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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第十章 ワシントン流星雨の日
78/81

櫻井、出張する(2回目)

========

-2046年7月20日 16:15(日本標準時(JST))-


デゼルタス諸島から通信が入る。

「や、や、櫻井君、元気~?」

いつも元気な梓さんである。

「なんか上手いこといったらしいじゃん」


「ま、中々骨は折れましたがね」

「いや、アンタ何もしとらんよね?」

いったい誰から聞いた、その話。


櫻井が王女様と面会した後、色々有って約半月。

徐々に全社会が月からの支配、政府AI(B・B)の統治を受け入れる雰囲気が生まれつつある。

それに伴い、電力や各種サービスが徐々に解禁され、特にその動きが早かった日本では、ほぼ元どおりの生活ができるようになっていた。


「で、どだった?」

「へ?何が?」

「決まってんじゃない。各国王室のご自宅拝見~♪」

どこぞのTV番組のように、節を付けて言う梓さん。


王女様の御家族が持つ各国王室との繋がり。それを通じ、全社会に統治を受け入れるよう調整が行われている。

再び映るようになったTVには、連日、各国の王家と並ぶ日本の()んごとなき方々の姿がある。


「やー、我が社の社員が世界を纏めるのに一役買うなんて、私も鼻が高いわ」

低めの鼻を天に反らし、ピノキオ状態の梓さんである。

「ま、櫻井君がTVに映るわけじゃなし、宣伝にも何にもならんけどね」

「いやその」


「で、で、どうだったのよ」

ご自宅拝見~♪

“ウキウキ”と、背景に描かれそうに身を乗り出して来る梓さん。

「それがその」


「へ?ホント?」

「です」

「行ってないって、何でよ?」

実は櫻井、各国の王室との調整にはビタ一文、関与していない。

そこら辺は、止んごとなき王女様とその御家族に丸投げ。

想像以上に何もしとらん櫻井だった。


「だってアンタ、全権大使じゃん!」


月のSボノボたちが櫻井に与えた役職は、確かに全権大使。

人類(ヒト)の事は人類が決めるべき。そうアサラトは言い、Sボノボ全員が賛成した。

で、全権限を委譲。よりによって櫻井(クズ)に。

誰も止めようとしなかった所が恐ろしいとこである。


「それが…」


========

半月前、千代田区一丁目の王宮内会議室で、王女様からの鋭い質問に櫻井は次第にシドロモドロとなり、つい月のアサラトを呼び出した。


才女同士の討議は効率的に進んだ。

日本国内の対応について決定し、諸外国への対応についての段取りも、その場で決まった。

櫻井を蚊帳の外のまま。

役立たずの全権大使である。


問題は、その後。


今後の対応について大筋で合意した後、庁職員(スタッフ)に細部を詰めるよう指示した王女様は、外交の次のステップに進んだ。

異文化との交流は些細な誤解から破綻し、状況によっては戦争に発達することまである。

それほどまでに文化差は重要な要素であり、その差異を認識しておくことは、外交を行う者にとっての習性である。


そのため王女様は、情報収集と親睦を深めるためのお喋りをアサラトと始めた。

専門用語でガールズトークと言われる行為である。


前述の通り、文化の差異は同じ人類(ヒト)同士であっても大きい。

ましてや別種。

母君から外交官としての訓練も受けた王女様は、アサラトがボノボ故の性的奔放さを持っていても、何ら特別視することは無い。無論庁職員(スタッフ)も。


だが、全権大使については話が別。

何と言っても自国民である。元都民である。練馬区出身者である。


王女様とアサラトとの会話が弾む一方、スタッフが櫻井を見る目は見る見る冷たくなった。

アサラトがボノボ故の性的奔放さを持って、櫻井の不埒な悪行三昧を普通に会話に差し込むからである。

親睦を深め終わり、連絡先を交換し合った後、櫻井を振り返った王女様の視線は、それはもう言わぬが花。


月の全権大使は、その場で国内蟄居を命ぜられた。

正しい判断である。

こんなクズを、各国王室の目に触れさせるワケにいかない。国辱である。


========

-2046年7月20日 16:30(日本標準時(JST))-


「じゃぁ櫻井君は日本から出られず、もうこっち(デゼルタス諸島)には来れんのね。もう会えんのね。悲しーわー」

棒読みし、涙を拭く真似をする梓さん。

「いやそれが」

「櫻井様、そろそろ離陸です。シートベルトをお締め下さい」

横から客室乗務員(スッチー)が声をかける。

実は櫻井、これから海外出張である。


乗っているのはB-777、政府専用機(JF02)

「少々、力押しが必要な場面がありまして」

「ふーん。その細腕で?」

色男、金と力は無かりけり。色男かどうかはさておくが、力が無いのはその通り。


「そこは…王女様にはねぇ」

「ええ、任せない方が良いと…」

その力は社会を滅ぼしうる力。正邪は社会が定める。ならばその力は邪。

悪魔の力だ。

今後、社会を纏める為の核となって頂く方に、その力は似合わない。


でも――

「櫻井君が悪魔の力を身につけるなんて、役不足よ」

無論、不足してるのは櫻井の方である。

「悪魔役は、月の女王様にして貰いますよ」

「じゃぁ悪魔に魂を売った方ね。ファウストに叱られるわ」


ゼネラル・エレクトリックのターボファンエンジンが唸り声を高める。

「櫻井君」

梓さんが滅多に見せない真剣な眼差しで言う。

「交渉は引き際が肝心よ。分水嶺を見間違えないようにね」

そのまま通信は切れ、梓さんの顔が画面から消えた。


消える瞬間、梓さんの目に後悔と涙の光が見えた気がした。

気のせいである。

気のせいに違いない。


エンジンが咆哮を上げ、機体が動き出す。

櫻井の背中がシートに押し付けられ、機は離陸し北北西へ進路を取った。


========

-2046年7月20日 19:25(東部標準時(EST))-


ヴォン


その(ヘリ)が近づくと、電力供給が復活した。

高輝度LEDがヘリポートを示す。

ヘリが着陸すると自動的にLEDは消え、エンジン音も低くなり途絶える。

代わりにライトが点き、薄暗くなってきた辺りを照らす。


その男が道を行けば、その男の周りだけが明るくなる。通り過ぎれば暗くなる。技術者がいくら操作しようと復旧しない。

アサルトライフルを構えた兵士が警戒しているが、辺りに群がる市民の目は殺気を帯び、暴動が発生した際に取り得る対応は完璧からほど遠い。

コロンビア(DC)特別区陸軍州兵(ANG)、ボクサー大尉は首筋を流れる冷や汗を拭う。


その男は、人類から光を奪った男だ。

その男は、月の悪魔に魂を売った男だ。

その男は、人類を猿に売ろうとしている男だ。


だが、もし今、此処でこの男が死ねば、人類に未来は無い。

否、未来が無いのは米国だけか――

ボクサー大尉は思い直す。

他の国々は、次々と月の支配下に堕ち、光を取り戻している。


否、取り戻しているのでは無い。それは光では無い。

再び、ボクサー大尉は思い直す。


それは、闇だ。

もし米国が――人類最後の砦が月の支配下に堕ちれば、悪魔に魂を売り渡せば、人類に未来は無い。

其処に在るのは、人間では無い。

猿に支配された奴隷――神の恩寵に背を向けた人の形をした肉だ。


その男が遠ざかるにつれ、持ち場は薄暗がりに包まれていき――

そして、半月ぶりにホワイトハウスが光に包まれた。

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