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ぬいぐるみの夢




 あれは一体誰だったのだろう。

 あれから悶々とした日々を送っていた。


 自信のない記憶力をあてにしてみても、私が過去出会った人の中にそれらしい人物は引っかからなかった。

 では私の想像力が飛躍的に上がったのかと言われても、やはりそれもあり得なかった。

 あれから一度、夢の中で理想的な王子様を造ってみた。

 もちろん、かぼちゃパンツ王子である。

 次の瞬間出てきたものに私は悲鳴を上げた。


 うっかり悪夢を見てしまってから、だいたい10日程経った。

 例の夢からは15日ほど空いている。

 夢といっても毎日見るわけではない。

 そこは皆と同じであった。

 連日して見る時もあれば、数十日見ないこともある。

 

 前回の検証が失敗した事で、そろそろ次に考えられる事を試してみたかった。

 そして今、ようやく私は念願の夢の中にいる。

 

 私の周りを囲むのは、大小様々なぬいぐるみ達であった。

 小さいものは、わたしのエプロンドレスの胸元のポケットに収まっており、両手で抱きかかえられるサイズや大の大人とほぼ同じ高さのぬいぐるみが私と一緒にひょこひょこ歩いている。

 ぴょこぴょこか?

 兎に角かわいい。


 うさぎ、ねこ、くま、いぬ、おんなのこ。

 中に綿を詰められた彼らは時にぐらつき、時にポテリと転びながら行進していた。

 ゆうに100体以上ある。

 中でもとびきり大きいのが、空想の生き物である赤いドラゴンのぬいぐるみ。

 絵本の中で禍々しく、時に優美に描かれているドラゴンも、ぬいぐるみになってしまえば何とも愛らしかった。


 ドラゴンの柔らかそうな頭が私の元へと降りてきた。

 乗れ、ということだ。

 家の二階ほどの高さがありそうなドラゴンは、ドシンドシンではなく、ぽんっぽんっ、と歩みを進めている。


 今日は、例の夢の境目・・・・を探しに行き、壁の向こうの人物にコンタクトを取ることが目標である。


 「いざ行かん! かの者へ!」


 どんちゃんと楽器が鳴り響いた。

 いつのまにか、ぬいぐるみ達の手には楽しげなものたちがそれぞれに握られていた。


 ぞうはラッパを、ライオンはシンバルを。

 太鼓にトロンボーンにサックス。

 女の子と男の子のぬいぐるみは旗を掲げている。

 鳥たちは丸い羽を必死に動かし、満杯の花弁が入った籠を咥えている。


 ぬいぐるみ達のパレードだ。

 絶え間なく舞う花弁は鮮やかで、変わらないはずのぬいぐるみ達の表情はどれも笑っているように見えるから不思議だ。


 「さぁみんな、目指すは私の夢の終わりだよ。 発見したものは直ぐに私に報告。 その者には名誉勲章を捧げよう!」


 ひときわ楽器が鳴り響く。

 パレードは楽しげに進んでいった。

 たまにドラゴンが羽をバタつかせ、首のつけ根に座っている私はキョロキョロと辺りを見渡す。

 しかしいくら探せどなかなか見つけられなかった。


 あれは偶然の産物だったのかと頭をひねったところで、どこかへ旅立っていたオウムのぬいぐるみが戻ってきた。

 私の上を旋回すると、パレードが進んでいる先から2時の方向へと飛んで行った。


 「みんな、あの子の後について行って」


 オウムを追って行進し、しばらくすれば前と同じように夢が途切れている場所を発見した。

 役割を終えたオウムは私の横に着地すると、面白いくらい胸を張って誇らしげにしている。


 「あなたにはちゃんと、後でご褒美をあげなきゃね」


 そうこうしているうちにパレードが止まった。

 いつの間にか楽器も消えており、ぬいぐるみ達は壁の近くに集まってその向こうを見ていた。


 私もドラゴンから降りると、ぬいぐるみをかき分けて壁の前で目を凝らす。

 

 やはり、居た。

 前回よりも距離が縮まっており、前には分からなかったことが見えてきた。


 あれは、男の人だ。

 がっちりとした広い背中は、父よりも随分と逞しい。

 顔は見えないものの、後ろで結わえた珍しい黒髪は指を通したら気持ち良さそうな程サラサラに見える。

 服はとても上等そうだった。

 平民のような簡素なものではなく、遠目でも襟部分に金糸で丁寧な刺繍が施されているのが確認できた。


 「すみませーん!」


 ダメ元であったが、やはりダメだった。

 こちらの声は全く届いていないようである。

 しかし今日は、私一人ではなく協力者が沢山いるのだ。

 前回確か、押したら壁が少しへこんだのを思い出す。

 多勢に無勢。

 ぬいぐるみ達の力を合わせて押し込んだら、もしかしたら壁をぶち破れるかもしれない。


 「さぁ、最後の大仕事だよ。 いっせーのーで、でここ押すからね。 ちょっとネズミくんたち、まだだよ」

 

 ここはタイミングを合わせて、一発爆発的な力を生み出したいところ。

 みんなが壁沿いで準備ができたのを待って声を張り上げた。


 「いっせーのーでっ!」


 みんなの全体重が壁にのし掛かる。

 音はしないものの、重さに合わせて壁はグニャリグニャリと変形して今にも破裂しそうだ。

 ついでに私も後ろにいる大きなクマのぬいぐるみによって一緒に潰れている。


 夢なのに恐ろしいのは何となく息苦しさを感じてしまう所だ。

 先入観というのは切り離すのに苦労する。

 壁の向こうからみたら、絶対変な顔になっていること間違いなしだよ。

 頬っぺたが壁に張り付き、口も潰れて変な方向に曲がっているのが見ないでも分かる。

 ちょっとこれ、今あの人に振り返られたらまずいんじゃないだろうか。

 良くてひょうきんな奴。

 悪ければ完全にホラー認定を受ける。


 それはやだなぁ、と落ち込んだところで、壁がパァンと爆ぜた。

 それはもう気持ちいいくらいに。


 まるでスローモーションのようだった。

 夢の中だからなのかもしれないが、飛び散ったガラス片も、押し出されたぬいぐるみ達も、ゆっくりと宙を舞っていた。


 前のめりになった私は、あの人がギョッとしてこちらを振り返ったのを視界の片隅で捉えた。

 

 精錬とした面持ちを驚愕に彩り、見開かれた瞳はアメジストをはめ込んだように美しかった。










 

 


 目覚めてすぐに、枕元に置かれたぬいぐるみの中から目的の子を探し出す。

 一度大事に抱えると、近くにいたレベッカにそっと渡した。


 「庭に咲いてるカンパニュラの花をこの子に飾ってあげてくれないかしら」

 「このオウムのぬいぐるみにですか?」

 「そう、約束したからね。 名誉勲章よ」




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