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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第七章 おばあちゃんはパルチザン
52/81

狙われた研究所

========

-2046年3月1日 8:30-


朝食後、アサラトが主要メンバを所長室に呼び出した。

『良くない話と、もっと悪い話があるわ。どちらを先に聞きたい?』

どっちもヤダ!

とは櫻井の心の声であるが、そーゆーワケにはいかない。


アサラトの顔色は、アトケもサイムの顔色も、酷く悪い。

その顔色を見て、所長の顔も青ざめている。


『分かりやすい順番でお願い』

ジャンベが言う。

『国連軍が、この研究所に攻めて来る』

アサラトが良くない話を告げる。


「なんでじゃ!」

思わず櫻井が叫ぶ。

『理由はともかく』

とアサラトは、もっと悪い話を続ける。

『コンゴ国軍は、それを止めない』


櫻井はムンクの叫び状態である。

隣で所長が同じポーズを取っている。

『なんでよッ!』

ジュリアが叫ぶ。


『ブラザヴィル壊滅が契機とは思うけれど、詳細は不明ね』

『数日前から、国連軍とコンゴ国軍の通信が行われ出して、戦争終結に向けた調整が始まったわ』

アサラトとアトケが持ってる情報を告げるが、状況は更に判らなくなった。


「戦争集結に向かってるのに、なぜここ(サカニア総研)を攻撃するんだよ?」

『通信内容は全て押さえているが、理由は全く判らん』

櫻井の質問にサイムが応える。

ただし、答えにはなっていない。


『通信内容を端末に送ってくれ。私が見てみよう』

研究所内で唯一、政治に詳しい所長が言う。


『作戦開始は3/7の予定。1週間後ね』

『ザンビアから陸戦部隊による攻撃。第188歩兵旅団(バトルレディ)の約2,000人が攻めてくる』

「こっちには70人も居ないのに?」

しかも、1/3は子供だ。

どう転んでも勝ち目は…


それでも、勝ち目はある。

ヒトを超えた知能を持つSボノボ、そしてSマウス。

彼女らなら、2,000人が20,000人でも撃破できる方法を持っているかも知れない。

だが、それを使うには彼女らは優しすぎる。


『国連軍の作戦は、ザンビア国境から森林を越えて研究所を占拠する予定ね』

おそらく占拠では済むまい。

『できるだけの足止めを試みる』

そうアサラトは言い、会議を終えた。


========

-2046年3月1日 10:05-


午前中の草刈りをスッぽかし、櫻井は所長室に出向いた。

所長から、こっそりと来るようにメールが来たのだ。

所長室には、サイムの姿もあった。


『国連軍の目的が判った』

なぜ、軍事的には何の力も持たぬサカニア総合研究所に攻め込むのか。その理由だ。

『ジュリアだ』

「は?」


確かに魅力的な女性ではある。

だが、国連軍が2,000人もの兵士を投じて奪取するには、胸のボリュームがちと足りない。

そんな不埒なことを考えた櫻井である。


『正確に言えば、ジュリアの遺伝情報だ』

所長が、櫻井の考え違いを正す。

設計された人類(デザイナ・チャイルド)特有の塩基配列(コード)を採取し、そこに感染するウイルスを創る』


つまり、と所長は悲しげな目を櫻井に向ける。

『この戦争の真の目的は、コンゴに逃げ込んだ42人の"設計された人類"を根絶やしにすることだ』


2029年に起きたアラビア半島戦争。

その起因となった生物災害(バイオハザード)

全てのアラビア人の命を贄として、書き換えた歴史。そして現実。


社会が認める"現実"に残された僅かな瑕疵。それが42人の設計された人類だ。

その瑕疵を削除する。そのために、この戦争は起こされた。


『つまり、彼女(ジュリア)と他の41人を差し出せば、我々は助かるという話だな』

サイムの言葉に、所長と櫻井が目を剥く。

『そんな真似をするくらいなら、人類を滅ぼした方がマシだがね』

所長と櫻井が更に目を剥く。もう目玉が落ちんばかりである。


やりかねない。サイムならやりかねない。

幸いにして、サイムの専門は理論物理学。人類を滅亡させるほどの技術は無い。

だが、アトケやアサラトを騙し、彼女らの技術を使えば可能なのが怖いところである。


「でも」

と気を取り直して櫻井は尋ねる。

「ジュリアの遺伝子なら、彼女の髪の毛1本からでも取れるでしょう」

ルブンバシの彼女の行きつけの美容院に行けば、いくらでも採取できる。


『そこが、政治のややこしいところだ』

と、やはり気を取り直した所長。

『真の目的は設計された人類の殲滅だが、それを目的に活動はできない』

設計された人類など、"現実"には存在しないからだ。


『このため今回の戦争の契機は、"Sボノボを不正に輸出したこと"であり、戦うべきはコンゴ政府だ』

それが、国連側の"現実"だ。

『一方現地の司令官は、その"現実"に従わずに最短経路を進もうとしている』

そこが弱点だ、と言う所長。

サイムと櫻井はポカン状態である。


『ま、要するにだ』

ポカン2人を置いてけぼりにして、所長は話を進める。

『サクライ、君のメール・アカウントを借りたい』


========

-2046年3月7日 23:05-


輸送機が米軍滑走路に着陸する。

タラップが付けられ、ドアが開けられる。


数日ぶりにアフリカに帰ってきたオブライエン少将は、足元をふらつかせた。

本土(ステーツ)で、こってりと絞られて来たのだ。

なぜか?

サカニア総合研究所への攻撃が、米軍幹部にバレたからだ。


米軍幹部へは米国政府から、米国政府へは日本政府から、日本政府へは某マスコミから情報が伝達された。

情報の発信源は、カズユキ・サクライと特定された。

"現実"には発信源は秘密であり、某マスコミから漏れることは無い。

一方オブライエン少将には、櫻井の顔写真までバッチリ伝わっている。


--ルブンバシで彼女(ジュリア)に紹介された男だ。


写真を見た瞬間に気づき、後悔したが、時既に遅し。

アフリカ及び米国内の電子情報は監視していたが、日本経由でしかもFAXで情報が回るとは想像もしていなかった。

--なぜあの国は、未だFAXを使っているのか?

そう憤るが、それは東洋の神秘である。


「第188歩兵旅団は、既に進軍準備を完了しております。将軍(サー)

司令部付きの大尉が駆け寄り言う。

「作戦は中止だ。旅団は本部へ戻せ」

「了解しました。作戦は中止し、旅団を本部に戻します」

何故の問いも無く、大尉は走り去る。


第188歩兵旅団で戦争と無関係の研究所を襲撃するなど、もってのほかである。

一方、設計された人類の遺伝情報は、是が非でも入手せよ。

後は分かっておろうな、良きに計らえ。


これが、ここ1週間で下達された命令の全て。

3行で済むことに1週間費やす。

その間、オブライエン少将配下部隊は活動停止。

効率は悪いが、社会を成立させるためには必要な手続きである。


結局、サカニア総合研究所を攻めることに変わりは無い。

ただし、大部隊ではなく少人数で。

手駒の中から候補者を選出し、ザンビア国境から森林を越えて研究所を占拠させる。


おそらく、1回の作戦では成功すまい。

あの森林は湿地帯が多く、研究所も指を咥えて見守るだけではないはずだ。

もし、手駒で失敗したその時は--


滑走路上で、少将は呟いた。

コミック・ヒーローズ(DC)に再戦させるか」


依頼・指示は口頭で。記録は残さず。

全ては、くれぐれもご内密の内に。

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