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第5話 接触

本当にこんなことがあるかと思う点がありますが、そこは暖かい目で見てください。

ー新天暦1812年 11月13日 午前8時30分 ベルリア王国沖合 ベルリア海軍哨戒艦『マクイル』ー


「おい……あれはいったい何なんだ……?」


哨戒艦『マクイル』の甲板でそう言っているのは、この哨戒艦の艦長ハルディオだ。年齢は63と年老いているが、彼は幾多の王国軍の軍艦の艦長を歴任したことがあるベテランだ。彼は今、哨戒艦『マクイル』の前方に見える正体不明の船団が王国がある大陸にゆっくりと近づいていることに唖然としており、哨戒艦の船員もまた同様の顔をしていた。


「か…艦長!あの船団は列強国かと思われます!ただ、あれは一体どこの軍なのでしょうか…?」


船員の一人が艦長に顔を向けて質問をした。


「いや、分からない。ただ言えることは……恐らく列強国より船が大きいということぐらいだ。」


幾多の軍艦の艦長を歴任し、戦争や演習に参加してきた彼でさえも、今回出くわした船の群の国籍は全く分からなかった。


(あの数と大きさに、鋼鉄の船……間違いなく列強国の海軍かと思うが、あんな鎌と金槌を合わせた紋章が描かれた旗は見たことがないぞ。だが気になるのは、奥にあるあの平らな船に載っているあれはそもそも何だろうか?)


そう考え込んでいると、あの船の群は彼らが乗っている哨戒艦の存在に気がついたのか、速度を弱め、ついに哨戒艦から200m手前のところで停まった。


「艦長!謎の船の群が止まりました!すぐに臨検を行いましょう!」


船員がそう言うと、艦長は自分がやるべき任務を思いだし、ふと我に返る。


「そ…そうだな。よし諸君!只今からあの船の群の臨検を行う。あの規模からして列強国の海軍かと思われる。失礼のないよう攻撃的な態度は控えるように。」


艦長の注意の後、哨戒艦『マクイル』は、自艦より大きい船が集まる群へと向かった。


あの船の群の周囲を見渡してみると、やはり自艦より大きい軍艦がベルリア王国の哨戒艦を包むかのように多く、彼らの船がまるで蟻のようだった。中にはそれより大きい船もあり、その上部は平らな構造をしていて、そこには彼らの常識が通じない何かが平らな所に置かれていた。


(なんて大きいだろうか…しかも全部の船が鋼鉄で出来ているではないか!これほどの軍艦を所有している国は多分存在しないはず。いや、もしかすると我々が知らず知らずの内に列強国がこれほど発展したのだろうか?うむ……)


出来る限り考察を頭に巡らせるが、船の群の国籍は解明出来ない。それどころか、本当に列強国の軍隊なのかどうかですら怪しくなってきた。


すると、哨戒艦の隣りにある巨大な船から、哨戒艦に対して何か合図をしているのを艦長は見逃さなかった。


(あの合図…もしかして乗れっていう合図なのだろうか…?まあいい、あの巨大な船に近づいてみるか。)


哨戒艦は、ソビエト連邦海軍の揚陸艦イワン・ロゴフ級へと船体を寄せる。


艦長は、船体を寄せていくと同時にあることに気がついた。さっき遠くから見たときよりもかなり大きいのだ。その光景に体が固まり、船体とイワン・ロゴフ級の距離が数十メートルになるまで気が付かなかった。


(はっ!私は何故さっきまで体が固まっていたんだ?そんなことより臨検を行わなければ…)


そう思って艦長はイワン・ロゴフ級に近づくと、上部から簡易はしごみたいなのが艦長の前に降ろされた。


「これを使って乗れなのか?まあ仕方ない、これだけ高低差があればな…」


艦長と一部の船員は、黙々と簡易はしごを登り、数分後にはイワン・ロゴフ級の甲板に着いた。


イワン・ロゴフ級に乗り込んで彼らがまず驚いたのは船体だった。全てが鋼鉄で出来ていて、大きい艦橋、広い甲板、そして彼らをずっと見ている周辺の船員の数に艦長と船員は驚きを隠せなかった。


(な、何なんだこの船は!?こんな船は列強国でも見たことがないぞ!もしや新しい列強国なのか!?なんて技術が発達しているだろうか…!)


艦長がかなり驚いた表情をしていると、近くからスーツを着用した男5人と、白いシャツと黒いズボンを着用し、AK-74を装備した男数人が歩く音が聞こえてきた。ソビエト連邦の外交団とその護衛だ。これに気づいた艦長は気を取り直し、生真面目な顔に戻る。


「はじめまして、私はベルリア王国海軍哨戒艦艦長のハルディオです。ここの海域はベルリア王国の領海です。貴国はどういった目的でこちらに?」


ハルディオがソ連外交団に対して普通に挨拶をするが、彼らは驚いた表情をしており、感想を他の人と話していた。


「おい、今さっきロシア語で言わなかったか?」


「ああ、確かにロシア語で話してたな。」


「まさか異世界でもロシア語は通じるのか?」


「あの……」


「あ、これは失礼しました。私はソビエト連邦外務省外務大臣のアンドレイ・グロムイコと申します。この度は貴国の領海侵犯をしてしまい申し訳ありません。」


すると今度はハルディオが驚いた。なぜならソビエト連邦という国名は一度も聞いたことがないからだ。


「い…いえいえ大丈夫です、はい。ところで目的は…?」


「ああそうでした、ですが説明する前に貴方にひとつ言わないといけないことがあります。あまり驚かないでください。我が国、いや、我々条約機構はこの世界へと転移した転移国家群だということを先にお伝えします。」


