イーデスの独り言
本編おまけ。フィオナの姉イーデスの独りよがりな独白です。ドロドロです!
胸糞注意です!!本編のネタバレあり
平穏だった私の生活に唐突に舞い込んできた妹。
ある日、お母様が「もうすぐイーデスの妹が生れるから」と言って、私をおばあ様の家に置き去りにした。
妹って何?そんなもの私はいらない。
そして半年後、迎えに来た。私ではない赤ん坊を連れて。
「イーデス、妹のフィオナよ」
皆、フィオナにちやほやする。「かわいい赤ちゃんね」「肌が真っ白だ。この子は器量よしになるよ」おばあ様や親戚の叔父様までフィオナにちやほやする。
ちっとも可愛くないじゃない。
家に帰ると誰もフィオナをちやほやしなくなった。フィオナは放っておかれた。時々メイドのネリーがあやしている。ネリーは生意気で私にはにこりともしない。
ある日フィオナが、ベッドに寝ていると窓から日が差して、眩しそうだった。あら、かわいそう。私本当にそう思ったのよ。
だから、顔に枕をのせてあげた。フィオナが泣き出した。頭に来たから、枕で押さえつけているとネリーが慌ててやってきて、私から枕を取り上げた。
「お嬢様!何をなさっているのですか!」
私はいきなり怒られて大声で泣いた。お母様が慌ててやって来たわ。
ネリーが私からいきなり枕を取り上げたと告げ口したら、彼女はすぐに首になった。いい気味。お母様はメイド風情のいう事なんて信じないわよ。私はただフィオナが眩しそうで、かわいそうだったからやっただけ。
ただ一つ腹が立つのは、そのネリーがうちよりも家格の高い家にすぐにメイドの仕事が見つかったこと。前々から、打診されてたんですって。だったら、とっといけばよかったのに。
フィオナが五つになったとき、母のお友達の家のお茶会に招かれた。
「あら、可愛い。お人形さんみたい」
どういう事?なぜ、みんなでフィオナをちやほやするの。
「痩せているけれどよく食べるのね」
お母様のお友達のファーレン夫人がいう。
「そうなのよ。この子、食べても食べても太らないのよ」
なによ。皆でフィオナばっかり。
でも帰ってきたら、フィオナはとっても叱られた。
「よその家であんなに食べてみっともない。恥をかかされたわ」
いい気味。それ以来、フィオナはあまりお茶会に連れて行かれなくなった。
フィオナは相変わらず家でも粗相ばかりで、よくご飯抜きになった。本当に馬鹿な子。
「イーデス、あなたは素晴らしい子。キャリントン家の誇りだわ」
父も母も私を褒める。フィオナよりもずっと優秀だから。あの子は駄目、考えるのが苦手でこらえ性がない。すぐ癇癪をおこすの。
社交界デビューした。
伯爵家や、男爵家、子爵家の次男、三男が声をかけてきた。冗談じゃないわ。あなた達と話す時間がもったいない。婿はとらないから。あんなしょぼい伯爵家、継がないわよ。私が結婚するなら、侯爵家以上。それ未満の家はお断りよ。
さすがに公爵家の殿方とは話すのも難しい。若くして家を継いだローズブレイド公爵が人気だった。
じゃまな女たちを退け、やっとダンスを踊ってもらったけれど、とても機械的な対応で一回踊ったら別の女性に連れていかれてしまった。
そして、次に彼に会ったときは、第三王女との婚約が決まっていた。
伯爵家の娘は相手にしないということか。家格で相手を選ぶなんて特権意識の強い俗物ね。
そして私はムアヘッド侯爵ロベルトと出会った。家格は申し分なく、金もある。しかも失恋したばかりだ。丁度よかった。だから彼を献身的に慰めた。そろそろ責任取ってもらわなくちゃ。
出会って半年後、両親に紹介すると父は残念がった。私に家を継いでもらいたかったようだ。
でもね、お父様とお母様の面倒はフィオナに任せるわ。
私は、自分に相応しい世界で生きたいの。贅沢ができないのは嫌。
そしてキャリントン家が借金で没落寸前となった。良かった、逃げきって。あとはフィオナがどうにかするでしょう。
あんなメイドも置かない家に帰りたくないと思っていたけれど、ムアヘッドの義母はわがままでプライドが高くて意地悪で頭にくる。だから実家で吐き出すことが日課となった。
