はじめまして。ポセイドンの息子です
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-2046年4月27日 10:30(UTC0)-
ポルトガル領、デゼルタス諸島。
北緯32°西経16°、大西洋に浮かぶ島である。
“デゼルタ”はポルトガル語で無人島。
デゼルタスは複数系なので、言うなれば無人島ズ。
世界で最も由緒正しいこの無人諸島、現在はアルジャーノンEAの所有地になっている。
希少動物保護のため監視員が常駐しており、実際は無人島ではない。
「本日より新たに監視員に加わった櫻井君だ」
「やんややんや」
監視長の大岩岬氏は、50代と思われる白髪混じりの髭に覆われた元日本人である。
拍手で櫻井を迎えた副監視長の大岩梓さんは、かなり白くなった髪の、やはり50代と思われる女性。岬氏の妻である。
ちなみにこの島に居る人類は、櫻井を入れて3名。
櫻井、唯一のヒラ監視員である。
「仕事は厳しいわよ、櫻井君」
キラリと目を光らせる梓さん。
「まずメルがこのように寝転がったら――」
櫻井の目の前のテーブルには、白い猫が腹を見せている。
「撫でなさい。撫で続けなさい」
へ?
「そう。なかなか良い手つきよ」
重々しく頷く梓さん。
「メルはここの女王様だからね」
隣で頷く岬氏。
櫻井に撫でられてる猫は、周りをチョロチョロ動き回るSマウスを気にする風でもなく、大欠伸をした。
「そしてポチがオモチャをもってきたら――」
岬氏の隣に大型犬が、木で作られた骨状のオモチャを咥えて来る。
足下に落とされた木の骨を岬氏は拾うとドアの外に出て。
「ほうれ、取ってこーい!」
思いっきり投げられた骨を追って走る大型犬。
「とりあえず、その2つが最も大事な仕事よ」
宣言する梓さん。
『yLerun:暫くあっちこちで大騒ぎが起きるから、ここで隠れてなさい』
第13世代のSマウス、レルンが有機EL眼鏡を通じて話に加わる。
まだ1才だというのに、30才の櫻井に上から目線。
ちなみに彼女は梓さんにモフられ、ご満悦である。
「あのー、お二人はなぜこんな場所に?」
地球の裏側で、まさか日本語で話し合うと思ってなかった櫻井である。
「私がリストラされちゃってねー」
梓さん、櫻井も名前を知ってる貿易会社の社員だったらしい。
若い頃からアフリカや南米を中心に単身活躍し、役員にまで出世したが、社内政治の都合でリストラ。
ちなみに岬氏は元部下で、結婚後は専業主夫。
「暫くプータローしてたんだけどさ、4年くらい前にアルジャーノンEAからオファーが来て」
一本釣りである。
「ここは動物がいっぱいだしねー。アタシも子供の頃、動物王国とか憧れちゃったクチだから」
レルンのモフり具合にも年季が入ってる。
「こっから、”息子”用の資材やら重機やらを調整してたんよ」
「はぁ…お子さんは日本に?」
「へ?」
話が噛み合ってない。
『yLerun:サクライには”息子”の事は伝えてなかったのよ』
「え?ひょっとしてご内密だったん?」
『yLerun:今はもう大丈夫。でも、彼にも驚いて貰おうと思って』
「ああ、なーる」
“ほど”を省略した梓さんは、ちらと腕時計を見るとTVをつける。
「いッつぁ、しょーたいむ!」
大げさな身振りで、TVを観るよう櫻井を促した。
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-2046年4月27日 11:00(UTC0)-
『紳士淑女諸君』
TVが放送途中にいきなり切り替わり、サイムが画面に映る。
『番組の途中だったろうが、少々時間をいただきたい』
大学で講義でもするように堂々たる雰囲気だが、サイムは妙な服を着ていた。
『今地球は、3つの複合社会が互いに戦おうとしている』
イングソック、ネオ=ボルシェヴィキズム、滅私の3社会だ。
『3社会の軍事力はほぼ同じ。そして仮にその内の2つが手を組んでも残りの1つを滅ぼすのは難しい。絶妙なバランスだ』
TV画面に、それぞれの所有する兵器、兵士、工業力がグラフで表示される。
『望むなら、永遠に戦争を続けることができる。が、1つ問題がある』
ニヤリ。
腹に一物ある感じで嗤うサイム。
『4番目の社会がここにある』
サイムは透明なヘルメットを被り、金属製のドアを開ける。
否、ドアではない。
エアロックだ。
そしてサイムが着ているのは宇宙服だ。
『各国の諸君は、我々が何処に居るか探しているのだろう』
コンゴ中を掘り返す勢いで探しまくっている。
『我々が居るのは、ここだ』
TVが、荒涼とした風景を映した。
その風景に比べれば、砂漠の方が未だ生き生きした風景だろう。
その風景は、どんな場所にも似ていなかった。
だがその風景は、遠い昔にTVに映し出されたことがある。
サイムを映していたカメラが地面を離れ、高く、とても高く舞い上がる。
カメラの視点は豆粒のようになったサイムから離れ、荒涼とした地平線と星空、そして宇宙に浮かぶ地球を映し出す。
『我々はここだ』
月、専門家が見ればマリウス丘と判る場所からサイムが告げた。
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-2046年4月27日 11:10(UTC0)-
『君たちが放ったICBMなんだがね』
カメラが地球の映像を映し出したまま、サイムの声が響く。
『実は1発も到達しなかった』
画面が変わり、ブンバ空港――ICBMの落下地点の録画が映る。
高速で近づくICBMの位置が表示される。
その時、ブンバ空港の隅から砲身が持ち上がった。
『我々もレールガンを持ってる』
超音速で発射される弾頭の音が響く。
『この距離なら100発100中だ』
画面が遠景に切り替わる。
と、膨大な光が溢れ、巨大なキノコ雲が立ち上る。
映像は雲の上部をズームアップする、とそこに巨大な何かが上昇していた。
その下側から、再び膨大な光が溢れる。
『核爆発を推進力とする宇宙船だ。我々は”ポセイドンの息子”と呼んでいる』
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1950年代、米国で恒星間宇宙船の開発計画があった。
核パルス推進船――後方で核爆弾を起爆させ、その反動で飛ぶ宇宙船だ。
既存技術だけを使い、桁違いの質量比推力を持つこの方法ならば、1回のミッションで月に恒久基地を送ることができる。基地ごと打ち上げることが出来るのだ。
その計画はオライオン計画――海神ポセイドンの息子、狩人オリオンの名を冠した計画だった。
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『かくして我々は月に居る。月のマリウス丘の地下空洞、そこに住んでいる』
さて――
『我々は人類の敵、らしいな』
42発の核弾頭で絶滅した筈の敵。
『我々という脅威は無くなり、君たちは2度と恐れることは無かった筈だ』
だが――
『我々はここに居る。君たちの手の届く処に、少なくとも1度は手が届いた場所に居る』
ちなみに――
『君らが開発した対”D”ウイルスは、攻撃対象となる設計された人類のNo.5が創った、アンチ”対D”ウイルスで無害化した』
だが――
アンチ・ウイルスに頼る必要も無い、とサイムが言う。
そしてサイムは、世界各国の施政者にとって絶対の禁句を口にする。
『”D”の遺伝子を持つ者は、ここに居る』




