1章4話 剣士
ジニウスとレインが会議場へとついた時。
軍議が終わったようで重たい扉が開かれた。
「もうおしまいだ…あのような少女に頼るなど」
「恐怖で先が見えておらんのだ…」
「次の行くあてを探した方が良さそうだな北か南か…」
「ゲシン公が存命でさえあれば…なんとも残念だ」
総大将クライヴへの不満を口にする重臣たち。
レインを見るなり口をつぐみ足早に各々の陣へと消えていく。
2人が中に入るとクライヴの横には美しき金髪の少女が座っていた。
「レインにジニウス、か。驚かないで聞いてくれ。ベルフレムとの戦い勝機が見えてきたぞ」
「兄さん…?」
今までの暗く悩んだ顔が別人のようであった。
この数年見たことのない兄の笑顔に動揺するレイン。
「アウレリア!」
クライヴが名を呼ぶとそれまで静かに座っていた少女が立つ。
「あなたがクライヴ様の弟のレイン様ですね。話は伺っております」
「彼女はアウレリア。100年前の名高き剣士だ」
「…っ!?」
ジニウスは戦時下のストレスでついにクライヴの頭がおかしくなったのかと思ったが、とても口にすることはできずそっと下を向いた。
「さっきから何を言ってるんだよ? 頭でも打ったのか?」
「レイン。嘘ではない。昨日、魔晶の谷で見つかったんだ」
「魔晶の谷って…」
「そう、我が国最大規模の魔晶石採掘の地であり、同時に魔晶粒子濃度が濃く危険な場所。そこで彼女は100年間眠りについていた」
「ば、バカなっ!? 大量の魔晶を浴びれば人は死ぬはずじゃ…」
「普通は、な。だがどういうわけか彼女の体は魔晶の結晶体につつまれ無事だった。まるで塩漬けにされることで時が止まったかのようにな」
「でもそれとベルフレムの野郎との戦いに何が関係あるのさ」
「レイン。彼女はお前以上の剣の達人だ」
「れ、レイン以上の…!?」
「もうじきベルフレム軍の先遣隊がこの城の周囲を囲むだろう。彼女にはそれを掃討してもらう」
「命令とあれば私一人で数百、数千の軍勢を蹴散らしてみせます」
「俺やジニウスと対して年が変わらないあんたが、ベルフレム軍を蹴散らす…? 100年も眠ってたならまだ現実が見えてないんじゃないの?」
「レイン、やめろ。彼女の実力は私がよく知っている」
「わかったよ。アウレリアの実力、そばでしっかり見させてもらう。不甲斐ない戦いをするようだったら俺が全部片付けるからさ。安心して戦いなよ」
煽るレインに、表情一つ変えずに凛とした視線を送るアウレリア。
「それだけではない。彼女を助ける過程で純度の高い大量の魔晶石が手に入った。魔導部隊と私、それにアウレリアが使えば、いくらベルフレム軍に勢いがあるとはいえ敵ではない」
「私には他に行くあてはありません。オーガス家の勝利のため、全力で挑ませていただきます」
「期待しているぞ! 我々は必ず勝つ。父上が残したこの地を守ってみせる」
レギュラ・ベルフレムの影に怯え、自信を無くしていた当主の姿はそこにはなかった。
その力強い宣誓にジニウスとレインは、決して錯乱しているわけではないと安堵した。
「クライヴ様! 城、南方よりベルフレム軍の兵が現れました。その数、500!!」
「思ったより早かったな。アウレリア、出番だ」
「はっ! これより戦闘に入ります。」
身の丈ほどの大剣を軽々と抱え城外へと出て行くアウレリアを追うジニウスたち。
大国同士の戦いは間近に迫っている。