲しみはせず、涙も流さぬ。
その代わり笑みすらも零さずに、残酷な彼女だった。
……結局はどちらだったのだろうか。
知らず知らずの少女の悪意か。虚の内部に腐りかけていた私の嗜虐心か。
いつの間にか、見も知らぬ娘になっていた。それは、きっと自然なことだったに違いない。
納豆って、混ぜれば混ぜる程美味しくなるらしいですよー。
あ、この話は全然関係ないっす。




