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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第十章 ワシントン流星雨の日
74/81

社会、第三次世界大戦を開始する


========

-2046年5月15日 6:30(UTC(協定世界時)0)-


「なんですって?」

櫻井が未だ眠い目を擦りながら言う。

コンゴ政府AI(B・B)にログインしてくれ』

サイムが繰り返す。


1度は死んだと思った(サイム)からの通話。

なのに”やぁ”も”久しぶり”もなく、いきなり要件。

ドライ、と云うのとはちょっと違う。

サイムは単に、そういう事に興味が無いのだ。


一方で画面の中、サイムの肩に乗ってるアルは陽気に手を振ってる。

ちょっと指を振って応える櫻井である。


文字入力モード(CUI)で、管理者として』

櫻井は有機EL眼鏡(グラス)のCUIを起動。目の前のテーブルにキーボードの映像が重ねられ、そこに指を走らせる。


[ksakurai@sakaniaLab] $ su


操作が異様に重い。

コンゴでは、国連軍がデータセンタを壊していると聞いた。

――B・Bが利用できる資源が少ないのかな?

そう想像する櫻井である。


『いや、そうじゃなく管理者(root)で入ってくれ』

サイムの声に、櫻井の右眉が上がる。

rootはシステムに対し全権限を持っている。

オペミス1回で重大インシデントが発生するのだ。


『rootのパスワードを言うぞ』

「ちょ、ちょっと待った」

あたふたとログインし直す。


[root@world] #


――世界(world)全権管理者(root)って何だよッ!

心の中でツッコむ櫻井であった。

『ではコマンドを叩いてくれ」

サイムはニヤリと笑うと9文字のコマンドを指示する。

「ファッ⁉︎」


[root@world] # rm -rf /*


「ちょ、サイム。これって…」

『早く叩きたまえ』

ンなこと言ったって…


コンピュータには、危険なコマンドもある。

だが、その中でもコレは特別だ。

何があっても叩いちゃイケナイやつだ。


叩いたら最後、全てが消える。

消す作業をしているOSごと消えるという、トンでもナイやつだ。

――これは、罠じゃなかろうか?

どんな罠かは想像もつかないが。


『pSion:大丈夫。単なる隠しコマンド(バックドア)だよ』

アルから補足があったが、物がモノだ。


――通話先は本当にサイムか?

――相手がサイム本人と知る術は無いか?

サイムと櫻井だけが知っている話は、色々有りそうでなかなかナイ。

『時間制限がある。早くしたまえ』

どうすれば良い。

どうすれば判る?


「サイム」

悩む櫻井に閃きが訪れた。

「俺の名前(ファーストネーム)を言ってくれ」

『知らん』

一瞬たりとも迷わず答えるサイム。


――あーこれは確かにサイムだ。

国際社会が櫻井を罠に掛けるなら、知らない筈が無い情報。

つか、普通知ってる情報。

だが、興味のない事はまるで知ろうとしないのがサイムだ。


「ミミズもカエルも御免っ!」

スターン

リターンキィを叩く櫻井。

「あれ?」


Password:


『パスワードを言うぞ。後30秒しか無い』

慌てて言われるままに打つ櫻井。

ko katna le jgena .gorudias.

『pSion:”ゴルディアスの結目を切れ”か。所長はロマンティストだね』

スターン


櫻井がリターンキィを叩いたすぐ後、月からの通信は切れた。


――俺は何をやらされたんだ?

全く説明して貰えなかった櫻井である。


========

-2046年5月28日 10:00(グリニッジ標準時(GST))-


英国――否、今ではイングソック不沈空母(エアストリップ1)豊富省(ミニプレンティ)は緊張に包まれていた。

遂に始まる。

最後の戦争が。

永遠の戦争が。

第三次世界大戦の幕開けだ。


3つの複合社会は互いに最後通牒を出し、後は宣戦布告を待つだけとなった。

本来なら1ヶ月前に始める筈だった戦争。

サイムの放送(スポンサーからの一言)で予定が遅れに遅れ、豊富省もデスマを続けていた。だが――


「これが終われば、やっと休暇が取れる」

オペレータのトム・パーソンズが呟く。

彼と妻の間には、幼い娘と息子がいる。彼女たちに会うのは何日振りになるだろう。


カツ――


背後で特徴的な靴音が響き、トムは震え上がった。

上司、チャリントンの靴音だ。

先程の呟きは聴かれていただろうか?

この重要局面で休暇の事を考えていた、などと知られれば叱責では済まない。

降格、クビ、下手をすると愛情省(ミニルヴ)送りだ。


カツ、カツ、カツ――


近づいてくる靴音が緊張を高め、心拍数は200まで跳ね上がる。

「未だか?」

「ま、未だですッ!」

裏返った声でトムが応えると、暫く沈黙が支配した。


カツ――


遠ざかって行く足音に、トムは漸く自分が呼吸を止めていた事に気づく。

だが、ドアが開く音が聞こえない。

――宣戦布告が出るまで、此処に居るつもりかよォ

と、その時


「来たッ!」

トムの端末に署名付きのメールが表示される。

通信元は――


「どちらからだ?」

チャリントンは尋ねる。

滅私かネオ=ボリシェヴィキズムの二択である。


「そ…の」

トムは、言わねばならぬ己の境遇を嘆く。

「コンゴ、南キヴ州の自衛民兵組織(マイ・マイ)。リーダのチェベアからで…」


ビキィッ!

そんな音をトムは聞いた気がした。

上司の眉間にシワが寄った音だ。

「そっ、即座に消去しますッ!」

首肯する上司に、正解を引き当てたことを知るトムであった。


コンゴ民主共和国などという国は無い。

そこにあるのは、労働力、及び資源の供給地だけだ。

そう社会が定めた。

その社会の真実に従わぬ者は、愛情省が対応する。


その後、つつがなく滅私とネオ=ボリシェヴィキズムから宣戦布告された。

トムは減俸にはなったが、クビにもならず蒸発もしなかった。

但し、家族と会うのは当分先のことになりそうだった。


大量のミサイルが英国へ飛んできたからだ。

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