クリーチャが暗躍する
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-2046年3月20日 11:30-
ターゲットγ――コードネーム”ブルース”は、遅れを取り戻そうと走っていた。
彼が密林地帯に侵入した直後から、何かが後を付けて来る気配を察した。
木々の影に閃く黄に黒の斑点。
豹だ。
流石のブルースも、豹の様な大型肉食獣は手こずる。
己の位置を特定されぬ為、銃器ではなくナイフを使おうとすれば尚更だ。
しかも豹は、ブルースのナイフの届く内には入って来ない。
――もしや、知性化された豹か?
軍上部、及びオブライエン少将からは、知性化された獣はチンパンジ又はボノボだけと言われている。
だが前線では、社会が決めた真実など殆ど意味を持たない。
意味を持つのは事実だけだ。
大型肉食獣は、脅威だ。
ヒト並みの知能を持つ大型肉食獣は、脅威では済まない。
野生動物はヒトとは違い、多少の傷で戦闘を止めたりしない。刀で斬られようが、銃で撃たれようが、そのまま攻撃して来る。
化物だ。
吸血鬼ドラキュラ、フランケンシュタインの怪物、人狼、死霊それらと同等の存在。それが彼らの敵となる。
ホルスタから拳銃を抜きざまに3点射。だが豹は躱す。
ブルースの左手がホルスタに伸びた瞬間、回避行動を取った。
拳銃の危険性を承知しているように。
拳銃の轟音に静まり返った密林の中、ブルースは走り出した。
このまま時を過ごすわけにはいかない。
既に作戦予定は大幅な遅れを見せている。
時間までにブルースが到着しなければ、ブルースが背負う無反動砲が無ければ、研究所の壁を壊せない。
研究所の正体は、その設計図を見た瞬間に判った。
それは、要塞として設計されたものだ。
森林の中に開けた草地。
中庭へ面した部分を除き狭い窓、分厚い外壁、多層構造の塀。
だから、それらの塀を、壁を破壊する火力が必要だ。
ブルースの最も大切な役目は、大火力による敵防御陣地への突破口形成だ。
他メンバの迅速な前方への進出を可能とする、それに必要な間隙を作る事が彼の任務だ。
彼が居なければ、チームの動きは敵の直前で止まる。
敵は待ち構えている。地の利は敵の側に有る。
だが、何時戦闘を始めるか、その決定権は我の側に有る。
そして火力だ。ブルースが持つ兵器は旧式だが純粋な攻撃力としては、最新兵器に勝る。
その2つで、戦闘の主導権を得、拡大し、持続する。
“我は斯くする、よって敵を斯くせしむる”
プロイセン王国将軍の言葉だ。
主導権を得なければ、勝利は無い。
彼が遅れれば、チームは最後の進軍――研究所への数100mを詰めることが出来ない。
そして、静止すれば戦闘力は弱くなる。
敵の想定外の速度で進行し、対応の余裕を与えるな。
それが重要だ。
だから、ブルースは走る。
豹も、罠も、恐らく存在する監視の目も受け入れ、前へ進む。
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-2046年3月20日 11:45-
「ポチッとな」
呟きと共に櫻井がボタンを押す。
信号を受け、密林内の幅2m、奥行き5mの地面が陥没した。
ターゲットγは空中を4m進み、落ちた。
「凄いな、あの中を進めるのか」
ターゲットγが落ちた穴には、非常に粘性の高いゲル状物質が満たされていた。
膝まである接着剤に埋もれた感じである。
そこを50cmも進むのは、人間業では無い。
だがターゲットγ――ブルースの努力もそこまで。
第1世代に麻酔ガスを放り込まれ、意識こそ失わなかったものの、一歩も動けなくなった。
麻酔ガスを放り込んだムベトの側に、豹が擦り寄る。
今その豹は、頭蓋骨内に仕込まれた装置で、喜びの感情を与えられている。
脳神経を直接刺激する事で、感情を、行動を操る。
肩に埋め込まれたカメラ、マイクで状況を把握し、適切な行動を取らせる。
この密林には、そうした獣が数十頭、放されている。
『できれば、この手は使いたく無かったのですが』
未だ動くのを止めないターゲットγの方を向きながら、ムベトは呟く。
『もしこの世が喜びばかりなら、人は決して勇気と忍耐を学ばないだろう』
ムベトはスイッチを押し、暫くするとターゲットの抵抗は止んだ。
ムベトが豹の肩を叩くと、彼女は身を翻し森の中へ消えた。
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-2046年3月20日 11:55-
ターゲットβ――コードネーム”ダイアナ”は、遅れを取り戻そうと走っていた。
超人的な勘で罠を避け、矢を払い、落とし穴を飛び越える。
豹はナイフを投げたところ、追うのを諦めたようだ。
だが、どうしても速度は落ちていた。
彼女に渡された地図が誤っており、沼地や崖に突き当たってしまったのだ。その迂回に時間がかかった。
彼女の動きが鈍る。
目の前には舗装された幅5m程の通路が延々と続く。
そして高さ2m程の壁が、数十mに渡って続いている。しかも、その壁は彼女を追って動く。
明らかに罠だ。
壁の高さは2m。
彼女の身体能力なら、簡単に超えられる高さ。
だが超える一瞬、彼女の身体は止まり、動きが限定的になる。
ふと、木を見上げた彼女の目が光る。
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-2046年3月20日 12:05-
南に向かって走っていたターゲットβが、急に北へ戻る。
壁も停止しようとするが、慣性が大きく止まりきれない。
その一瞬、ターゲットβが枝に飛びつく。
大きくしなう枝が力を溜める。
その反力を利用し、ターゲットβの身体は宙を舞った。
ポン
何かが打ち上がった。
ポンポン
もう2つ。
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-2046年3月20日 12:06-
宙を舞うダイアナは、自分に向け広がる網を――罠に愕然としていた。
いかなダイアナでも、宙で方向は変えられない。
持っている刃物を投げても、質量比が違いすぎて、方向は変わらない。
それでも懐の刃に手を伸ばす。
だがそこまで。
上、左、右。空中で3方向から網を被せられたダイアナは、簀巻きになって落ちた。
黒い影が素早く近づき、その手に鋭い光が見えた。
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-2046年3月20日 12:10-
ふう…
第1世代、ドゥンドゥンは止めていた息をつく。
流石に緊張した。
ターゲットβにはイナンガが筋弛緩剤を注射し、抵抗出来なくした。
別部隊から、ターゲットには麻酔薬が効きにくいと連絡が入ったからだ
「あの枝は子供たちがよく遊んでた枝よね」
イナンガが言う。
「ああ、大ジャンプするのに丁度いい枝ぶりだからな」
実は何回かドゥンドゥンも遊んだ事がある。
心の中に少年を持つ男なのだ。
「このターゲットの飛び方も、中々のものだった」
「あら、私は一昨日の貴方の飛び方の方が凄いと思ったわ」
ドゥンドゥンが凍った。
「この歳であんなにはしゃげるのは、凄いわ。一種、勇者ね」
誰も見てないと思って、ちょっと童心に帰ったのだ。
「あ、あのっ…イナンガさん」
この件は、くれぐれもご内密に。