キャリントンの家に帰ると相変わらず馬鹿なフィオナは刺繍ばかりしている。売れるそうだ。そんな小銭稼ぎの何が楽しいかわからない。貧乏くさくていやだわ。気が滅入る。
この子が妹とは思いたくない。働くなんて庶民のすることだわ。恥ずかしくて妹がいるなんていえない。
「ねえ、お母様。フィオナ、社交界デビューしてないのよね。ロベルトに頼んでムアヘッド家で準備しましょうか?」
「何を言っているのイーデス、あなたにそんなことさせるわけにはいかないわ。ただでさえ、伯爵家の出身という事で肩身の狭い思いをしているのでしょう」
「そうだよ。イーデス。お前は優しい子だね。自分の幸せを第一に考えなさい」
お父様もお母様も口をそろえて言う。
そういってくれるってわかっていたわ。どう私って良い娘でしょう?
そのうちフィオナの縁談が持ち上がった。
商家だ。
あんな馬鹿で礼儀作法もなっていない子に縁談なんて来ると思わなかった。
庶民が相手とは笑ってしまう。
でも金持ちだったら、腹が立つわね。
ロベルトに調べさせた。すると悪辣な商売人だが、相当稼いでいるという話だった。
「うちより金持ちなの?」
「いや……そんなこともないよ」
歯切れが悪い、フィオナが私より、得をするなんて許せない。
早速お父様に掛け合った。
「お父様。あんな作法もなっていない子を貴族の娘として嫁にだすのですか?相手が庶民とはいえさすがに非常識ではないかしら」
しかし、いつもなら私のいう事を尊重してくれるお父様が首をたてにふらない。
どうもその商家はキャリントン家の借金を肩代わりしてくれるらしい。
思い通りにならなくてイライラした。そして、さらにフィオナにローズブレイド家との縁談が舞い込んだ。
私は卒倒しそうになった。
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だから、毎日のように妹のところに押しかけてやった。
晩餐も開かせた。馬鹿な妹はすぐに癇癪を起すし簡単に私の言いなりになる。
「申し訳ないが、フィオナは勉強が必要なので、しばらくそっとしておいてくれないかな?
これから王家との夜会や茶会が控えているのでね」
おとぎ話の王子様みたいな綺麗な顔でにっこり笑いながら、公爵はいった。
怖い。美しく完璧な笑顔なのに深い緑の瞳が凍てつくようだ。
子供頃読んだ童話の中の悪魔を思い出した。
なぜ、私がこんな扱いを受けなくてはならないの?厄介者はいつでもフィオナなのよ。
ローズブレイド家の半分の広さもないムアヘッド家のタウンハウスに帰ってくると腹がたった。失礼過ぎる。身分を笠に着て伯爵家どころか、侯爵夫人である私に何たる態度。
それにあそこの使用人、生意気で腹が立つ。フィオナのことを何かというと奥様奥様って何なのよ。あんな猿並みに教養のない子。
私は、事の顛末をロベルトに打ち明けた。
「え?何?晩餐って」
ロベルトには話していなかった。私ではなくフィオナを結婚相手に選んだ公爵に恥をかかせてやろうと思ったのだ。
「どうしてくれる!なんてことをしてくれたんだ」
ロベルトがオロオロしている。
なんで?どうしたの?いつも堂々としているのに。
「ごめんなさい。あなたはいつもお仕事で忙しくているから、ご迷惑かと思って。今回は妹が強引でいきなり晩餐会をするなんていうから」
と言って泣き出せば、「私が悪かったよ。イーデス」と言ってすぐに許してくれた。
だからついでにフィオナが今日つけていた髪飾りと同じものをねだった。
そうよ。私は無理やり妹の晩餐に付き合わされたのよ。
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王宮での夜会、妹が陛下夫妻や殿下たちに挨拶している。
どうしてこうなったのか分からない。
「まあ、とても素敵な妹さんがいらしたのね。羨ましいわ」
「フィオナ様、お人形みたいに整った顔立ちね」
「本当に姉妹?妹さんと全く似ていないわね」
「あらあら、閣下は随分奥様を大切にされているようね。かいがいしくお世話して。
なんだか、初々しい奥様ね」
皆何を言っているのかしら、フィオナのダンスなんて見られたものではないじゃない。
どうして褒めるの?
