1章6話 出芽
「ジニウス、振りが遅い! それでは敵にやられてしまいますよ」
「ぐっ…くそっ!」
ベルフレム軍撃退の翌日からアウレリアによる剣の指導が始まった。
「どうした? もう終わりか?」
「まだまだ!」
アウレリアによる厳しい訓練は短いながらも効果は歴然であった。
優秀な血を持ち、元来高い魔力と体術を持つレインはもちろんのことジニウスもメキメキと才覚をあらわしていく。
「はぁ…はぁ…。も、もう動けない」
「お、俺も…」
「よく頑張りましたね。以前とは別人のようですよ」
2人の相手してなお息一つ乱さないアウレリアは笑みを浮かべながら語りかける。
「くっそぉ〜。年は俺たちと対してかわらないはずなのに…なんで勝てねぇんだ!?」
「これも魔晶の力、なのかな?」
「どうでしょう。以前の私は、今ほど剣の振りや身のこなしが優れた記憶はないですが…」
「ま、過去のことなんてどうでもいいさ」
にやりと微笑むレイン。
「アウレリアに勝てるようになったら、実質大陸で一番の剣の使い手ってことだろ? なら、そこまで修行するだけさ」
「なんていうか…レインらしいや」
「私を超える日、ですか。楽しみにしてますよレイン。それにジニウスも」
「オレも!?」
「パワードの出ではないとはいえ、可能性はゼロじゃありませんから」
「ま、限りなくゼロに近い確率だろうけどな」
「言ったな! 見てろよ、今にレインより強くなってやる!」
3人の特訓を遠くから見つめる者がいた。
クライヴ・オーガス。オーガス家の当主であり、総大将である。
「ダニー、バイセルそれにミョルデよ。我が国にも若き力が芽を出しつつある」
軍議を終えた一行は沈みゆく日を見ながらそれぞれ思いにふけっていた。
「ゲシン様の残してくださったこの地や人々を決してレギュラの手に渡してはなりません」
「バイセル殿のいう通り。アウレリアだけではない。我らが魔晶石を使えば一騎当千」
「アルクスの獣の恐ろしさをもう一度大陸全土に知らしめてやりましょうぞ!」
それぞれが士気を盛り立てる言葉を放つ。
「ああ。来るべき戦に勝つには、お前たちの力がなくしては勝利はない。期待しているぞ」
それは木々が色をつけ始め、多くの作物が実をつける季節のことであった。
「アラン様!! アラン・ウェールズ様!!」
「なんじゃ、朝から…まだ日も出ておらんぞ?」
「バイセル殿が…オーガス家を裏切りました」
「なんじゃと!!!!!」
布団から飛び起きるアラン。
重臣バイセルの離反、その知らせはオーガス軍全体に激震を与えた。
すぐに全家臣をよんでの軍議が開かれる。
「ドウゲ・スコーンに続いて、バイセルまでも…!」
「なんでも<グラン・パワード>が一つオルブライト家と繋がっていた様子。オルブライトがレギュラに忠誠を誓っている今、実質的にあやつは寝返ったも同然!」
「ぐっ…許せん! このダニー・ロビンソン今すぐにでも兵をあげ奴の首をとってみせよう!」
その勢いある宣誓に俺も、俺もだと威勢のいい声が飛ぶ。
「待て。我が軍の情報を多く持ったあいつが裏切ったとなれば、これまでの軍議はすべて無駄。策を練り直す必要がある」
熱くなる家臣たちを抑えるクライヴ。
「策など必要ありません! そんなことしているうちにまた新たな裏切り者がでたらどうするつもりで!?」
「不敬な! この中に裏切り者がまだいるとでも?」
「いないと言い切れますかな? ミョルデ殿」
「…くっ!」
「いっそ、敵に総攻撃をしかけましょうぞ! アルクスの獣たるオーガス家の恐ろしさをレギュラに思い知らせるのです!」
紛糾する軍議の中、ジニウスの父アランが重い口を開く。