プロローグ
世界が明転した。
先ほどまで自分がいた場所とは全く違う景色に、竹下桂介は明るさのあまり思わず顔を下に向けるが。
どっちを向いてもまったく同じ白いタイルのようなものが広がっているせいで、本当に自分が下を向いているのかどうかすら曖昧に感じ、思わず体が横倒しになってしまいそうになった。
ケイスケは座っていた丸椅子を掴んで姿勢を整え、ようやく慣れてきた目で改めて四方を見渡す。
そして、自分と同じように、この空間の四隅に置かれた丸椅子にそれぞれ座っている三人の姿が遠目に映る。
この場所に強制召喚されてから三十秒くらいは経った筈だが、未だに誰も席を立とうとはしなかった。
「いよいよ……だね」
小さく、鈴の音のような声を発したのは、ケイスケの椅子から向かって右側に座る少女、河野瞳。
少しだけ長めの前髪に隠れた二重の眼、こぶりな可愛らしい鼻と唇、白く透き通るような肌。
それらはまるで西洋人形のようだった。
髪質も綿毛のようなふわふわしたもので、自然とその顔立ちを浮き上がらせようとしてくれている。
ただ、本人としてはそれが恥ずかしいらしく、いつも顔を俯かせてその可愛さを隠しているのだが。
その恥らう様子もまた魅力になるという不思議な効果を生み出していた。
もっとも、今現在彼女が顔を俯かせているのは恥じらいからではなく、緊張や恐怖から来るものだということが、膝の上でぎゅっと握り締めた小さな両の拳と、震える脚が物語っていた。
「わかってるわ。今更、そんなこと言われなくても」
凛とした声が、空間に響く。返答を返したのはケイスケの左側に座る女子、日比谷灯子。
輝くように艶のあるストレートの髪を腰まで流しているその姿は、一瞬で他者の目を惹きつける魅力に溢れている。
さらに胸部には衣服の上からでもわかる圧倒的なふくらみを有しており、モデルのようなすらりと長い脚を組んで座るその姿は、まるで絵画から抜け出てきたかのような完璧さと言えた。
まつげの長い細めの双眸、綺麗に通った鼻筋、大人びた風貌と、それに見合った立ち振る舞いが相乗効果を発揮し、近寄るものすべてを平伏させるかのような雰囲気を持たせていた。
そんな彼女でさえ、先の言葉にはわずかに歪みのようなものが混じっていたことが、長年の付き合いであるケイスケにはわかってしまった。
「安心してください! どんな選択をしても、俺はトウコさんの味方です!」
鼻息荒くそんな言葉を発したのは、ケイスケの正面に座っている少年、村上篤。
セットしていない乱雑な髪、まんまるな目に団子鼻、いつも歯を出して笑ってばかりの大きめの口といった、嫌味のない三枚目顔を持ったその少年は、人を不安にさせない独特の空気を醸し出している。
しかしそんな年中元気男をもってしても、今の重苦しい空気は変えられそうになかった。
それはここに集められた四人が仲の悪い者同士であるから――ではない。
むしろケイスケを含めた四人は同じ高校で同じ部活動に所属する間柄であり、同じ教室に在籍する他のどのクラスメイトよりも、親しい友人であると、少なくともケイスケは思っており。
そしてそれは他の三人も同じであることは、今の剣呑な空気こそが逆にそれを証明していた。
そのまましばらくまた誰も口を開かなくなった。
明らかに全員が言い淀んでいるのを察し、ケイスケは自ら先陣を切る決意を固めて。
決定的な言葉を発した。
「さあ、それじゃあ決めよう。俺たちのなかで、一体誰が異世界に行くのかを」
明確に言ったことで、ケイスケは涙が出そうになった。
ふいに、苦悩や葛藤とは無縁だった、かつての日のことが頭に浮かんだ。
メインは異世界ファンタジーなのですが。
第1章は現実世界での話がメインです。
異世界系の話が好みの方も、しばらく読み進めて頂ければ幸いです。