表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第十章 ワシントン流星雨の日
76/81

現実、虚構となる

========

-2046年7月4日 21:05(日本標準時(JST))-


藤田は麗華の震える身体を抱きしめていた。

先程までTVは、レーダに映った輝線を――第三次世界大戦が開戦された以降、見慣れてしまった大陸間弾道弾(ICBM)の軌道を映していた。

そのTVは今、何も映していない。

輝線が東京に到達した直後、放送は止まった。


止まったのは放送だけでは無い。

あらゆる通信が、それを動かす電気が止まった。

信号が、交通管制が止まり、列車が自動車が止まる。

人の動きも、交通網も、全てが止まった。

全てが止まった中で、それでも確実に動いている物がある筈だった。


先程まで映っていた輝線の一部は、此処、横浜にも向かっていた。

その輝線が示していた弾道弾だけは、今も動いている筈だ。

速度から見て、弾着まで後5分もない。

藤田の脳裏に、走馬灯のように彼の人生が流れた。


数学と計算機に没頭した学生時代。

その反動で、MDBに就職後、ナンパや合コンに精を出し、キング・オブ・ゲスとまで呼ばれた会社員時代。

そんなことを噯気(おくび)にも出さず、手に入れた逆玉の輿。


息子が生まれ幸せな家庭を築く一方、会社受付の白鳥麗華(マドンナ)との一夜の恋(アバンチュール)

そんな幸福な生活は、会社(MDB)の倒産で変わった。

妻とその一族からは三行半を突きつけられ、哀れ高等遊民となった藤田(ゲス)


