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美しい悪意  作者: 宮永文目
1 婉容慎美
2/8

美しい悪意(1)

 ぼんやりとした少年時代だった。何をやっても上手く出来ない──我乍ら鈍い子供だったと記憶している。

 そして、その不器用さは今日こんにちに至るまで、変わらず受け継がれている。足りない者が足りないまま、何も考えずに図々しく生き延びてきた結果が、今の私だった。


 例えばつい最近、中学時代の友人と久しぶりに会ったときのことだ。私の方は全く気付かなかったのだが、友人は、一目見て私だと理解したらしく、向こうから親しげに話しかけてきたのだ。当然私は誰とも分からぬ人間から、出し抜けに挨拶をされたと思ったので、挙動不審になり乍らも、眼を伏せて通り過ぎようとしたのだ。

 慌てた友人から話を聞き、漸く事の次第を理解して落ち着いた後、互いに久闊を叙したのだった。

 友人の第一声は「変わらないなァ」だった。「変わらない」とは、云い換えるならば「適応力がない」に等しいので、私としてはその言葉を聞いて、素直に喜ぶことは出来なかった。ただ、それを心底羨ましそうに口にする友人であったので、表面上は笑って置いたが、それでも恐らく、私の顔は引き攣っていただろう。


 思うに、私には少年の時分から抱えている、大きなうろがある。茫として無垢さが無いのもその為であったし、可愛げが無いと云われ、よく親にたれたことも、その所為であろう。

 しかし私自身、少年少女特有の残虐性は持ち合わせていたように思う。それは云うなれば、まるで持ち手の無い刃物の、無自覚に人を傷つける純粋さなのだ。


 誰もが身に覚えがあろうかとは思うが、実際子供と云うのは残酷で、殺生を厭わない程、未だ共感能力が発達していない。

 しかし殆どの人は、そんな子供を愛おしく思いこそすれ、恐ろしい──と感じたことはないのではないだろうか。

 思うにその心理は、自分達に危害が加えられない優位性から来ているのだろう。


 非力な子供、無邪気な子供……。

 そうした所からみると、あんな小さなからだでは、如何どうやったって大人にかなう筈がない。


(あゝそうだとしても、あの爛々《らんらん》と大きく見開かれた瞳。余りにも……余りにもあれは悍しい。高潔さなど微塵もなく、唯々ことを弄ぶ支配者の眼だ。

 あれに見詰められる度、私は憮然として、蒼白な身となるしかない)


 しかし、子供のする傷つけ方と云うのは、大人のそれとはまた違ったやり方のようだ。


 大人が他人を害しようとする際の、

 ──例えば拒絶

 ──例えば嫉妬

 将又はたまた、自己防衛の一環として、自分の道徳心を捻じ曲げてまで、それらの行為に手を染める。敢えて暴力的に振る舞うことで、自分を強く見せ、相手を従わせる──典型的な臆病者の思考だ。


 だがしかし、子供は如何だ。

 あんなに可愛らしい彼ら彼女ら、一体どのような心理で他人を傷つけると云うのだろう。


 私はこう考える。子供達は、大人とは逆──つまり受け入れようとして他人を害するのである、と。

 心理学なら、反動形成とでも云うか。好きな人に意地悪をしてしまう、あのむず痒い気持ち。

 確かに少し似てはいるが、あれは防衛の反応であって、私の云いたい許容する行為とは、根本的にれている。

 

 要は『受け入れ』の過程なのだ。

 子供は自らと異なるものを理解しようとする際に、先ず始めに疎外を行う。

 一気に受け止めず、近寄って来るものを外に置き、徐々に一つずつ……確認するように受け入れるのだ。


 それだから無邪気に、無用心に、どこまでも愛おしく、彼らは他人を傷つける。


 今となって考えれば、何故私はあのような性質に惹かれていたのか──分からない。

 だが私は、全てを知らずにあの頃に戻れたなら、それでも又、きっと同じ罪を犯すだろう。


 それこそが私のさが

 彼女の持つ『美しい悪意』に恋をしてしまったのだ。

本編まだです。

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