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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第十章 ワシントン流星雨の日
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スポンサーから一言、いや二言

========

-2046年4月24日 10:00(グリニッジ標準時(GST))-


「我々は今こそ、新たな――強固な社会の一員となる」

ロンドン、トラファルガー広場に現れた米国大統領、英国首相、豪州(オーストラリア)首相他は、万雷の拍手で迎えられた。


英国首相が一歩前へ出る。

「先週、忌まわしき生物兵器が我々を襲った」

原因は不明ながら急激にウイルスが無害化し、事態は収束に向かっているものの、英国だけでも死者は数千人に及ぶ。

親しい者を亡くした悲しみは、怒りの対象を求める。


「この生物兵器は、白人(コーカソイド)特有の遺伝子を攻撃するものだ」

EUやロシア等からなる複合社会――ネオ=ボリシェヴィキズムにも被害が出た。

「敵は中国を中心とした東アジア諸国。彼らは我々とは全く異なる相手だ」


「これまでの戦争、大戦は、白人同士の戦いだった」

広場に集まった英国系白人新教徒(WASP)を前に、首相は言い放つ。

「今、我々は真の意味で敵と相対する。彼らの思想(イデオロギィ)は我々と全く異なるものだ」


「彼らの思想は”滅私”と呼ばれる。自分の意志を捨てる、という意味だ」

首相はゆっくり首を横に振る。

「人間の意志は神から与えられた贈り物だ。意志こそが人間と獣を分ける一線だ。それを捨て、最も卑劣な方法で我々を虐殺しようとした!」

首相の、広場に居る全員の顔が嫌悪に歪む。


「彼らは国際法を翻した。神の神聖さを嘲り、神の子たる義務を放棄した!」

多くの者が隣人を、家族を、友人を、ウイルスにより失った。

彼らはすすり泣きを止め――

「奴らは神を持たない。奴らは人間では無い。獣ですら無い」

奴らを――

「滅せねばならない。神の御名の下に絶滅させねばならない!」

広場に集まった数万人の人々が、TVで観ていた数百万の人々が、拳を天に突き上げる。


「それは古い英国には出来なかったことだ。古い米国には、豪州、南部アフリカには出来なかったことだ」

だが――

「新しい社会、我々の新しい複合社会(イングソック)には出来る!」


ここに、南北アメリカ大陸、英国、南部アフリカ、オーストラリア諸国からなる複合社会――イングソックが成立した。


「君たちには偉大な仕事が待っている。我々アングロサクソン人の能力を、新教徒(プロテスタント)としての苦難に対する持久力を、奴らに見せてやれ!」

首相は殺気立った聴衆者を見渡す。

「君たちは奴らと――狂った、獰猛な、武装した、残酷な敵と戦わねばならない。だがもし奴らが君たちの前に来たなら―」

拳が握りしめられる。

「躊躇ってはならない」


「奴らに恩赦は無い。囚人など存在しない」

奴らには――

「唯、死あるのみ」


========

-2046年4月24日 12:00(GST)-


その日、モスクワで、北京で、ロンドンと同じスピーチが行われ、同様の複合社会が産まれた。


――1つはイングソック。南北アメリカ大陸、英国、南アフリカ、オーストラリア諸国

――1つはネオ=ボリシェヴィキズム。ロシア、EUを初めとするユーラシア大陸北西部

――1つは滅私。中国を中心としたユーラシア大陸南東部


3つの複合社会は、西洋諸国を襲ったウイルス禍を火種に、相互に最後通牒を交付するために準備する。


そして始める。

――制御された戦争

――管理された憎悪

――統制された団結

3つの複合国家が、互いに戦うことで支え合う永劫の社会を。


========

-2046年4月25日 20:30(協定世界時(UTC)+14)-


キリバス共和国、ライン諸島。

そこは、地球上で最も早く新たな日を迎える場所であり、最も早くその時を迎えた場所だった。


それは2046年4月25日水曜日の午後8時30分。

TVで、ラジオで、ネットで、イングソックからの最後通牒が流れていた。

通牒先は滅私--中国を中心としたユーラシア大陸南東部。

内容は、英国で発生した致死性病原体流行(パンデミック)が、滅私の生物兵器による攻撃とし、これを非難するものだった。


これに対し、滅私は反発。当該病原体はイングソックの生物兵器であると主張し、ネオ=ボリシェヴィキズムと連盟を組み、最後通牒を出す構えだった。

イングソックは英国を不沈空母(エアストリップ・ワン)化し、徹底抗戦を宣言。

第三次世界大戦が始まろうとしていた。


それは2046年4月25日水曜日の午後8時30分。

キリバス共和国、ライン諸島のTVが、ラジオが、ネットが、突如沈黙した。

その後、落ち着いた平凡な--だが魅力的な声が響いた。


『スポンサーから一言』


ライン諸島中の人々が凍りついた。

次の瞬間、別の声が響く。


(Figh..)あいたッ…平和を(Peaceful)

次の瞬間、TVに、モニタに、2人の顔が映った。

バツの悪そうな顔をしたサイムと、彼の頭を引っ叩いてるマセンコの顔が。


========

-2046年4月25日 20:30(協定世界時(UTC)+13)-


キリバス共和国、フェニックス諸島。サモア独立国。トンガ王国。ニュージーランド、トケラウ諸島。

そこは、地球上で2番めに新たな日を迎える場所であり、2番めにその時を迎えた場所だった。

それは2046年4月25日水曜日の午後8時30分。

TVで、ラジオで、ネットで、声が響いた。


『スポンサーから一言』


次に画面に映ったのはサイム1人であり、今度は言い間違いもしなかった。

15分後、ニュージーランドのチャタム諸島で同様のことが起きた。

その45分後にはUTC+12の地域で、更に1時間後にはUTC+11の地域で


全世界の2046年4月25日水曜日、午後8時30分。

世界中全ての2046年4月25日水曜日、午後8時30分。

その地域の標準時で8:30になった瞬間、全ての機器が同じ声を発し、同じ顔を映した。


全ての放送機器、全ての情報処理機器が侵入(クラック)された。

そんな事実を、社会が認めるわけにはいかなかった。


だが、全世界の真理省(ミニトゥルゥ)がデスマを繰りひろげようと、世界中の愛情省(ミニルブ)が刑務所を政治犯で満たそうと、全人類に二重思考(ダブルシンク)を身につけさせることはできなかった。


先程の放送の件は、くれぐれもご内密に――

そんな話は、いかな複合社会でもムリというものだった。

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