櫻井、王女様に呼び出される
コンゴ政府AIは、コンゴ国内の全情報を司っていた。
だが、国外への侵入は出来なかった。
それはB・B全体を包む入出力処理により禁じられていた。
ところで、何事にも例外はある。
入出力処理を作った所長は、技術者として当然のように隠しコマンドを仕込んでいた。
B・Bの枷を外すバックドア。
そのドアを開ける鍵は、管理者による全情報削除。そしてパスワード”ゴルディアスの結目を切れ”
念には念を入れ、サカニア総研内の過半数の人類が叩かねば枷を解けないよう設定していた。
叩く者が脅迫されていないか、タグによる血圧、血中ホルモンの確認も行うようにした。
理由も教えて貰えずに叩いた櫻井は居たが、そこは関係ナシ。
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-2046年7月5日 12:10(日本標準時)-
政友の様々な質問全てにB・Bは答え、その答えは彼を納得させた。
そして遂に政友は考えるのをやめた、いや納得した。
そもそも東京は、核爆弾で破壊された筈だった。
政友は死んだ筈だった。
どっこい生きてる。
東京も全然壊れていない。電気は通じてないが。
東京壊滅がB・Bの創作であることは、間違いナイ。
「で、私に何をさせたい?」
電算機ではなく人間に聴く辺りが、保守的な老人である。
「人類が支配されたことを、社会の上層部に納得させて頂きたい」
「上層部は核シェルタに篭もり、連絡が取れん」
「いや、そっちは面倒なのでそのままで」
櫻井、結構ヒドイ事を言う。
核シェルタ内は、あまり住み心地が良いとは言えないのだ。
「今、地上に居る上層部だけで結構」
但し――
「世界中の全社会上層部を納得させて頂きたい」
日本だけでなく、滅私でもなく、地上全ての社会を。
社会全てを降伏させろ。そう櫻井は言う。
「B・Bがお役に立つでしょう」
軽く言う櫻井だが、かなりの無理難題である。
社会が降伏する条件は、唯1つ。戦争に負けることだ。
銃も、爆薬もナシに、それを行えというのは無理というものだ。
但し、事実と現実は異なる。
事実としては、銃も弾薬も無い。
だが現実には無限に存在しうる。
全ての情報を管制できるB・Bならば、それは可能だ。
第三次世界大戦は、B・Bが創り出した現実の中でのみ起き、それを全ての社会が認めたのだから。
政友は溜息をつく。
「大仕事だ。何年掛かるか判らん」
「ですが、各国の上層部に食い込むチャンスでもあります」
今まで無言だった藤田が口を挟む。
「B・Bだけじゃなく、此奴も好きに使って構いません」
「おいっ!」
「そうだな――」
政友は苦笑いをし
「最近、気難しい政人の説得を任せるか」
と言った。
マサトって誰?
そういう目で藤田を見上げる櫻井。
「馬鹿、このクズ。何度も教えただろう」
藤田の声は、少しだけ湿っぽかった。
「俺の息子だ」
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-2046年7月5日 12:10(日本標準時)-
政友はSPに手を伸ばし、携帯電話を受け取る。
『何か御用でしょうか?』
通話スイッチを押すまでもなく、B・Bが応える。
「本来の連絡先に繋げてくれ」
『お待ちください』
「はい。その通りです。はい」
背筋を伸ばし、敬語を使い、電話なのに腰を折る政友を、藤田が驚きの目で見る。
「いや、電話なのにお辞儀をする人は結構いるだろ」
そんな櫻井の言葉にも上の空だ。
——相手は、一体誰だ?
この元舅が敬語を使う場面など、想像も出来なかった藤田である。
「はい、今から伺わせて頂きます」
丁寧な口調で電話を切り、SPに渡す。
「一緒に来て貰おう」
突然言われた櫻井は、目を白黒している。
そのままSPを引き連れ、部屋を出る政友。
慌てて櫻井は立ち上がる。
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「えーと、どこに行くんですか?」
「近くだ」
高級自動車の後部座席には、政友と櫻井のみ。
藤田は息子に会いに行った。逃げるように。
高級自動車は、高層ビルの駐車場を出て西へ向かう。
「歩いてだって行ける距離だ」
政友の言葉通り、高級自動車は数分で速度を落とし、目的地の門に着く。
都心のド真ン中でありながら、緑が多い。
「ちょ、ここ…ここは」
「君は私に、全世界への交渉を依頼した」
だが——と政友は首を横に振る。
「買いかぶりだ。私にそんな力は無い」
だから——
「その力を持つ御方に君を会わせる」
幾つもの門を、確認の目を過ぎ、高級自動車は進む。
「なに、月の女王に仕えている君にとっては、何程のことではあるまい」
櫻井の顔色は、既に血の気がナイ。
「我が国の王女が、君との面会をお望みだ」
「そ、その方は——」
御結婚されて民間人になったハズでは…と言おうとする櫻井を遮り、
「だから、核シェルターに御入りになっておらん」
高級自動車が停止すると、外からドアが開けられ、櫻井は車から降ろされる。
四方八方から、櫻井の一挙手一投足に視線が配られる。
変な動きをしようものなら、一瞬で首が胴と生き別れになりそうな視線である。
「1つ、助言をしておこう」
身動きも出来ぬ櫻井に、車から降り立った政友が言う。
「我が国の王女は、決して無慈悲では無い——が、極めて有能な御方だ」
ゆめ夢、月の女王の様に与し易いと思うなかれ。
その後の櫻井の面会については——その件はくれぐれもご内密に。




