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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第八章 毒をもって毒を制す
58/81

国連軍、詰めの一手を指す

========

-2046年3月30日 11:30(CAT(コンゴ標準時))-


サカニア研究所から南南東へ30km。ザンビア共和国、ンドラ空港。

そこに、巨大な機体が近づく。

「CHMP42、滑走路28R、最終進入(ファイナルアプローチ)

航空管制官の指示に従い、滑走路28Rに正対する機。

だが、機からの返信は無い。


規則違反であることは間違いない。

だが、管制官が苦情を申し立てて良い相手でないことも、間違いない。

コールサインCHMP42は、無言のままその巨体を滑走路へ降ろした。


駐機すると、直ぐに給油が開始される。

そして、特別口から機に乗り込む何人もの姿。

フードを被ったその姿は妙に小さく、無言だ。

飛行計画によれば彼らは米軍。部隊名は伝えられず、ただC中隊とのみ書かれていた。


――薄っ気味悪い

管制官の心に、そんな言葉が過ぎる。

「CHMP42、プッシュバック承認。滑走路10L」

――さっさと行っちまえ


「CHMP42、風向120、風力3。離陸を許可、滑走路10L」

プラット・アンド・ホイットニ社製ターボファンエンジンが唸りを挙げ、”成層圏の要塞ストラト・フォートレス”はその巨体を空へ浮かべた。


========

-2046年3月30日 12:00(CAT)-


コミック・ヒーローズ(DC)から入電。”D”の毛髪を確保との事」


第442連隊戦闘団幹部に笑みが広がる。

このために、何十万人の血が流れたか。

何百万発の弾丸が撃たれ、何千万ガロンの燃料が費やされたか。

だが今、その全てが報われた。


“現実”の瑕疵を修正する銀の弾丸。

それが今、米陸軍に――米陸軍だけの手に渡ったのだ。


「サカニア総合研究所へ部隊を送れ。何者も進入させるな」

その弾丸は――手段は、米陸軍だけのものだ。


「C中隊は?」

ウィリアム中将の声に、大佐が応える。

「ンドラ空港を離陸。パトリック空軍基地に向け飛行中です」

中将がふと目を天井に向け、呟く。


「航空事故は無くならんものだ」

「は?」

「乱気流、翼面の凍結による失速、ピトー管に虫が詰まったり、パイロットがレバノン料理を食べたり――原因は様々だが、この時代であっても飛行機は墜ちる」

大佐は中将の意を汲み、無言で頷いた。


元少将(ナタリー)には、哀悼の意を表しよう」

それから、と中将は付け加える。

「夫は返してやれ、傷もつけるな」

再度、切り札を切る時の為に。


========

-2046年3月30日 14:00(CAT)-


「人工衛星経由デ、爆薬点火信号ガ放送(ブロードバンド)