この事に彼らは最初疑った。違う世界からこの世界へと転移、しかも国家群が転移だなんてことはいくら召喚魔術師を集めれても到底成し得ないことだ。


「て、転移国家群ですか……」


「はい。信用出来ないかもしれませんが、そのため我が国ソビエト連邦の衛星国と協力して周辺を探索しました。その際ここの他にも大陸が見つかった訳で、我が国の軍港がある場所から近いこちらに来たということです。我々の目的は、貴国との国交締結を交えた会談を行いたい、ただそれだけです。」


「は、はあ…そうでしたか、ですが私は王国の国王ではないですので、どうすることも出来ません。」


「貴方は国王が居住する場所に繋がる通信手段をお持ちでしょうか?もしあるというのであれば、先程我々が伝えた内容をそちらに送ってください。因みに会談の回答の期限は明日の午前8時までとします。期限が短いかと思われますが、その時に我々の艦隊がここに来ますので、その際回答を我々に伝えてください。」


グロムイコが伝える内容を言い終えると、ハルディオは疲れたような声で話す。


「りょ、了解しました。この事はすぐに王国の上層部にお伝えしておきます。確認ですが、期限は明日の午前7時まででしたでしょうか?」


「はい、間違っていません。」


確認したハルディオはその後彼らに別れの挨拶をし、イワン・ロゴフ級から元いた哨戒艦へと戻り、船内にある魔信で先程の内容を王城のベルリア軍本部へと送った。


そしてそれを受信したベルリア軍本部はすぐさま国王に報告された後、国王からの緊急召集によって、およそ一週間ぶりの緊急会議が行われることとなる。



ー同日午前9時30分頃 ベルリア王国 王都ザレンドルフ 王城 会議室ー


ハルディオがソビエト連邦の外交団と接触し、さらにソ連がベルリア王国との会談を望んできたことを魔信で送ってから1時間後、またもや緊急会議が開かれることとなった。会議は国王、政務官、軍部という2つの機関と国王が参加しており、その顔は前回に比べ堅い表情ばかりだ。


「それでは只今より緊急会議を開始する。皆もご存じの通りだが、本日の午前8時40分辺りに、王国の領海を哨戒していた哨戒艦『マクイル』から、列強国と思われる船団に遭遇したとの報告が入った。それが我々が知っている列強国の船団だったらわざわざ緊急会議を行わないのだが、実はこれに問題がある。この船団は我々が知っている列強国のどこにも属さないというのだ。だが、一応その国名に関することは判明はしている。」


国王が一息つくと、軍部の一部が立ち上がり、政務官達に紙が配り始めた。その紙には報告された内容ごとに小分けしてはいるが、速急に書いたがためか字は読みづらい。それでも政務官達は書いてあることを読解しようとしていた。


「その船団の国籍は、ソビエト連邦という連邦国家なのだ。しかも報告によれば、こちらの世界に転移した転移国家群らしく、ソビエト連邦の衛星国共々転移したらしいそうだ。旗は全体的に赤く、鎌と金槌を合わせた紋章という特徴的な旗をしているらしい。更に驚く点は、外交団みたいなのを護衛していた兵士は黒い棒みたいなのを主武装としていて、全ての船が鋼鉄で出来ているというのだ。」


「ソビエト連邦だと?聞いたことがないな…」


「しかも連邦国家だとか絶対強そうだ。」


「全ての船が鋼鉄で出来ているのが一番興味深い。」


政務官達は書いてあることに驚いていたが、一部の政務官は疑いの表情をしていた。だが国王は説明を続ける。


「どうやらソビエト連邦の外交団は、我々との国交締結を交える会談を行いたいという事なのだが、あいにくその回答期限は明日の午前8時までだ。言葉通りだが期限が短い。なので諸君らの意見をまとめてソビエト連邦に対する回答とする。」


すると、周辺の軍部の人間と会話していた参謀長がさっと立ち上がり、軍部の意見を述べた。


「我々軍部としては、ソビエト連邦との外交を締結するしかほかはないと思います。ソビエト連邦は全ての船が鋼鉄で出来ている、これは最近周辺諸国に侵攻を繰り返しているアルテガシア王国からの脅威を打破出来るのに等しいでしょう。ですからソビエト連邦と国交締結するということは、アルテガシア王国の侵攻を止めるには一番被害が少ない方法になります。」


参謀長が説明し終えると、続いて政務官代表が意見を述べる。


「政務官としてはこの事に反対です。もし仮にあのソビエト連邦が、国交締結する際に色んな不平等条約等を押し付けたら、王国の滅亡と同等の被害を負います。実際に一部の列強国はそういった外交方法で文明圏外国家に圧をかけています。なのでソビエト連邦との国交を締結しないことをお勧めします。」


国王は、また意見の食い違いが起きたと頭を悩ませた。ソビエト連邦と外交締結せずにアルテガシア王国に攻められて滅ぶか、不平等条約等を押し付けられる代わりに戦争に参加してくれるかの二択だった。どちらも国が危機的な状況に陥る可能性があるが、国王は軍部の意見を回答にすると決める。


「……軍部の意見を回答にする。それしか国を存続させる方法はない。」


こうしてベルリア王国は、ソビエト連邦との外交締結を交えた会談を行うことを決定した。政府はどんな不平等条約を押し付けられてもいいよう、全てを差し出す覚悟をした。そして翌日の午前8時に最初に接触したハルディオが、ソビエト連邦外交団に対して国王からの回答を伝えた。


ソビエト連邦も外交団を大陸に派遣することにし、ベルリア王国との会談は11月18日に決定した。


そしていよいよ、ソビエト連邦が、異世界の大陸へと足を踏む。

条約機構が異世界に転移しておよそ一週間半、遂に異世界との会談が開幕します!

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