02・違和感
薮井浩介 あるクラスに転校することになった男子
「はじめまして。薮井浩介です。よろしくお願いします」
一礼をすると、自分に拍手が送られた。
顔を上げると、温かい眼差しがたくさんこちらに向いている。
思っているよりかは、受け入れられているらしい。
少しだけ気が楽になった。
自己紹介を終えて先生に言われた席に行くと、
ここは漫画の世界か。
教室の一番後ろ、窓側の席だった。
まあ、初めから目立たない席にいるのは悪くはない。
新しいカバンから荷物を取り出して、机の横にカバンをかける。
ちらちらとこちらに向けられる視線を感じる。
想定内だ。
ここから新しい生活が始まるのか。
友達なんていらない。
まずは嫌われないようにしよう。
現代の学校で嫌われたら生きていけないなんて、
知っている。
苦しくない学校生活を送れれば何の問題もない。
「浩介君ー」
初めてしゃべりかけてきたのは一つ前の席の男子だ。
「俺、神谷樹、
みんなからはいつきって呼ばれてる、よろしく!」
とてもテンションが高い。
こういうタイプの人間は若干苦手だ。
ただ、クラスの人気者の可能性は高い。
話せる程度の仲になっておくのも悪くはない。
嫌われないように
「はじめまして。浩介です。よろしくね」と、
丁寧に。
「どこから来たの?」
「隣町の高校から、父の仕事の関係でこっちに」
「へー、大変だね、引っ越しとかしたくないわー」
なぜだろう、周りのみんなががこちらを見る回数が多くなった。
「何部やってたの?」
「一応サッカー部に入った」
「俺もサッカー部!サッカー楽しいよな」
「そうだね」
「なんか気が合いそうじゃん。
わかんないことあったら何でも俺に聞いてよな!」
よかった。話せる人ができそうだ。
見た目はイケメンだし、おそらくクラスの中心メンバーであろう。
今まであまりかかわってこなかったタイプの人間だが、まあいいだろう。
けどなぜだろう、この違和感は。少し裏を感じる。
昔から人間観察が好きだった。
気づいたのは中学生のころ。
小学校のころ、成績が上がると
親がほめてくれるのがうれしくて、
どうやったら成績が上がりやすいのか、
小学生なりに考えた。
先生と仲良くなることだ。
先生に媚を売れば小学生の成績は簡単に上がる。
成績のいい子と、
その子に対する先生の行動を観察していた。
そのおかげもあってか、
小学校の中では優秀なほうだった。
中学生になってからは、学力が加わり、
いい子だけでは成績はなかなか上がらなかった。
が、その代わり、
クラスメイトの性格がわかるようになってきた。
その子の性格が何となく分かった。
そこで気が付いた。
人間を観察する力が自分にはある。
そのころだったか、腹黒というあだ名がついたのは。
この特技には、大きな欠点がある。
バレたら嫌われやすい。
もっとも、中学の友達は仲が良かったので、
からかわれるだけですんだが。
人の顔色をうかがって生活をする。
ひびきはよくない。
だからあまり表にはそのことを出さないようにしている。
そしてこの人間観察センサーが樹に働いた。
違和感が気のせいであってほしい。
違和感を胸の奥にしまい込んで、元気よく
「わかった、ありがとう!」と樹に返事を返した。
まだ感じるみんなの視線も何か珍しいものを見るような、胸に突き刺さるような視線だった。
この後、先生に静かにしなさいと学校に転校して初めてのお叱りを食らった。
一日一話ペースで頑張っていこうと思います。
よろしくお願いします。