美しい悪意(3)
一つに縛り上げた髪束が、滑らかな頸にかかる。私は暫くその様子に見惚れていた。心情を云えば、そのあえかさを自分の手で触れてみたかった。しかし他ならぬ彼女は、それを嫌がるのだった。
(頸には何の汚れもない。隠すべき毛孔の醜さも、膨らんだ皰も、彼女には一つだって見当たらないと云うのに。
軀の痕は消えようとも、心の傷は癒えなどしないのだな……)
俄かに、このあどけない少女が可哀想に思えてきて、私の胸を締め付けるのだった。
こんなに傷ついて、騙されて……それでも彼女は全てを忘れる。私だけが苦しさを知っていて、当の本人は幸せそうに笑っている。
それが余計に彼女を不憫に思わせるのだ。
私がそんな険しい顔をしていると、彼女は軀を傾け乍ら、そのまま私の方へ倒れ込む。そうして、素早く私の腕の中へと頭を潜らせ、さも自分の居場所と云わんばかりに、私の右肩へ凭れるのだった。
──ぎゅう、と抱き締められた。
脇腹が少し擽ったいが、その華奢な腕を解くことも出来ず、私は成されるがままになる。熱っぽい吐息が耳にかかり、甘い匂いが鼻腔を刺激した。
彼女は私を恐れている。自分よりも軀の大きい──力の大きい私を恐れている。何よりも、不安な顔をした私が、そのまま自分を捨てようとするのではないか、と。
荒唐無稽にも、それらの事象は彼女の中ではありうべきことなのだ。
だから彼女は、精一杯の艶姿を用いて、私を逃すまいとする。無意識のそれらは、正に本能のままに従う獣のようだ。
そんなとき、私は震える手で以って、彼女の頭を撫でる。落ち着くように……丁寧に、慎重に、撫でさする。
我に返った彼女は、いつも動揺したように過呼吸に近い息を吐き乍ら、薄く小さく軀を震わせる。今にも泣きそうになっているのに、何故こんなに苦しいのか分かっていない。
困惑した彼女は、もっと強く私の背中を抱き締める。衣服も皺になって、肉にも少し跡が出来るが、私はそれを静かに受け止めるのだった。
一章完結です。
ちなみに私はペドです。こんな文章作るってことは、そういうことです。




