第五話 業炎の支配者 ~不死鳥~
ケルベロスはその巨体を動かし、ズシンズシンと再び動き始める。
「待てよ!どこに行くんだ!!」
再び動き出したケルベロスに、呼びかける。
「迎えにいく。昔の仲間を。旦那も直に思い出すさ」
ケルベロスは、頭を主君に向かって下ろし、自分の背中に乗ることを促した。少し躊躇しながら、桃太郎は『化け物』の背中に乗った。意外にも柔らかく、フサフサとした毛で覆われている。不思議とその感覚は体が覚えているのだ。
「約束の地に、あいつ等を再び終結させる。少し揺れるが許してくれ、旦那!」
思念で声を震わすケルべロスは、風の如く走り始めた。
その後、3日程南方に向かって走り続けた。森を抜けると、のどかな草原が広がっている。
「鬼ヶ島までどれくらいだ?」
桃太郎は、ケルベロスに向かって直接問いかける。すると、荒い息と共に蒸気を鼻から噴射すると、立ち止まった。
「奴は近くにいる!」
そう発し、上の方を見上げた。桃太郎も同じく上を見上げると、上空に巨大な黒い影があった。
「なんだ・・・あれは?」
黒い影は辺りが暗くなる程巨大だ。目を凝らすと、こちらに近づいて来るではないか。
「って、えぇええ??」
桃太郎は、絶叫するもその上空の影はもう近くに来ている。
影が降り立った瞬間、炎が舞い上がり熱風が押し寄せる。ケルベロスは毛が靡くだけで、びくとも動かない。それ以外はほとんどの物が吹き飛んだ。熱風で桃太郎は、目を瞑って周りが見えなかったが、目を開けると辺りは炎が埋め尽くしていた。
高温の大地に立って居られるのはケルベロスと、その場にいたのは紫紺の瞳、巨大な黒い嘴、簡単に建物を破壊できそうな強靭な脚、燃え盛る灼熱の翼。燃える炎の鳥だった。
翼を広げれば軽く20メートルはありそうだ。
「フ八八八八ハハ!!!!来たか、フェニックス!」
吠えるケルベロスを見て、その燃え盛る巨鳥は名乗った。
「我が主、お戻りになられましたか。業炎の支配者にして、不死鳥。フェニックス、ここに見参!」
紫色の瞳を輝かせ、脳内に声を響かせる。
「して、我が主は記憶を?この地に参ったのなら、約束は果たされたのか。なあ、ケルベロス」
フェニックスはケルベロスに問いかける。
「ああ、だが記憶は完全ではないな」
桃太郎はその記憶の事は良くわからないが、体が熱くなるあの感じだろうという事は薄々、感づいてはいた。
「なら、神経の奥深くにある記憶を私が取り戻して差し上げましょう。契約のダンゴを」そう言って、ダンゴを要求してくる。桃太郎は巾着袋からダンゴを取り出し、覚悟を決め、目一杯に上空に投げた。フェニックスはダンゴを器用にくわえ、飲み込んだ。
その瞬間、灼熱の熱さが体中に広がる。まるで体全体を燃やされた感覚に襲われた。
「ぐうぁあぁ゛あ゛づい―――――ッ!!!!!」
桃太郎に再び電撃が走る。シナプスが結合し、爆発が起こる。膨大な記憶が脳に流れ、感覚が麻痺した。まるで、体が炎に包み込まれる様な熱さ。そのうち、胃から何かがこみ上げてくる気持ち悪い感覚に襲われた。
その記憶には、過去の自分が映っている。経験したことが無いはずの数々。脳裏に浮かんでくるのは、地球や日本、聞いたことも無い地名。ガラスと石の大きな建物が立ち並んだ世界に立っていた。
そこに、鉄の箱が走ってきてぶつかる。辺りは自分の血で赤く染まっていた。体中が寒くなって行く。運ばれた白い部屋には家族だろうか、皆泣いて集まっている。
「翔―――――ッ!!」
「お兄ちゃん、死なないで!」
翔って誰だ?お兄ちゃん?自らの魂に焼き付いた記憶。身に覚えのない記憶に、ただひたすらに桃太郎は頬を濡らした。
「我が主よ、『己の過去と向き合え』それが復活の鍵です。約束の地に集いし者はあと1人。鬼を滅する宿命を今度こそ」
頭に声が響き渡る。
それが桃太郎の宿命だとしたら・・・