あんな子恥をかけばいい。ローズブレイド家から追い出されればいい。
あらあら、馬鹿じゃないの?男爵家のお友達が出来てそんなに嬉しい?あんなにはしゃいじゃって。
公爵家に嫁いだのに取り巻きの一人もいないなんて、みっともない子。
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ああ、いらいらする。妹がルクレシアに住んでいるなんて。
母から聞いて驚いた。あそこがローズブレイド家の領地だなんて知らなかったのだ。
風光明媚でワインは最高。
あんなワインの味もわからない子が、腹が立ってしょうがない。
最近ロベルトはケチだ。夜会に連れて行ってくれない。どうしたのだろう。
そういえば、王宮にも出仕していない。
なぜか、私のお友達も家に呼んでも来なくなった。生意気ね。そのうち思い知らせてやるから。
でも一番腹が立つのが、ロベルトがドレスをつくってくれなくなった事。
「みじめだわ。妹のフィオナに安物のドレスと言って馬鹿にされたのよ」
そんな事実はなかったのかもしれない。けれどあの子ならきっとそうするわ。そうこれは本当にあった事よ。
ロベルトに泣きついたら、やっと買ってくれた。
本当にどうしちゃったの?前は何でも買ってくれたのに。フィオナのもっている物をすべて買ってくれたのに。あの子ったら、特注品ばかりで生意気。
そのうち、私は子供の頃から抱いていた違和感を思い出した。
「あなたの妹よ」
そういわれて連れてこられた妹はもうすでに立って歩くことができた。何かがおかしい。ずっと、おかしいとは思っていた。
ロベルトに調べてもらったけれど「あの家は駄目だ。触ってはいけない」などと訳のわからない事を言い出した。
キャリントン家を調べてと言ったのに。この件では、ロベルトはあてにならない。
十数年ぶりにキャリントンの領地に降り立った。父母に会うためだ。うらぶれていて気分が悪い。子供の頃一回来たっきり、来たくなかったわ。こんな土地。
このころ両親はタウンハウスにはもう住んでいなかった。本当にローズブレイド家はちゃんと実家を面倒見てくれているのだろうか。
それともあの公爵家がキャリントン家のなけなしの財産を奪っていったのだろうか。そして両親を追いやったのかしら?家と土地は私の物なのに。いずれはね。だって私は姉だもの。
そうか。わかった。フィオナが両親と私の悪口をアロイスに吹き込んでいるのだ。だから、彼は私たちに冷たいのね。
この前、王家の非公式の行事に出たいとお願いしたのに、けんもほろろに断られた。皆フィオナのせいだったのだ。馬鹿のくせにこすっからい子。あざとい子。
どうして姉である私をたてないの?
