1章3話 友人
ジニウスたちはオーガス家の本拠である「エヌゲート城」へと戻った。
城内では来たるべくベルフレム軍との戦争に備え、城の拡張や防衛陣の準備が着々と進んでいた。
「よいしょっと…! エントさん、武具ここに置いておきますね」
「うむ! おめぇ城に戻るのは久しぶりだろぅ? レインに会わなくていいのか?」
「はっ! そうでした!」
そういうとジニウスは急いで城内へと走り出した。
「っと、レインは……うわっ!?」
「きゃっ!?」
人探しに夢中になるあまり曲がり角から飛び出してきた少女にぶつかってしまう。
「ててて……」
思わず息を飲むジニウス。
それもそのはず、ぶつかった相手はゲシンの娘にしてオーガス家の姫君フィオナ・オーガスだったからである。
「ふぃ、フィオナさま!! お怪我はありませんか!?」
「ええ、大丈夫です。それよりも戻って来られていたのですね。初陣はいかがでしたか?」
「それが……思っていたよりも難しく」
「そう気を落とさないでください。初めてなんですから失敗もしますよ」
「そう言っていただけると幸いです…」
ジニウスとフィオナは身分、階級の違いはあれど幼い頃からの顔なじみで時に遊び、時に同じ師に勉強を教わる仲でもあった。
「ジニウス。ここにいたのか!」
「レイン!! 探したぞ!」
名を呼んだ少年と抱擁するジニウス。
「その顔は失敗したって顔だな」
「初めての戦だったんだ。仕方がないだろう」
「俺は初めてでも戦果をあげたけどな」
「オーガス一の天才と比べるなっての!」
レイン・オーガス。クライヴの弟でありフィオナの兄である。
剣術、格闘術、魔術すべてにおいて優れており、ジニウスと同じ年齢ながらすでに数多くの戦果をあげている。
家臣たちからはレインこそ父ゲシンの血を一番色濃く受け継いており、オーガス家の次代を担う者として期待されていた。
ジニウスとレインは幼少期から今に至るまで一番長く行動を共にしてきた間柄であり、身分の差はあるが親友として親しい間柄でもあった。
「いよいよ始まるのか?」
レインは真剣な眼差しをジニウスに向ける。
コクリと頷くジニウス。
「もしここで何かあったら2人はウェールズの里にきてくれ」
「あんな田舎にか? それだけは勘弁だな」
「お兄様、田舎だなんてひどい」
「うーん、実際田舎だからなぁ……」
「もう、ジニウスさんまで…」
「ははは、大丈夫ですよ。ここは必ず守り抜きますから!」
手を取り語りかけるジニウスにフィオナは顔を赤らめる。
「……妹を口説くのは他所でやってくれないか?」
「ば、バカ! そんなんじゃ…!?」
「それよりそろそろ軍議が終わる。兄さんに俺たちの仕事を聞いてこよう」
「ああ! 次こそ失敗しねェ!」
そう言うと2人はエヌゲート城内にある会議場へと向かうのであった。