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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第八章 毒をもって毒を制す
57/81

国連軍、心に棚を作る

========

-2046年3月25日 14:05-


「君は誰だ」

と中将は言った。

「私の事ならジェニファと呼んで」

と女性が言った。


米陸軍、第442連隊戦闘団幹部が揃った前で。

動揺もせず。

招かれざる客にも関わらず。


「私はナタリー元少将を--

黙りなさい(シャラップ)

中将の発言を止める。

「ママをそう呼んで良いのはパパだけ」


君は――

と中将は眼を見張る。

彼女(ナタリー)の娘か」


円卓に座る大佐が、指でサインを送る。

2名の伍長がジェニファの背後から腕を掴もうとする。

1人は投げられ、もう1人は関節を極められた。

その場の誰も、何が起きたか分からぬ内に。


「そして”彼”の娘よ」


========

数十年前、世界に幾度かの危機が訪れた。

人類絶滅級の危機だ。

米陸軍と日本の陸自から十数名の者が選出され、それに対処した。

その内2組、4名が結婚し、幾人かの子供が生まれた。


“現実”には、そんな危機は起きなかった。

“真実”は改変済みだ。

だが米陸軍には――幹部にさえ、その時の記憶を残す者が居た。

中将の様に。


「パパは無事かしら?」

ジェニファは、その子供の1人だと言っている。

それも、米陸軍最強の女性と、陸自最強の男性の間に生まれた子供だ、と。

そして、目の前でその実力を――実力の片鱗を見せた。

否、誰にも見えなかった。


中将は数十年前、南アフリカ共和国の作戦(ミッション)で、彼女の両親に会っている。

母親(ナタリー)には、目の前に立たれただけで鳥肌が立つほど、圧倒的な戦闘力を感じた。

父親には何も感じず、片手でも(あし)らう事が出来そうだった。

だが戦闘になると彼は、姿が見えぬほど速く、正確無比に動き、素手の一撃で化物を屠った。

その状況を、中将は恐怖と共に記憶している。


もし目の前の女性が、その2人の能力を受け継いでいるなら――否。

中将の肌が、目が、知っていた。

ジェニファは、2人の能力を受け継いでいる。

鳥肌が立つほど圧倒的な戦闘力と、姿が見えぬほど速い動きを受け継いでいる。

勝ち目は無い。


中将は目の前の端末を操作し、ジェニファに向けた。

「ハイ、パパ。元気そうね」

女性の顔がほころんだ。

『あ、ああ、いや。ちょっと元気とは言えないなぁ』

端末から控えめな声が響いた。


「ママが怒ってたわよ」

カチカチカチカチ…

端末から、妙な音が聞こえ出した。

「勝手に出て行って、まんまと捕まるなんて」

端末の中の男が震え、歯が鳴ってる音だ。


『い、いやだって、お前が攫われたとウィリアムから…』

「嘘に決まってるじゃない」

ジェニファはウィリアム中将を見据えた。

「お陰でアタシが余計な仕事を引き受ける羽目になっちゃったわ」

「!?」


扉が開き、黒い姿が5つ現れた。

度肝を抜かれた第442連隊戦闘団幹部の前で、ジェニファは言う。

「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている――その精神を貴方たちは一体何処に捨て去ったの⁉︎」


彼らは――と中将は口を開くが声にはならなかった。


ジェニファが口にしたのは米国独立宣言の前文。米国社会の背骨だ。

否――だった(・・・)


