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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第八章 毒をもって毒を制す
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国際社会、全ての勝利を手にする

『素晴らしい』

ウィリアム中将が言う。

B-52が着陸した空港。そこには米陸軍、第442連隊戦闘団の約2,000名が待ち構えていた。


医学技官が拘束されたジュリアに駆け寄り、毛髪や血液などのサンプルを得ていく。

遺伝情報解析器(DNAシーケンサ)がサンプルから、A,C,G,Tの4文字からなるコードを吐き出す。

複数ヶ所から抽出したコードが一致し、ジュリアを構成する遺伝情報が特定された。


『おお…』

ウィリアムの頬を涙が伝う。

『これで、世界は救われる』

あまりにも純粋な、その喜びの表情に、櫻井は誤解しそうになる。

ひょっとして、ジュリアの遺伝情報を何かに役立てるために使うのではないか、と。


その遺伝情報を元に、難病の治療を行う。

大流行の兆しがある伝染病を防ぐ。

病気や害虫に強い作物を創り、飢饉を避ける。

そんな櫻井の誤解は、ウィリアムの次の言葉で解かれた。


『これで、”D”を根絶することが出来る』


"設計された人類(デザイナ・チャイルド)"の根絶。

世界の現実に残された、42人の瑕疵の修正。

そんな瑕疵を修正しようが、世界は救われたりしない。42人の”D”は、世界に何の影響も与えない。


“D”は社会の敵。

滅ぼすべき相手。

そして、“仲間”を纏めるために創られた”奴等”だ。

“D”を滅ぼした翌朝には、再び新たな”奴等”が求められる。


何処からか始まった拍手が、万雷の轟音に変わっていく。

『ウィリアム!』『ウィリアム!』

中将の名を連呼する者もいる。

喜びを爆発させている2,000名の中心にいる中将は、晴々とした顔で指示を下す。


『では、検体の処分を!』

歓声が静まり、数十挺のアサルトライフル(FN SCAR)が一斉にジュリアへ向けられる。


「ちょっと待ったーッ!」

櫻井が絶叫した。

ウィリアム中将は、栄光への道に水を差す櫻井(クズ)に、眉をひそめる。

『No.5、彼は何だ?』


No.5と呼ばれた男。以前デジレと名乗っていた男は、口を開く。

『彼は異端者――欠陥品であり、拭い去るべき汚点です』

「何だと!」


「お前ッ、それで良いのかよッ!」

叫ぶ櫻井を傍の兵が銃床で殴り、彼は泥の中に倒れこんだ。

だが、意識を失うことは無く、彼は叫び続ける。


「俺は、お前がどれほどクリンと親しかったか知っている!」

あれは嘘――全てが嘘だったとしても

「クリンを殺した奴等に従って、ジュリアまで殺させるつもりか!」

男の視線が下に——なぜか上着のポケットに落ちた。


彼女(ジュリア)は、人間では無い。”殺す”などという言葉は使うべきではないな』

ウィリアム中将の隣に立つ従軍牧師が、氷のような視線と声を櫻井に向ける。

『人に似せて作られた偽物、神の御業を真似た者が作り出した罪深き獣――否』

牧師のアイス・ブルーの瞳が、ジュリアに向けられる。

『”あれ”は生物ですら無い。神の祝福を与えられておらぬ穢れた異物だ』


“あれ”を破壊することは、神の御心に叶う行為です。

牧師はそう宣言する。

ジュリアの顔に血の気は無く、轡で封じられた口からは声は漏れず、ただその目は、何かを櫻井に伝えていた。


「おいッ!」

櫻井はデジレに、かつてデジレだった男に叫ぶ。

「お前はそんなに、社会が大切なのかよ!」


その男は、先程からポケットから出した小さな装置に気を取られている。

「”社会”ってのは、お前の全てを貢ぐほど大事なのか!」

装置に光が瞬く。

「その”社会”は遅かれ早かれ、お前を喰らうはずだ。それでも——

ガッ…


兵士の銃床が再度振るわれ、櫻井は崩れ落ちる。

『連れて行け。愛情省(ミニルブ)へ渡すのは、其奴(そいつ)だけで良い』

脳が揺らされ、身体に意志が伝わらない。

櫻井はそのまま兵士に引きずられ、装甲車の荷台に詰め込まれた。


閉まる扉の向こうで声が挙がる。

『構え筒!』

安全装置が外される音、そして槓桿(コッキングレバ)が引かれる音。

『撃ェッ!』


豪雨のような銃声。

それが人間としての櫻井の、最後の記憶だった。

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