第二話 最後の頼み ~生い立ち~
ある夜、集落には鬼が攻めてきた。集落全体を忽ち炎が包み込む。50匹程の『化け物』によってみんな殺された。
「いやぁあぁ!!!」
「やっやめろぉぉ!!!!」
阿鼻叫喚の悲鳴が所々で上がる。鬼の恐ろしい容貌には本能的に勝てない相手だと誰もが確信する。集落の男ども、は女子供を逃がそうと、農具や包丁それと刀で応戦するが次々と倒れていく。桃太郎も立ち向かおうとするが、おじいさんとおばあさんに引き止められた。
「どうしてだよ!」
焼け落ちる家々を見て、どんなに恐ろしかろうと戦うと決めていた心を必死に抑えつけられる。
「いいかい?よくお聞き!お前は逃げなさい」
おばあさんは、顔を顰めて叫ぶ。
「そうだ、逃げ延びろ」
おじいさんも、追い打ちをかけるように説得を試みるが、桃太郎は頑なに拒む。
「でも、このままじゃ!みんな殺される!!!」
二人は、はぁという顔をして桃太郎に向き合って語った。
「聞き分けのない子だね。これを持って逃げなさい!」
そう言って、おばあさんは床に被せてあった木の板を外す。すると、隠し倉庫のような空間があった。13年その小屋で過ごしてきて、一度も気づかなかったその仕掛けに桃太郎は目を丸くした。その隠し倉庫の中から一本の刀を取り出す。黒い鞘に赤で縁どられた柄。禍々しい雰囲気を放っている。もう一つ、白い巾着袋も取り出していた。
「あんたは、神の子なんだよ!お前だけでも逃げなさい。これを!」
その刀と白い袋を渡してくる。
「これは?」
その刀が何なのかも分からないまま、状況が読み込めない桃太郎は混乱する。おじいさんは桃太郎に刀を指さして説明する。
「これは・・・この家に伝わる刀でな。彼奴らが攻めてきたのは、これが初めてじゃないんじゃよ!」
予想外の発言に唖然とする。
「これが、初めてじゃない?」
「実はな、今からもう60年以上前になるが彼奴らは攻めてきた。生き残った者共は皆どこかに散らばっていったんじゃ。」
鬼が存在するのは、伝承で知っていたけれど。鬼がどこから湧いてきて、なぜこんなことをするのかまでは分からない。
「なんで、鬼たちは俺たちを殺すんだ!」
真っすぐな桃太郎の疑問に二人は難しい顔をする。おばあさんは一拍置くと、話し始めた。
「その昔、鬼と人間は常に戦をしてしたそうじゃ。人間は鬼に、沢山殺された。その報復として、空から降って来た一人の赤ん坊がいた。その子は神の子として鬼と勇敢に戦って鬼の総大将と相打ちで死んだそうじゃ。この刀は鬼の血と牙と魂で作られた刀なんだ。その神の子は英雄として語り継がれた。名は、桃太郎。お前の名も同じにして名付けた。お前も空から降って来たんじゃよ」
自分の生い立ちを知らない桃太郎は呆然とする。教えられたのは、自分は川に捨てられていたのだと。そう教えられていたはずだった。
「それって、どういう事だよ!ずっと騙していたのかよ!!」
自分が空から降って来たことがどういう事なのか、桃太郎は思考が追い付かない。おじいさんが言う。
「ああ、ずっと騙していて悪かったな。だが仕方が無かったんじゃよ。このダンゴを持っていけば約束の地に集いし仲間と巡り会えるじゃろう!」
「行け!」
おじいさんは逃がそうとするも、尚も拒む桃太郎を怒鳴りつける。
「嫌だ!」
強い言い方で、言うおじいさんにようやく桃太郎に決心がついた。
「もうここは火の手があがっているんだ!儂らではもう逃げて走る事さえできん!行って、行ってとにかく逃げろぉぉ!」
「すまん!!!!」
剣と袋を手にして、立ち上がる。もう二度と二人に会えないことは、分かっていたが泣きたい気持ちで、強く唇を噛みしめる。
「逃げたか、いつか必ず。果たしてくれ」
おじいさんは死を覚悟した。
「私たちも、そろそろ潮時ですな。あの子が逃げてくれれば」
おばあさんの言葉に、おじいさんも頷く。小屋の中には焦げたニオイが充満する。
「ヴォア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
鬼の呻き声と共に暗い夜には焼ける炎の煙が昇っていた。
『次回予告』沢山の犠牲の果てに、里外に逃げ延びた桃太郎は一人の男に会う。鬼人を滅するために桃太郎はその男と共に訓練を積む。