と、シルヴィ。

「これで、君たちは自由だ。探そうとする者も居ない」

四輪駆動車に(もた)れながら、所長が言う。


きっと何処かで、C中隊を乗せた軍用機が墜落しているのだろう。

そのような情報が、全世界の航空管制システムに伝達されている筈だ。

それが世界にとっての”真実”。


だが、それは実は嘘だ。


此処は森林の中。C中隊の面々は、思いのままに過ごしていた。

木に登る者、小動物を捕まえBBQの準備をする者、毛繕いをする者たち、こっそり森の奥へ行く2人連れ。


彼女ら(Sボノボ)も、移動手段(成層圏の要塞)を手に入れた」

Sボノボが移動しようとすれば、目立ってしょうがない。明らかに人類とは手脚のバランスが違うのだ。

だが、Sチンプと見分けがつく者は、そうそう居ない。


彼女らがC中隊だと名乗れば、国連軍では誰も遮ることはできない。

詮索することもできない。

なにせ米軍の最高機密である。詮索する者が居れば、米軍がその口を塞ぐ。


彼女ら(Sボノボ)は今頃、次の目的地へ向かっているところだろう」

そう、所長は笑みを浮かべる。


「じゃぁこれで作戦終了ね。お疲れ様」

明るくジェニファが言う。

「次の使令があるまで、各員自由行動よ」

そして、死亡した兵士に使令を下す者など居ない。


晴れて自由の身である。

解き放たれたSチンプたちは、コンゴの密林でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし——


とは、ならない。


========

-2046年3月30日 14:25(CAT)-


Sチンプは、兵士として創られた。

人間によって創られた生物に、神の下の平等など無い。

人類を超える知能も、人類と9割以上同一の遺伝情報も、言語遺伝子(FOXP2)改変による会話能力も、彼らに人権を与えることは無い。


彼らは兵器であり、資産であり、減価償却の対象だ。

これまで創られた数百個体の内、使えなくなった——費用対効果が認められなくなった者は廃棄された。

それが可能な資源だ。


一方で、彼らは脅威(リスク)だ。

人類を超える知能、腕力。

鍛え抜かれた戦闘技術、各種兵器への習熟、戦略・戦術知識。

そして、人類と同等の凶暴性。

もし彼らが反乱を起こせば、勝てる部隊は殆ど無いだろう。


だから米国の害にならぬよう、爆薬付きの首輪を嵌められていた。

管理されてきた。

その首輪は無く、残る127名全員が此処に居る。


========

ファイベンがジェニファの前に立つ。完全武装で。

彼の後ろには、何十名ものSチンプが同様の装備を着けて並んでいる。


「俺タチガ復讐スルトハ、考エナカッタノカ?」

()に?」

ジェニファの言葉にファイベンは唖然とした表情を浮かべ、数瞬固まった。

そして、首を振り苦笑する。


「人類…ト言ウ心算(ツモリ)ダッタガ――」

人類全体は、()と言うには多すぎる。

「ソウダナ」

武装したSチンプたちに、次第に理解が広がっていく。


Sチンプを不遇な目に合わせた者、彼らは人類の部分集合であり、人類全体ではない。だが時に人間は――社会は、自分に都合の良い線引きをして、憎しみの対象を部分集合から全体集合にすり替えてしまう。


「人類全体を憎しみの対象にするなら、類人猿全体まで広げない理由が必要だな」

所長が横から茶々を入れる。

「理由ナラ簡単」

C中隊の参謀――ゲィレットが言う。

「人類全体ガ、彼ラ(・・)ヲ含ミ私タチを含マナイ、最大ノ集合ダカラヨ」


「復讐心ハ常ニ対象ヲ、可能ナ限リ大キナ集合ニシタガル」

ゲイレットはクルリと目を回すと――

「ソノ様ナ文化的遺伝子(ミーム)ヲ持ッタ社会ガ、戦争ニ勝チヤスカッタ」

復讐心の対象を適切に選ぶ社会は、全て滅ぼされたからだ。


「デモ戦争ニ勝利スルニハ、私タチノ数ハ――

ゲイレットの唇を、ファイベンは人差し指で塞ぐ。

「判ッタ」


親兄弟を”廃棄”した米陸軍隊員への復讐心はある。それはファイベンの心が生んだ復讐心だ。

だが、対象を人類全体に広げようとするのは、人類社会が創ってきた文化的遺伝子だ。

そんな文化的遺伝子に、心を支配されてはならない。

ファイベンが手話(ハンドサイン)を送ると、全員が武装を下ろし樹々の中に消えた。


「判ってないわね」

ジェニファがダメ出しをした。


判ってないって、復讐心の適切な対象が?

人類が創った文化的遺伝子に振り回されてはならん、という判断が?

そんな疑問を顔に表すファイベンに、ジェニファはビシッと指を突きつける。

「女の子の唇を塞ぐのは、人差し指じゃないわよ」

突きつけた指を自分の唇に向け、意味ありげに微笑む。


――するの?

――ちゅー、するの?


興味津々という感じで、ファイベンとゲイレットを見つめるジェニファ。

そこら辺は、まだ子供である。


――一応、恩もあるし

――期待に応えるべきかしらん?

多少悩む、ファイベンとゲイレット。実は2人、夫婦である。


「デモ、米国マデ行ッテ、彼ラヲ脅カシテヤルノモ楽シソウダケドネ」

木からぶら下がって見ていたシルヴィが、ファイベンの首を後ろから抱きしめる。

「ア…」

そのまま自分の方に向かせ、唇を奪う。

呆然とするゲイレット。


ここで、彼ら(Sチンプ)米国社会(プロテスタント福音派)で育てられた、という事実がある。この社会、禁欲を善としている。

神に立てた誓いにより、死が2人を分かつまで、千代に八千代に苔のむすまで、浮気はご法度である。そして、仮に夫婦の間でも、子作り以外の目的で性行為など、イタしてはならぬ。


一方、多くのチンパンジの群れは乱行である、と云う科学的事実がある。このためチンパンジの睾丸/体重比は、人類に比べ大きい。

つまりチンパンジの男は皆、絶r…いや何でもない。


勿論チンパンジだからといって、ファイベンが浮気や乱行などをして良いわけではない。

“〜である”から〜べき”を導いてはならない。

“ヒュームのギロチン”と呼ばれるこの原理によれば、ファイベンはシルヴィの誘惑に負けてはならぬ。


一方、”スタージョンの第2法則と”呼ばれる以下の経験則がある。

“全てのものの90%はクズである”

つまり、男の90%はクズである。

実は、ファイベンもクズである。

そして、シルヴィは女性的魅力に溢れたSチンプである。


その後ファイベン(クズ)を始めとした男どもが7つの大罪の1つ(色欲)を犯し、人類への戦争どころじゃない事態に陥った。

言い訳しようが無い状況でゲイレット(奥様)に見つかったファイベンの運命は、くれぐれもご内密に。

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