ジェニファは宣言した。

「第100歩兵大隊C中隊、指揮を執るわ」

C中隊の戦闘員5名が、ジェニファの背後を守る様に立つ。

但し――とジェニファは母親を思わせる笑みを浮かべる。

「C中隊全員への全権委任。必要な物資、輸送機関の提供。そして”被害”は無制限まで許容よ」


“No”と言った瞬間、その者の命は無いだろう。

米軍内でも扱えぬC中隊。

その枷が外れている。

そして、中将がナタリー元少将に依頼しようとした条件は、正にその通りだった。


C中隊戦闘員を率い、速やかにサカニア総合研究所を制圧。

“D”の遺伝情報を入手し米陸軍に、米陸軍のみに届けること。

そのために、C中隊への全権委任。必要な物資、輸送機関の提供。そして被害は無制限まで許容。


「あと、パパはちゃんと南アフリカまで届けてね。ケープタウン空港でママが待ってるわ」

いやちょっと待ってくれ、と端末から悲壮な声が響くが聞く者は居ない。


「行くわよ」

ジェニファの声にC中隊の5名が頷く。

「イエス、マム」

掠れた声で、そう聞こえた。


========

-2046年3月29日 18:25-


コンゴの密林を黒い影が走る。

枝から枝へ飛び移り、罠は次々に無害化されていく。

その進軍速度は、先日の第1特殊部隊(デルタ)デルタ作戦分遣隊(フォース)を超える。

C中隊だ。


装備を着けず服すら纏わず、殆ど生まれたままの姿の彼らは、此処が生まれ故郷のように迷わず進んで行く。

サカニア総合研究所からの迎撃部隊の姿は無い。

違和感を覚えながら、ジェニファは前進を止めない。


数時間後、目的地が――サカニア総合研究所が見えた。

「C中隊総員127名、全員到着」

中隊長のファイベンが、掠れた声でジェニファに伝える。

当然の様に頷くジェニファ。


「突入部隊ヲ編成、指示ヲ待ツ」

横に現れたシルヴィが囁く。

彼女の後ろには3つの影が居る。


「では指示よ。たとえ撃たれても、相手を殺さないように」

ジェニファの指示にファイベン、シルヴィを含めた5つの影が立ち竦む。

「貴方たちの未来には、多分それが必要」

そう言うとジェニファは自ら拳銃(レボルバ)を落とす。

数瞬、5つの影は動きを止めたが、ファイベンが銃を落とすと他の4名もそれに倣った。


「最初に私、次にアイアン、その時点で銃撃が無ければ他の4名も来て良いわ」

ジェニファは5名の中で、最も頑健な者を選ぶ。

「有レバ?」

「敵を陽動して。その間に私とアイアンで目標を無害化する」

もし出来なければ――


「その時はファイベン、貴方が指揮者。C中隊への全権委任も引き継ぐわ」

つまり――

「以後、C中隊は誰の命令も聞く必要は無い」

思わず自分の首に手を伸ばすファイベン。

そこに、以前嵌められていた爆薬付きの首輪は無い。


「行くわ」

5名が何も言えぬ内にジェニファは走り出す。

銃撃は、無い。


一瞬の迷いを見せたアイアンに、ファイベンが指でサインを送る

――行け

アイアンが疾走し、研究所の外壁に辿り着く。


銃撃は、最後まで無かった。


========

-2046年3月29日 23:05-


研究所は、静まり返っていた。

多くの部屋には、生きている者の気配が無かった。

ただ一室、所長室と書かれた部屋から寝息が聞こえていた。


他の皆に下がるよう指示を出すと、ジェニファは扉をノックする。

寝息が止み、灯りが点きゴソゴソ動く音がする。

扉が開くと、大柄な黒人男性が現れた。


「サカニア研究所、所長のルムンバだ」

握手を求める右手を、ジェニファは無視する。

少し肩を竦め、所長は言う。

「入りたまえ。そちらの5人も」


「私タチハ()デハ無イ」

人類(ホモ・サピエンス)じゃないだけだ」

所長はそう言うと、扉を開けたまま部屋に戻る。

「サカニア総研では君たちは人間だよ。Sチンプの諸君」


========

Sボノボの第1世代は、イスラエルで生まれた。

彼女たちを創った技術は米国にも伝えられ、陸軍主導で同様な生物が創られた。


ただし、基となった生物はボノボでは無い。

チンパンジだ。

同じパン族のボノボとは異なり、彼らの凶暴性は非常に高い。


人類(ヒト)と同じくらい高い。


========

-2046年3月29日 23:10-


室内で、所長はコーヒ・メーカのスィッチを入れると、ソファに座った。

「最初に幾つかの情報を教えよう。時間の節約になる筈だ」

脚を組むと、快活な調子で続ける。


「この研究所に居るのは私だけだ。おおっと、閉じ込めている特殊部隊員を除いてね」

Sチンプの顔色を読み、所長は続ける。

「彼らは生きている。一時的に錐体路--随意運動信号を伝達する神経を麻痺させているから、鼻の頭も搔けんがね」

そして、とにんまり笑う。


「他の者が何処に行ったのか、私は知らない」

敢えて聞かないようにして来た。尤も--

想像はつくがね、と肩を竦める。

「何処に行ったの?」

余り気乗りのしない声でジェニファが聞く。


「君たちには手の届かない世界さ」

所長はそう応えた。



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