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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第十章 ワシントン流星雨の日
68/81

悪魔、社会に必要とされる

========

-2046年4月21日 16:30(UTC(協定世界時)-1)-


愛情省(ミニルブ)から櫻井を脱出させたNo.5が用意していたのは、富裕層向け外洋巡航船(クルーザ)

緊張から解かれた櫻井は船室(キャビン)のベッドに倒れ込み、起き上がればクルーザは既にイギリス海峡を通りケルト海へ、そして外洋——北大西洋の只中で停止していた。


「で、何故ジュリアを助けた?」

櫻井がNo.5――以前デジレだった男に問う。

“どうやって”では無い。”何故”だ。


櫻井はNo.5の――設計された人類(デザイナ・チャイルド)の身体能力を見た。ヒトの動きでは無かった。No.5とジュリアの戦いは、目で追える速さを超えていた。

あの身体能力なら、第442連隊戦闘団の約2,000名からジュリアを助け出すことも出来るだろう。


『彼女の遺伝情報を隠すためだ』

「?」

櫻井はNo.5に、右の眉だけを上げてみせる。

「頭の悪い俺が理解できるように説明しろ」

操縦室の床に横たわるNo.5は、落ち窪んだ目で櫻井を見上げる。


ついてきたSマウスによれば、櫻井を救出後、No.5は急激に衰弱していった。

対"D"ウィルスが彼の細胞を蝕んでいる。Sマウスが開発した抗ウィルス製剤を拒み、彼の生命は尽きようとしている。


お前たち(米軍)の目的は、彼女の遺伝情報だった筈だ。なのに何故、それを隠そうとする?」

『彼女の――私たちの遺伝情報を、クリンが上書きした』


デザイナ・チャイルドであることを示す非転写領域(イントロン)のコード。“D”の製造番号と言われるそこは、別のコードに――青い眼のヒトが持つコードに書き換えられていた。


「そんな事ができるのか?」

『できたのだろうな。覚えているだろう、年末にジュリアが風邪をひいたことを』

戦争初期、まだどの国が一番槍となるかトトカルチョをやっていた頃のことだ。


『ジュリアが風邪をひいた。ジュリアだけが風邪をひいた』

歌うようにNo.5が言う。

『そんなことはあり得ない』

デザイナ・チャイルドは免疫系も調整されている。

他のヒトに比べ、極めて病気にかかり難い。


『“D”の製造番号のみを書き換える人工ウイルス。クリンはそれを創り、ジュリアに感染させた』

ジュリアがデザイナ・チャイルドだと知られぬように。

自分たちが居なくなった後、ジュリアの安全を守るために。


ん?

櫻井は首をひねる。

「それってお前も感染しないか?」

『ああ、高熱が出た。隠すのは大変だった』


そのウイルスはデザイナ・チャイルドのみに影響を与える。

もし”デジレ”が倒れれば、彼もまたデザイナ・チャイルドだと判ってしまう。

当時のNo.5がそこまで理解していたわけではない。だがジュリアだけが風邪をひいた事態から、症状を隠すことを選んだ。


『だが、クリンは知ってしまったようだ』

“デジレ”がデザイナ・チャイルドだということを。

おそらく、敵であることを。


(クリン)が最後に私に渡した装置、覚えているか?』

「ああ」

ジュリアが銃殺されかけた時、No.5が見ていた装置だ。

『あれはDNAシーケンサ、私の全細胞に刻まれた製造番号の部分を表示する装置だった』


――君に贈る祝福だ。決して…絶対に呪いじゃない。信じてくれ


別れ際にクリンが言った言葉、それを櫻井は思い出す。

彼らのゲノムに記載された製造番号は、それまで存在したことが無い配列。

地球生命には存在しなかった配列。


――私にとって"D"という呼び名は"(disconti)(nuation)"のDよ


ジュリアとの初めての夜、彼女が言った言葉を思い出す。

その製造番号を上書きした。

地に満ちた存在(ヒト)が持つ配列で。


「良かったじゃないか。これで誰にもデザイナ・チャイルドだという事がバレない」

『君は何も理解していない』

「あん?」

クリンも理解していなかった。そうNo.5は言う。


『あのコードは必要だった。この先、人類が存続するには、どうしても製造番号を持つ存在が必要だった』

否——

『製造番号を持つ存在が必要だ。ならば改変されるべきは遺伝情報では無い』

No.5は櫻井を見上げる。


『この”現実”は、改変されなくてはならない』


========

-2046年4月21日 19:40(UTC(協定世界時)-1)-


『宗教は必ず、悪魔を内包している』

鬼、怨霊、羅刹、堕天使。

呼び名は異なるが、神に相対する存在。恐怖の対象が在る。

『必要なのだ。人間には具体的な恐怖の対象が』

そのような存在を持たぬ宗教は、全て滅びる。


No.5は、彼をキャビンに運ぼうとする櫻井を留め、逆に寒風が吹き付ける甲板(デッキ)に運ばせた。


『不幸の殆どは偶然だ。だが人類(ヒト)は偶然の不幸に耐えられない』

明日、我が身に降りかかるかもしれない不幸。

対抗する手立ても、防ぐ方法も無い。

そんな状況に、人間は耐えられない。

『そのために、偶然に起きる不幸の責任を取るために、悪魔は在る』


『悪魔を含まぬ宗教は――社会システムは不安定だ』

そのような社会は、他の社会に滅ぼされる。

『だが現代社会は、悪魔を滅ぼしてしまった』


悪魔を失った現代社会に於いて、不幸が訪れた者は、遡って原因を持たされる。

例えば、女性が強姦されたとする。

あの娘が暴漢に襲われたのは、彼女が淫らだったからだ。彼女に非があるからだ。だから自分の娘は大丈夫だ。

そう皆が安心するために、被害者は皆が納得する原因を持たなくてはならない――否、遡って持たされる。

偶然の不幸の責任を取るために。

古の社会では、悪魔がその任に就いていた。


『滅ぼされた悪魔の代わりを担う者が必要だ』

眉を(ひそ)める櫻井に、No.5は続ける。

『丁度、都合の良い存在があった』


設計された人類(”D”)だ』

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