美しい悪意(2)
「おにいさん、紐を取って……」
私が声の方へ振り向くと、少女は後ろ姿で肩を開けさせていた。
たった今、起き抜けに軀を立てた彼女は、寝惚けた頭のまま、掠れた声で小さく私を呼んだのだった。ゆらゆらと危なっかしげに、此方へと顔を向ける。
朝日に照らされた真白な素肌は、寝起き故かひどく滑らかだ。いつもは苹果のように真っ赤な頬をしているのに、このときだけは硝子で出来ていて、その透明感が美しい。
彼女が紐を欲するときは、大抵はその長い髪を束ねる目的である。そして、彼女の髪を整えるのは、いつも私の役目なのだった。
髪紐と一緒に、櫛を持って彼女に近付く。
すると、饐えた汗の匂いと共に、シーツの上から陶器のような彼女の矮躯が、私に身を委ね乍ら寄り添ってくる。私をそのまま押し倒すように。その温かさが私にとっては辛いことなのだ。
彼女はもう、幾日も軀を洗っていない。それなのに、私の胸にかかる熱い吐息は、露聊かも美しさを損なったりはしていない。
彼女はいつになれば汚れるのだろうか。
仮令あの手が誰かを害しようとも、きっと少女は綺麗なままだ。
(──それを羨ましいとは思わない)
彼女のそれを、私が糾弾するなどあり得ない。そうしなくとも、私は既に彼女の五衰を引き起こすことが出来るのだから。
敢えてこのままを過ごす私自身が、ひどく罪深いものに思えてならない。
「おにいさん、髪を梳いて頂戴」
彼女に云われるがまま、私はその揺らめく髪を丁寧に梳かす。
カーテンの隙間から射す明かりが、しっとりとした髪を青く燃やす。風が吹けば、こんなにも棚引く炎だ。きっと乙女のスピカよりも輝いている。
上気した頬に、恍惚とした表情の彼女は、そのまま静かに瞼を閉ざす。そして歌うようにして云うのだ。
「おにいさん、おにいさん。髪を結うて……。
妾、おにいさんの手が好きよ。おにいさんだけに触らせてあげる。おにいさんの自由にしていいわ」
甘えた声で、とろりと心を覆い尽くす。
それがまるで不快ではなく、潤滑油のように可愛らしく滑らかに、私の耳を刺激する。
汚らわしさは微塵もなく、寧ろ私がそれを求めて従っているのだから、この間私達は両想いであった筈なのだ。
お願いです、評価して下さい。_:(´ཀ`」 ∠):




