第9話 出撃!ワルシャワ条約機構軍
ー11月20日 午前8時20分頃 ベルリア王国 ルフアトから数百メートル離れた平原ー
アルテガシア王国軍がワルシャワ条約機構軍の存在を知らずにルフアトに向かおうとしているなか、無数の戦車やBMP-1を率いているワルシャワ条約機構軍の機甲師団は、少しずつ狙いをアルテガシア王国軍に定めていた。
「敵は馬鹿だな。密集しながら行進してやがる。まあ仕方ないか、あいつらはこの大陸で自分達以外に強い軍はないんだと思ってんだから。」
ソビエト連邦の主力戦車であるT-72の砲手マルケロフが行進するアルテガシア王国軍の様子を見てそう呟くと、それに運転手のウスペンスキーが反応する。
「油断はしないほうがいいかもな。もといた世界の中世に比べ、ここには飛竜というドラゴンに似たような兵器がある。もしドラゴンからの攻撃を受けたらただじゃ済まないと思うぞ。」
「大丈夫だろ。俺らはあんなドラゴンを見てすぐさま逃げ出すような訓練なんかしてない。それに俺達にはシルカという生身の人間が喰らったらぐちゃぐちゃになる威力の対空兵器や、戦闘機だってあるんだ。だから何も心配することはない。」
「まあ上手く流れに乗ることが出来れば良いのだがな…。」
そう会話していると、条約機構軍機甲師団はアルテガシア王国軍からおよそ1km地点で停止した。
「いよいよだな…。」
「ああ、敵が無様に逃げていく姿を見てみたいぜハッハッハ。」
《こちらはワルシャワ条約機構軍異世界支局、全車両は目標1km先のアルテガシア軍を撃破せよ!》
「「「了解した。」」」
そしてワルシャワ条約機構軍機構師団は、密集しながら行進するアルテガシア王国軍に対し大量の火砲で攻撃を開始する。
ー同時刻 アルテガシア王国軍ー
その頃、ストルナデル将軍を先頭に行進をしているアルテガシア王国軍は、突如彼らの前に現れた謎の黒い大群に向かって前進をしていた。
「む?何だあの黒い群れは?」
ストルナデルが思ったことを呟くと同時に、そこから一気に光が点滅しだした。
「これはもしや……はっ!敵の攻撃だ!」
だが気付いたころにはもう既に悲惨な状況になっていた。
スゴォォーンという爆発音と共に兵士や馬に乗った騎兵は勢い良く吹き飛び、遺品や肉片といったものが飛び散った。
「うわぁぁぁぁ!!!」
「だ、誰か助けてくれぇぇ!」
「逃げろぉぉぉ!!」
辺りには爆発によって原型をとどめないぐらいに飛び散る肉体、とても早くて細いなにかが鎧を貫きもがき苦しみながら悲鳴をあげる兵士、あまりにも悲惨な光景にパニックになり逃げ出す者など様々だった。この時点であの黒い大群にまともに戦おうという人間は、ストルナデルただ一人になっていた。
「な、何をしておるのだ!さっさと戦えぇぇ!!」
だが不運にもストルナデル将軍愛用の芦毛の馬に弾丸が複数直撃し、痛みに耐えられなくなった馬はバランスを崩したあと、ストルナデルは放り投げられながら地面に頭を強打した。幸いにも兜が頭を保護してくれたので命を留めた。
「うっ、ぐぅぅ…おのれぇ……偉大なるアルテガシアを舐めるな…。」
将軍は死んだ兵士の弓や矢を持ち、あの黒い大群があった方向に矢を放った。しかし残念なことに、その黒い大群は何も被害を負わず、それどころか彼らの前に進み始めており、もがき苦しむ兵士を黒い大群は無惨にも踏み潰しながら進み、緑色だった平原はクレーターと死体から流れる血によって赤黒く変色していたていた。
「この野郎…ふざけるなぁぁぁ!!!」
その言葉を放ったのと同時にPKT機関銃の弾丸が頭を貫通し、そのまま地面に倒れた。そして彼の死体をまるで障害物かのように、目の前にいるBMP-1が履帯で踏み潰しながら進んでいった。
この結果、ワルシャワ条約機構軍とアルテガシア王国軍との最初の戦いは、ワルシャワ条約機構軍の圧倒的火力によって粉砕された。
