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1章2話 軍議

レギュラ・ベルフレムが居城であるアズール城を出たとの報が届いて以来、連日連夜クライヴとその家臣達とで軍議が行われていた。

徹底抗戦か、北のグラン・パワード「ダルムード家」と手を組むか…数ある案が出されは議論されるも降伏や和睦を口にするものはいなかった。

「……これより軍議を始める」

今日も重臣の一声により各自が持ち寄った情報の共有や新たな策について議論が始まった。

オーガス家に先代より仕え数多くの兵力を有する重臣「ダニー・ロビンソン」は神妙な面持ちで口を開く。

「…私の兵が確認したところによると、すでに国境近くまでベルフレムの軍勢は近づいているもよう。数も1部隊100を超え、陣を築いているとのこと。これからさらに多くの兵がこちらへ向かってくると思われます」

それを聞いた別の家臣が噛み付く。

「もちろん、ベルフレム軍を追い払ったんだろうな? 確認してのこのこ帰ってきたとは言わせんぞ」

「国境線で戦をむやみに始めるわけにいかない。それは貴殿にもわかるだろう。それに…」

「それに…なんだ? 申してみろ」

クレイヴは口をつぐむダニーに問う。

「レギュラはすでにガーランド家と手を組んだようです。ガーランド家の兵と小競り合いになったとの情報も入ってきております。」

「なんと…厄介なことになった」

家臣団がそろって言葉を失う中、クレイブは口を開く。

「西と南から攻めてくるとなれば、まずは我々側で最も西南にあるスコーン家を守る必要がある。ここを取られればもはや歯止めは効かないだろう…」

苦虫を噛み潰したような苦しい表情のクレイヴに家臣は助言する。

「ワース城からスコーンの城まで2日程度。今、兵を挙げれば間に合うかもしれません」

意を決したようにクレイヴは立ち上がる。

「よしっ! ならばこれよりロビンソンを大将として数万の兵を…」

「緊急! 緊急事態発生ッ!!」

クレイヴの宣言をかき消すように伝達係が息を切らしながら軍議の場へと入ってくる。

「なんだ…?」

「ハァハァ…。も、申し上げます。す、スコーン家当主ドウゲ・スコーンが…ベルフレム方に寝返ったご様子…!!」

その報に、家臣一同が騒然となる。

無理もない「ドウゲ・スコーン」と「クレイヴ・オーガス」は義理ではあるが親類関係があり、その信頼関係は強固なものであったからだ。

「バカな……スコーン家がオーガス家を裏切るなど…」

「スコーン領を奪われたとあっては次は私の…くっ、もはや軍議どころではない」

「ま、待て! 国元へ帰ると言うのなら私も……」

一同狼狽し、軍議は中断。

オーガス家に仕える小国の国守<パワード>たちに動揺が広がった。


その軍議を近くで聞いていた者がいる。

アラン・ウェールズ。

ジニウスの父であり、オーガス家の所領では北西に位置する「クタゴ」と呼ばれる場所を守る領主であった。

「僭越ながらわたくしに策がございます」

「アラン・ウェールズか……なんだ、申してみろ」

「クライヴさま! ウェールズ家はパワードでもないただの一領主。そのような者の意見に耳を貸すなど…」

「よい。有益かそうでないかすべては私が判断する。それとも私の判断が信用ならないか?」

「い、いえ…」

「そろそろよろしいかな、ミョルデ殿」

「ウェールズよ…随分と自信があるようだが起死回生の策なのであろうな?」

ニヤッと笑みを浮かべるアランはオーガス家の重臣が一人ミョルデにも臆することなく物申す。

「恐れながらスコーン家がベルフレム方に寝返ったと言うことは、西側の守備はもはや期待できない。逆にここに留まっていてはスコーン兵に狙われる可能性すらある」

「そんなことはわかっておる……」

苛立ちながらに小言を言うミョルデ。

「故にここは本拠であるエヌゲート城まで兵を引くがよいかと」

「この軟弱者め! 怖気づいたか!!」

立ち上がり声を荒げるミョルデに、アランは鋭い眼光で返す。

「ならばミョルデ殿はどうなさりたいのですか?」

「スコーンに制裁を加えるのだ! 我らを裏切った罪の重さ、命に代えて思い知らせてやる!!」

「確かにスコーンを処罰するのは大事ではあります。ただ奴らとの戦っている間にベルフレム・ガーランド連合軍に攻撃されたらひとたまりもありませんぞ?」

「そんなもの、全軍を送り込めば物の数日でスコーン領は焦土と化すわ!」

「それでは北と南のグラン・パワードから攻められる。熱くなるのは分かりますがここは冷静に判断するときです」

「何をォ〜!!」

「……ミョルデ。気持ちは分かるがここはアランの言う通り一度兵を引こう」

「ですが……」

「難攻不落のエヌゲート城であれば、いかにレギュラの力が優れていたとしても攻略は不可能だ」

気落ちするミョルデの肩をポンポンと叩きほほ笑むクライヴ。

「大丈夫だ。父の残したこの地、決してレギュラには渡さん!」

「いざとなれば、このアラン・ウェールズ。先陣をきってレギュラ・ベルフレムの首をとってきてみせましょう」

「ああ、期待しているぞ!」


長時間に及ぶ軍議は終わった。

「今度はスコーンが裏切りか…」

やれやれ、とため息をつきながらオーガス家の家臣「バイセル」とその配下の兵たちが城の廊下を歩いていた。

バイセルの隣にはアランの姿がある。

共に長き間オーガス家に仕え時に同じ戦場で共闘したこともあり、家同士が友情にも似た固い絆で結ばれていた。

バイセルに同調するかのようにアランは口を開く。

「これ以上、裏切り者が現れないよう今一度、結束を高める必要がありますな」

「大陸一とも呼ばれたオーガス家の血の結束もいまや見る影もなし、か」

「それだけクライヴさまの父上…ゲシンさまが偉大だったということでしょうな……」

「ああ…だが、だからこそ先代より仕えてきたわしらがクライヴさまを支えなければならんと思うのだ。そうは思わんか、アラン?」

「ええ、バイセルさまの言う通りです。互いに力を尽くしましょう」

「もちろんだとも!」

そういうとバイセルはエヌゲート城への移動準備のため自らの拠点へと戻っていった。


「ベルフレム・ガーランド連合軍・・・それに裏切り、か。考えたくはないが、もしかすると」

「父上!」

「おお! ジニウス戻ったか。どうだった、初の実戦は」

「自分では問題ないと思ったのですがいざ敵と向かい合うと怖くなってしまい…」

「心配いらん。わしも初陣はそうだった。オズミーなど小便もらして帰ってきたぞ」

「兄上がですか!? それは知らなかった……」

「そりゃそうじゃ。あいつ、絶対に内緒にしろと口うるさくてなぁ…」

「あの……軍議が終わったようですが、我々はこれからどうなるのですか?」

「ああ、そうであった。エヌゲート城に戻るぞ。すぐに荷物をまとめよ」

「エヌゲート城に! 本当ですか!!」

オーガス家の人質として家族の住まう城に戻るとあって声高になるジニウス。


「ジニウスよ…これからこの地は荒れるぞ!」

「不安もありますが…楽しみでもあります」

「ほぅ、楽しみ…?」

「歴史の大きな転換期に、自分が立ち会っている気がするんです。……父上もそうは思いませんか」

「ははははは。さすがは我が息子。考えがその辺の凡兵とは違う」

大笑いするアランはジニウスの髪をクシャクシャと撫でる。

「帰るか。エヌゲート城へ」

「はいっ!!」

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