だいたいあの子がいなければ、私がローズブレイド家に嫁いでいたはずなのに。
さっそく両親にフィオナの出自を問い詰める。意外にあっさりと白状した。
「フィオナは養い子だよ」
でも、その先は話してくれない。それにローズブレイド家の悪口にも乗ってこない。
「失礼な婿だ」「つかみどころのない男」だと散々悪口を言っていたのに。
今は、まるで恐れているみたいだ。
そうか。フィオナはお父様の庶子なのね。ということは、良くて平民、悪くて……。だから言えないのね。
それがばれて離縁されてしまう。すると家の借金が払えない。
面白いわ。いいことを思いついた。フィオナが離縁されて、さらに私にお金が入るかも。
早速手紙をしたためた。
母にはフィオナにワインをお願いしたいのといって書いた手紙を渡す。二つ返事でキャリントン家の封筒に入れてくれた。
本当に何なのよ、この扱い。姉を馬鹿にするにもいい加減にして欲しい。これではまるで私がローズブレイド家に嫌われていて出入り禁止にされているみたいじゃない。絶対にフィオナが私を悪く言っているのよ。
さて、フィオナに事実を知らせてあげよう。知らないのはかわいそうだもの。
そして、ドレス代を融通してもらおう。夜会で妹が身につけていたサファイアは大粒で素敵だった。
あの子にはもったいない。私がもらおう。当然の権利よね。
妹に言うことを聞かせるのは簡単だ。子供のころから、単純で馬鹿な子だった。気が小さいから、ちょっと脅せば大丈夫。
しかし、フィオナからは音沙汰もなかった。
私は、いまムアヘッド家の領地のカントリーハウスにいる。
「どうして、私がこんなところに閉じ込められなければならないの?あなた本当に悪いことしたの?どうなの?」
「大したことはしていない。ちょっと仕事で使う金を融通しただけだ。だいたい、私は骨身を惜しまず国の為に働いたんだ。タウンハウスの一つや二つ建てたっていいじゃないか。
後でちゃんと返すつもりだった。お前こそ。トラの尾を踏んだんじゃないのか?」
「え?何をいっているの?」
「ローズブレイド家だよ。失礼をしていないか?」
「私のせいだっていうの!ひどいわ!いつまで、こんな場所に居なきゃならないの?」
「ずっとだよ。公金横領の罪で幽閉されたのだから」
「信じられない。横領ですって。あんなはした金ぐらいでこんな目にあわせる何てあんまりだわ。国庫に唸るほど金があるじゃない。
タウンハウスを二つ建てて、宝石を買ったくらいじゃないの!」
「そうだね。私は骨身を削って、いままで国に尽くしてきたのに」
「ほんとよ。フィオナなんて今頃バカ高いドレスをきてじゃらじゃら宝石をつけて遊びまわっているのに、なんで私がこんな思いをしなきゃならないの?
みじめだわ。なんであんなひどい妹をもったのかしら。私から何もかも奪っていく」
二人はお互いを憐れんで泣いた。
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北の領地に来て早一か月。
フィオナは侍女のアリアと広大なローズブレイド家の庭で、ベリーを摘んでいた。
「アリアみてみて。とても美味しそう。帰ったらジャムを作りましょう。それをスコーンにかけて頂きましょう」
「楽しみですね。奥様」
二人は和気あいあいとベリーでいっぱいになった籠を屋敷へ運んだ。
「奥様、私がお持ちますから」
「あら、大丈夫よ。私これでも実家で家事をしていたんです」
「そういうことをお外でおっしゃらないように」
とマリーが窘める。あっさりと籠を奪われてしまった。
玄関に向かうと、蹄の音が響いてきた。
「アロイス様!?」
フィオナが駆けだした。
「奥様、危ないですよ」
フィオナの耳には入らないようだ。侍女二人はあきらめ顔だ。
いや、むしろ微笑ましい。フィオナはこの屋敷の主が帰ってくるのを来る日も来る日も心待ちにしていたのだ。
玄関ポーチにローズブレイド家の馬車が入って来るのが見えた。
アロイスが下りてくる。
「アロイス様、お帰りなさいませ」
「ただいまフィオナ」
ルクレシアで別れて以来、一か月振りの再開に二人は抱き合った。
「アロイス様、今日は、アリアとベリーを摘んだんです。これからとても美味しいジャムができるんですよ」
「それは楽しみだね」
二人は微笑み合い手をつないで屋敷に入った。
フィオナは土に汚れた手に気が付いて、急いでつないだ手を離そうとしたが、
アロイスはぎゅっと掴んだままだった。
「今日は離さないからね」
そう囁かれてフィオナは真っ赤になった。
これから楽しいお茶の時間が始まる。