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1章1話 偵察

大陸暦1011年、8の月。

連日、照りつける日が歩みを進める兵士の体力を奪う。

7大国<グラン・パワード>が1つオーガス家やそれに従う小国の国守<パワード>は、レギュラ軍の侵攻を防ぐべく国境線へ兵を送っていた。

「………………」

「どうした、ジニウス? レギュラ軍が怖いか?」

歩みを進める老兵が若き兵に声を掛ける。

ジニウス・ウェールズは、オーガス家に長年使えるウェールズ家の次男であり、齢15になる若き兵であった。

「とんでもない。恐怖ではなく、ワクワクしてるんです。」

「はぁ? 戦が始まるってのにワクワクって……変わりもんなところは親父譲りか」

「ははは、そうかもしれません」

呆れ顔の老兵に対して笑顔で答えるジニウス。

自身初となる実戦が近づいているというのに少年は期待と高揚感でいっぱいであった。

ジニウスの兄はすでに独立しウェールズ家、領内の一部を管理している。

自分もそんな兄に負けず早く家を支える立場になりたい、少年の胸の中にはその思いでいっぱいであった。


「相手はレギュラ軍ですからね。一体どんな手を使って攻めてくるのか……」

「おめぇ…なんか楽しんでねぇか?」

「そんなことないですよ。ただ…大陸で最も勢いのあるレギュラという男がどんな人なのか、すごく気になります。一度、会ってみたいですね」

ジニウスの発言にこれだから若造は、と言わんばかりの顔つきで老兵は返す。

「無理に決まっとるだろ! レギュラと言えば敵対した相手は身内だろうが神職だろうが御構い無しに皆殺しにするやつじゃぞ」

「だからこそ興味があるんですよ!」

「奇跡的にわしらがレギュラに会えるとしたら、そん時は首から上だけじゃろうな…」

「恐怖だけであそこまで多くの人が彼についていくとは思えない…きっと人を惹きつける何かをもってるんでしょうね」

「そうかもしれねぇー。ま、わしら下の人間には関係ないこった」


山あいの国境線近く、ついに友軍ではない兵士の集団を発見する。

「エントさん。あれは…レギュラの軍勢でしょうか?」

「違う! よく見んか! ありゃガーランド家の紋じゃ。」

「なぜガーランド家の兵がこんなところに?」

ジニウスは首をかしげる。

「なぜって決まっておるじゃろ」

「…………?」

「レギュラと手を組んだんじゃよ」

ガーランド家も7大国<グラン・パワード>の1つである。

レギュラ・ベルフレムが旧7大国が1つ「イングリス家」を討った後、空白地帯となったイングリス領の一部を支配。

レギュラもその支配を認めたため7大国入りを果たしていた。


「レギュラ軍だけじゃなく、ガーランド軍とも戦か」

「いくらクライヴ様でもグラン・パワードの2つに攻めてこられたのでは…」

オーガス軍の兵隊から厳しい声が聞こえてくる中、ジニウスはじわじわとガーランド軍の兵士達に近づいていく。

「お、おい! 何してんだ!? 見つかったら殺されちまうぞ」

老兵エントはジニウスを叱るも一度好奇心に火がつくと止められないのがこの男であった。

「見つからなければいいんです!」

「馬鹿言うでねぇ!」


あと10歩、あと20歩と近づくにつれガーランド軍の軍馬の鳴き声や声が耳に届くようになってきた。

「これ以上は危険じゃ」

老兵エントの忠告もジニウスの耳には届かない。

「軍勢を率いているのは誰でしょう? ガーランド家の名のある人だと嬉しいんですが…」

さらに近づこうとしたジニウス、その時……

ガランガラン!!! ガランガラン!!

あろうことか自軍の仕掛けていた音の出る罠に引っかかってしまう。

「何者だ!!??」


「しまったッ…!!」

向かってくる兵士に恐怖し足がすくんで動かない。

そこへエントが突進し、ジニウスに槍を向けた兵士を突き飛ばす。

「ばかもんが! 逃げるぞ!!」

老兵エントともに猛ダッシュで逃げるジニウス。

少数かつ偵察要員でしかなく満足な兵装もしていないオーガス軍の兵では、重装備で多人数のガーランド兵に立ち向かえるはずもなく投石と地の利を生かしただ逃げるしかできなかった。


命からがらジニウスたち偵察兵はクレイヴ・オーガスが駐留しているワース城へと逃げ込む。

「し、死ぬかと思いました。エントさん、ありがとうございます」

「考えなしに突っ込む馬鹿がいるか。わしより先に死ぬことは許さんからな!」

エントの優しい説教がジニウスの心に刺さる。

呼吸を整え先ほどの光景を思い出し情報を整理するジニウス。

エントは服についた砂や埃を払いながらどこかへ向かおうとする。

「何か用事でも?」

「さっき見た光景をクレイヴ様に伝えるんじゃよ。でなければ先ほどのわしらの行動は無意味じゃろ」

「ああ、なるほど。褒めていただけるといいですね」

「…そうじゃな」

深刻な顔つきでクライヴたちのいる軍議の場へと向かうエントを何も知らないジニウスは笑顔で見送るのであった。

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