ー攻撃開始からおよそ10分後ー
攻撃開始してから10分が経過したが、未だに敵の野営地みたいなのは見えてこない。
この頃にはもうすでにベルリア王国に出向いていた戦力の約半数が条約機構軍によって削られており、いままでベルリア王国に進んでばかりいた戦線は着々と後退していた。そのためアルテガシア王国は急遽占領地帯にいる捕虜や男全員を強制的に徴用させ、野営地の防衛に配備されていた。
「何だよ、大したことなかったじゃねえか。あんな剣と盾しか武器がない軍にこんなに派遣しなくてもいいと思うな。」
「確かにそう思うな。だけど飛竜や魔法といった異世界独自の兵器があるのは確定している。そいつらがどれ程攻撃力があるかは知らない、下手して的を外すなよ。」
「それくらい分かってる。」
そう言うとマルヘロフは照準を確認した。照準を覗くと、そこから不審な何かが見えたのか、睨んだ表情をする。
「おい、空に何かデカイ翼を持つ鳥みたいなのが見えるんだが、俺の目がおかしいのか?」
「多分そのデカイ翼を持つ鳥みたいなのが飛竜なんじゃないのか?。まあ空軍がそいつらを潰してくれると思うから俺らは大丈夫だろ。」
すると、編隊飛行をしていた飛竜は突如地上にいる戦車群に向かって急降下をし始めた。
「おい!大丈夫じゃないぞ!あいつら俺らに向かって急降下しだしたぞ!」
「うるさいな、こっちは周囲に進路を阻むやつがいないか確認してるんだ、少し黙ってくれないか。」
そう言うと、隣にいた対空自走砲のZSU-23-4シルカの砲塔が飛竜の方向に動いた。そして23mm機関砲が猛烈な速度で飛竜に向かって火を噴き始めた。
数えきれないぐらいの23mm弾を喰らった飛竜の肉体はバラバラになり、そのまま地上に速度を保ったまま落下した。その後も急降下してきた飛竜は複数のZSU-23-4によって殺され、残った飛竜も条約機構空軍の戦闘機部隊によって全ての飛竜が肉片となった。
「だから言っただろ俺らは大丈夫だって。」
「まあ、そうだな。おっ、あれが敵の野営地か?」
そこには粗末なバリケードや、白い布地のテント、そして弓やクロスボウ、剣を構えたアルテガシア王国軍の兵士や占領地から徴用した民兵がいた。
「さあて、今からどれだけ用意したって無駄だっていうことをあっちに証明させてやらないとな。」
《こちら条約機構異世界方面軍、目標の野営地と思われるテントらしきものを発見した。これより野営地周辺にいる敵兵の掃討を開始する。》
《こちら条約機構異世界支局了解、直ちに攻撃を開始せよ。》
支局からの命令により、ワルシャワ条約機構軍機甲師団は再び火砲による攻撃を開始した。
すると、さっきまで野営地にいた兵士や民兵達が突如機甲師団に向かって突撃を始めた。
「くそっ、あいつら数で俺らを混乱させるつもりだ。」
そうマルヘロフが焦ったような表情で言うと、上空から複数のMi-24攻撃ヘリコプターが支援に入ってきた。複数のMi-24は分散し、突撃してくるアルテガシア王国軍から数十メートル離れた近いところで攻撃を開始する。
Mi-24から放たれるロケット弾の破片効果榴弾や、12.7mmガトリング機関銃の弾丸の凄まじい連射によって多くの兵士たちが血まみれになりながら次々と倒れていった。Mi-24の支援攻撃が終わった頃には、地面はえぐられ、肉塊が至るところに転がっていた。
「意外と早く終わったな。もしかして俺らだけどここにいる敵軍全部倒したのか?」
「敵がいなくなった以外に他があると思うか?もし敵兵がいたらその照準器にくっきり見えてるはずだろ。」
「確かにそうだな。」
その後ワルシャワ条約機構軍はアルテガシア王国軍の野営地とその周辺を占領し、後退続きだった戦線を一気に逆転させることに成功した。