――だが、遠くアフリカへ置き去りにされた櫻井(クズ)よりマシだ

人類の敵、全ての不幸の根源。そのように連日のニュースで報道された奴は、俺の盟友は、最早生きてすらいないだろう。そう藤田は思う。


――何故

「こんなことに、なっちまったんだろうな」

麗華の肩を抱く腕に力を込め、弾着の時を待つ。


――嗚呼、それでか


不意に、先日かかってきた元妻と息子からの電話の意味が判った。

元妻は、泣き腫らした後の声をしていた。

用事は何も無く、唯声を聞きたかっただけだと言った。

そんな行動をとる女では無かった。

俺如きに、泣き腫らした声を、自分の弱みを見せる女ではなかった。


その後、まだ小さい息子から電話があった。

滅多に声さえ聞かせてくれない息子だが、彼なりに母親を心配していた。

いくつかの助言と励まし。

そして、元妻が好きな紅茶の銘柄を伝え――疑問が残った。

何故彼女が、俺に電話をして来たのか。


――多分、そうだ

元妻と息子は死ぬのだろう。俺と同じ時に。


元妻は、財閥の末娘。

藤田にとっては雲上人だが、それでも届かなかった。

希少な座席。日本には殆ど回って来ない予約席。

核シェルタに彼女の席は無かったのだろう。


同じ時に死ぬ。

その事実が、彼女に悟らせたのだろう。

俺と彼女の差は絶対的なものでは無かった、と。

生まれも身分も違うが、それは彼女が信じていた程の差では無かったのだ、と。


リリリリリ――


藤田の想いをスマホのベルが断ち切る。

こんな時に無粋な奴だ。

そう思った藤田は次の瞬間、凍った。


東京が壊滅し、全ての通信は止まった。

スマホの画面に映るアンテナも、1本も立っていない。

電話などかけて来られる筈が無い。

なのに、ベルは鳴り続ける。


スマホの画面には、かけてきた者の名前が”KoK”と表示されていた。

KoK――キング・オブ・クズ

櫻井だ。


========

-2046年7月5日 12:00(JST)-


人の気配が感じられぬフロアに、SPを従え1人の男が立つ。

名を政友と言う。

室町時代から続くと言われる財閥――日本の約5%程を所有している家の長だ。

歳は取ったが凛々しい顔に眼光が鋭い。その眼が、彼を老人と呼ぶ事を躊躇わせる。


廊下を歩みSPが扉を開く。と、壁一面がガラスになった部屋には日が差し、低い空に上弦の月が掛かっていた。

上座のソファに目をやると、そこには痩せた男が腰を下ろしていた。

政友を前にして、立つ素振りすら見せない。


「初めまして」

「君が、櫻井君か」


櫻井から少し離れた場所に立つ藤田が、声を発する。

「ご無沙汰しております」

藤田にとって、かつて政友は義理の父親だった。

彼が政友の秘書へ電話し、ここへ呼び出した。


藤田の言葉を、ごく自然に無視する政友。縁を切った元婿など、関心を持つに値しない。

筈だった――


政友は、今の自分の立場に気付き、藤田の言葉に頷きで返す。

目の前に座る櫻井、そして彼と繋がりを持つ元婿は、決して無視できる存在では無くなっていた。


此処は東京都千代田区、東京駅の東側、地上350m。超高層ビルの上層階だ。

そして政友はここに階段を登って来た訳では無い。

「エレベータを動かしてくれた事を、君に感謝すべきなのかな?」

政友は櫻井に向かって言う。


全ての電力が途絶え、何も動かない筈の都市が、政友の向かう先々だけ駆動した。自動車も、信号も、自動ドアも、エレベータも。

「私は単なる使い走り(メッセンジャ)です」

櫻井は応える。


「ここを選んだのは、誰にも邪魔をされないからです」

60階まで階段で登るのは、無理とは言わないが邪魔が入らぬくらいには苦痛だろう。


政友は、下座のソファに腰を下ろす。

「人類は、征服されました」

櫻井が告げた。


========

「誰にかね?そして」

政友の視線が櫻井を射る。

「君の立場は?」


櫻井は半ば背後を振り返り、ガラスの向こうの空に浮かぶ月を示す。

「月の無慈悲な夜の女王に」

政友に振り返り。

「先程も言った通り、私は使い走りに過ぎません」


「その言葉を信じることは出来んな」

政友の言葉に、櫻井の心臓がキョドる。

「ボノボが無慈悲になれるとは思えん」

一方――

「君が使い走りに過ぎないと云うことは、信用しよう」

そこは信用して欲しくない。ちょっとだけそう思う櫻井である。


政友は少し目を細め、櫻井に告げる。

「遺伝子操作で知能を高められたボノボ。その知能は人類を超えている」

サイム博士が――

「”スポンサーからの一言”を告げたのは、月に居る人類が彼1人だけだからだ」

そして――

「現在のボノボの長は女性で、彼女は出来るだけ人に危害を与えたくない、そう思っている」


「櫻井、この方は、お前の舌先三寸で何とかなる方では無い」

藤田が言う。

「一方、この男(クズ)が――」

と藤田は櫻井を指し

「虎の威を借る狐としても、虎の力は本物です」


政友は腹の前で指を組み、櫻井に問う。

「従わねば、どうする?」

「別に」

ただ、と櫻井は続ける。

「電気はこのまま。全ての機器は動かず、情報伝達は口伝えだけ。まぁ生きていくのは大変でしょうね」


「では従えば、どうする?」

「別に」

「君臨すれども統治せず、という訳か」

「そうではありません」


右に控えるSPから電子音が響き、政友の頬がピクリと動く。

専用回線(VPN)を使った電話の音だ。

「どうぞ、出てください」

SPから携帯電話を受け取り、受信スイッチを押す。

『初めまして。統治を担当するコンゴ政府AI(B・B)です』


「全ての情報はB・Bの管制下です。なぁに、慣れてしまえば便利ですよ」

軽く言う櫻井の言葉に、政友の心の一部は警報を発していた。

死人ですら飛び起きそうな大音量でだ。


この携帯電話は通常の品では無い。

機器自体はおろか、専用回線、通信プロトコル、暗号化手法、全てを財閥配下の企業に作らせた一品物だ。

その回線を侵入(クラッキング)されたなら、最早日本に安全な情報伝達手段は無い。


“全ての情報はB・Bの管制下”その言葉を証明するためだけに、侵入してみせた。

そして全ての情報を管制する、その意味が、政友に判った。


「第三次世界大戦は、何処までが実際に起きた事だ?」


櫻井は、再び肩を竦める。

「3つの複合社会が相互に宣戦布告する直前、コンゴ南キヴ州の自衛民兵組織(マイ・マイ)が宣戦布告しました」

その後の事は――


「全て、B・Bの創作(ウソッパチ)です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