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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第七章 おばあちゃんはパルチザン
55/81

クリーチャが暗躍する

========

-2046年3月20日 11:30-


ターゲットγ――コードネーム”ブルース”は、遅れを取り戻そうと走っていた。


彼が密林地帯に侵入した直後から、何かが後を付けて来る気配を察した。

木々の影に閃く黄に黒の斑点。

豹だ。


流石のブルースも、豹の様な大型肉食獣は手こずる。

己の位置を特定されぬ為、銃器ではなくナイフを使おうとすれば尚更だ。

しかも豹は、ブルースのナイフの届く内には入って来ない。

――もしや、知性化された豹か?


軍上部、及びオブライエン少将からは、知性化された獣はチンパンジ又はボノボだけと言われている。

だが前線では、社会が決めた真実など殆ど意味を持たない。

意味を持つのは事実だけだ。


大型肉食獣は、脅威だ。

ヒト並みの知能を持つ大型肉食獣は、脅威では済まない。

野生動物はヒトとは違い、多少の傷で戦闘を止めたりしない。刀で斬られようが、銃で撃たれようが、そのまま攻撃して来る。

化物だ。


吸血鬼ドラキュラ、フランケンシュタインの怪物、人狼、死霊(ゾンビ)それらと同等の存在。それが彼らの敵となる。

ホルスタから拳銃(P320)を抜きざまに3点射。だが豹は躱す。

ブルースの左手がホルスタに伸びた瞬間、回避行動を取った。

拳銃の危険性を承知しているように。


拳銃の轟音に静まり返った密林の中、ブルースは走り出した。


このまま時を過ごすわけにはいかない。

既に作戦予定は大幅な遅れを見せている。

時間までにブルースが到着しなければ、ブルースが背負う無反動砲が無ければ、研究所の壁を壊せない。


研究所の正体は、その設計図を見た瞬間に判った。

それは、要塞として設計されたものだ。

森林の中に開けた草地。

中庭へ面した部分を除き狭い窓、分厚い外壁、多層構造の塀。

だから、それらの塀を、壁を破壊する火力が必要だ。


ブルースの最も大切な役目は、大火力による敵防御陣地への突破口形成だ。

他メンバの迅速な前方への進出を可能とする、それに必要な間隙を作る事が彼の任務だ。

彼が居なければ、チームの動きは敵の直前で止まる。


敵は待ち構えている。地の利は敵の側に有る。

だが、何時戦闘を始めるか、その決定権は我の側に有る。

そして火力だ。ブルースが持つ兵器は旧式だが純粋な攻撃力としては、最新兵器に勝る。

その2つで、戦闘の主導権を得、拡大し、持続する。


“我は()くする、よって敵を()くせしむる”

プロイセン王国将軍の言葉だ。

主導権を得なければ、勝利は無い。


彼が遅れれば、チームは最後の進軍――研究所への数100mを詰めることが出来ない。

そして、静止すれば戦闘力は弱くなる。

敵の想定外の速度で進行し、対応の余裕を与えるな。

それが重要だ。


だから、ブルースは走る。

豹も、罠も、恐らく存在する監視の目も受け入れ、前へ進む。


========

-2046年3月20日 11:45-


「ポチッとな」

呟きと共に櫻井がボタンを押す。

信号を受け、密林内の幅2m、奥行き5mの地面が陥没した。

ターゲットγは空中を4m進み、落ちた。


「凄いな、あの中を進めるのか」

ターゲットγが落ちた穴には、非常に粘性の高いゲル状物質が満たされていた。

膝まである接着剤に埋もれた感じである。

そこを50cmも進むのは、人間業では無い。


だがターゲットγ――ブルースの努力もそこまで。

第1世代に麻酔ガスを放り込まれ、意識こそ失わなかったものの、一歩も動けなくなった。


麻酔ガスを放り込んだムベトの側に、豹が擦り寄る。

今その豹は、頭蓋骨内に仕込まれた装置で、喜びの感情を与えられている。

脳神経を直接刺激する事で、感情を、行動を操る。

肩に埋め込まれたカメラ、マイクで状況を把握し、適切な行動を取らせる。

この密林には、そうした獣が数十頭、放されている。


『できれば、この手は使いたく無かったのですが』

未だ動くのを止めないターゲットγの方を向きながら、ムベトは呟く。

『もしこの世が喜びばかりなら、人は決して勇気と忍耐を学ばないだろう』

ムベトはスイッチを押し、暫くするとターゲットの抵抗は止んだ。

ムベトが豹の肩を叩くと、彼女は身を翻し森の中へ消えた。


========

-2046年3月20日 11:55-


ターゲットβ――コードネーム”ダイアナ”は、遅れを取り戻そうと走っていた。


超人的な勘で罠を避け、矢を払い、落とし穴を飛び越える。

豹はナイフを投げたところ、追うのを諦めたようだ。

だが、どうしても速度は落ちていた。

彼女に渡された地図が誤っており、沼地や崖に突き当たってしまったのだ。その迂回に時間がかかった。


彼女の動きが鈍る。

目の前には舗装された幅5m程の通路が延々と続く。

そして高さ2m程の壁が、数十mに渡って続いている。しかも、その壁は彼女を追って動く。

明らかに罠だ。


壁の高さは2m。

彼女の身体能力なら、簡単に超えられる高さ。

だが超える一瞬、彼女の身体は止まり、動きが限定的になる。

ふと、木を見上げた彼女の目が光る。


========

-2046年3月20日 12:05-


南に向かって走っていたターゲットβが、急に北へ戻る。

壁も停止しようとするが、慣性が大きく止まりきれない。

その一瞬、ターゲットβが枝に飛びつく。

大きくしなう枝が力を溜める。

その反力を利用し、ターゲットβの身体は宙を舞った。


ポン


何かが打ち上がった。

ポンポン

もう2つ。


========

-2046年3月20日 12:06-


宙を舞うダイアナは、自分に向け広がる網を――罠に愕然としていた。

いかなダイアナでも、宙で方向は変えられない。

持っている刃物を投げても、質量比が違いすぎて、方向は変わらない。

それでも懐の刃に手を伸ばす。


だがそこまで。


上、左、右。空中で3方向から網を被せられたダイアナは、簀巻きになって落ちた。

黒い影が素早く近づき、その手に鋭い光が見えた。


========

-2046年3月20日 12:10-


ふう…

第1世代、ドゥンドゥンは止めていた息をつく。

流石に緊張した。

ターゲットβにはイナンガが筋弛緩剤を注射し、抵抗出来なくした。

別部隊から、ターゲットには麻酔薬が効きにくいと連絡が入ったからだ


「あの枝は子供たち(第2世代)がよく遊んでた枝よね」

イナンガが言う。

「ああ、大ジャンプするのに丁度いい枝ぶりだからな」

実は何回かドゥンドゥンも遊んだ事がある。

心の中に少年を持つ男なのだ。


「このターゲットの飛び方も、中々のものだった」

「あら、私は一昨日の貴方の飛び方の方が凄いと思ったわ」

ドゥンドゥンが凍った。

「この歳であんなにはしゃげるのは、凄いわ。一種、勇者ね」

誰も見てないと思って、ちょっと童心に帰ったのだ。


「あ、あのっ…イナンガさん」

この件は、くれぐれもご内密に。

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