野営地は条約機構軍の前線基地へと役目を変え、戦いが終わって数時間後には榴弾砲といった大砲が配置され、更には前線基地周辺の草原をヘリコプターの離発着場になり、多くのヘリコプターがここに駐留し、いつ出撃してもいいように備えた。
この影響でアルテガシア王国は予想にもしなかった展開に混乱状態に陥っており、その衝撃は全土に広まっていた。
ー11月20日 午後6時00分頃 アルテガシア王国 王都グラスティン とある大通りにてー
ベルリア王国の王都ザレンドルフより市街地が少し広く、そして海に面していて港があるこの都市にある大通りでは、
「号外!号外!信じられない出来事が起きたぞ!」
ある青年が新聞を人通りの多い場所に向かって走りながらばら蒔いている。その新聞の記事には、大きくこう書かれていた。
【ベルリア戦線開幕4日目にして戦力の半分を喪失し後退、王国衰退の始まりか?】
この見出しを見た国民は、喪失や衰退、そして後退という聞き慣れない単語に少し不安な表情をしていた。
「おい見ろよこれ、あのベルリア戦線が後退してるみたいだぞ。」
「あのベルリアだろ?きっと何かの間違いじゃないのか?」
「記事にはなんかソビエトという転移国家の軍が俺らの軍を後退させたみたいだぞ。」
「俺達の軍が後退しだすぐらいだからソビエトってかなり強いじゃないのか?」
「さあな、でも後退しだしているからいつここが火の海になってもいいように逃げる準備はしておかないとな。」
国民は新聞に書いてあることの感想を言い合っていた。
同じ頃、王都グラスティンにある王城の玉座の間では、一人の毛髪の薄い男が玉座に座り込んで、軍部からのベルリア戦線の戦況報告を聞いていた。
その毛髪の薄い髪をした男が、アルテガシア王国国王のアンスガル・ヨルセルである。
「なるほどな…要はソビエトという転移国家が我が王国のベルリア王国への進軍を邪魔し、それどころかベルリア王国に出向かせた戦力のほとんどが壊滅的な被害を負ったということなのか?」
「はい。そのソビエトという国はどうやら衛星国も一緒に転移してきたらしく、噂では七大列強国全ての軍を足しても及ばない程の軍事力を持ってるそうです。」
「そうか…だが七大列強国を足しても及ばない程の軍事力はあくまで噂なのだろ?決してそうだと確定してはなかろう。だが戦線が後退しだしているのは確かな情報だ、とりあえず国境沿いにある町全てを軍の防衛拠点にしなければならない。そこでだ、君には明日の朝ごろに国境沿いに住む住民に退去命令を出してくれ。その後にまだ残ってる一部の戦力をそっちに配置しろ、いいな?」
「ハッ!了解しました!」
軍部の人間は玉座の間を後にし、出たのを確認した国王は小声で呟いた。
「これが突破されてしまえば王国は滅亡しかないな…。」
ーアルテガシア王国 王都グラスティン郊外 上空7000mにてー
王国が不安で高まっていた頃、グラスティン郊外の上空7000mでは、3機の戦闘機が編隊を組ながら飛行していた。ソビエト空軍の最新鋭戦闘機の偵察機型のMiG-25Rである。
「ついに敵国の中心部近くにまで来ることになるとはな。」
「ああ、何しろここを攻める際に爆撃をすることに決まったからそこの下見ってところだな。」
「よし、おいしい情報を探し回るか。」
そう言うと編隊飛行をしていたMiG-25は分裂し、それぞれ決められた区域の偵察を開始した。そして数十分後にグラスティン全域の偵察は終了し、見つかった情報を共有し始める。
「そっちは何が見つかったんだ?こっちは木造船みたいなのがびっしりと並んでいる港を発見したぞ。」
「俺は他と比べると一際大きな建物みたいなのが見つかったな。」
「お前らはいいな、こっちは全くだったよ。」
「そりゃ残念だったな。さて、そろそろ帰るか。」
そう会話しながらソビエト空軍の偵察機は空軍基地へと帰還した。
次回はワルシャワ条約機構軍がアルテガシア王国本土に突入する予定です。