国連軍、コンゴへ侵攻す
-2046年2月6日 18:10-
コンゴ共和国首都ブラザヴィル。そのコンゴ川に面した港プルトーに、1隻の軍艦が到着した。
ズムウォルト級駆逐艦2番艦。
主砲は有効射程距離200km超を誇り、仰角71°まで展開が可能。
フェィズドアレイレーダ及びレーザ測量機と連動したその砲は、百発百中の高射砲となる。
ブラザヴィル到着後、艦長であるスフィーラ大佐名で暗号電信が打たれた。
「意見具申。本艦の主砲により、直接首都キンシャサを砲撃可能と思量します」
数分後、オブライエン少将名で、返信があった。
「具申は却下。貴艦の主機制御システムはコンゴ民主共和国製であり、当該国砲撃を検知し停止する可能性が高い」
納得行かない艦長は演習と称し、主砲の照準をキンシャサに合わせた。
直後に主機が、原因不明の出力低下を起こした。
照準を外すと出力は通常に戻る。
「すると」
と、スフィーラ艦長は憮然とした表情で言う。
「私はここで、張子の虎を演ずるだけか」
スフィーラ艦長が対岸に目を向けると、そこにはコンゴ国軍の機甲部隊がズラリと並び、砲口を向けていた。
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-2046年2月8日 04:20-
何もできず歯噛みしているスフィーラ艦長から、250kmほど西南西にある港湾都市、マタディ。
アンゴラ共和国との国境を接するその都市に、国連軍の揚陸艦が接近する。
背後には、護衛艦が多数。
中でも、ひときわ異彩を放っているのが、ズムウォルト級駆逐艦1番艦。
直接攻撃こそできないが、ズムウォルトとマイケル・モンスーア2艦の射程範囲、首都キンシャサを含む制空権は国連軍が確保した。
国連軍の航空機を飛ばすことはできないが、コンゴ軍の航空機も飛ばせない。
そこで、陸戦部隊の出番となる。
マタディの沿岸部に乗り上げた揚陸艦が、旧式の武装に身を固めた歩兵旅団を吐き出す。
夜明け前ということもあり静まり返った街を、兵士が走る。
開戦後も友好関係を続けたコンゴ共和国と異なり、即座に国連に同調したアンゴラ共和国。
その国境付近に位置するこの都市には、避難勧告が出されており、住民はほとんど居ない。
散発的な抵抗はあったものの、国連軍はほぼ無血のままマタディを占領した。
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-2046年2月15日 20:00-
マタディを拠点化した国連軍は、コンゴ国軍の準備が整う前に電撃的な作戦を実行。キンシャサとの間にある都市--キィ、ソンゴロロ、カンブス--を占領した。
コンゴ国軍は、機甲部隊の主力をキンシャサの北部国境線上に集中させていたため有効な抵抗ができず、民兵による抵抗はあったものの、死傷者は数えるほどだった。
キィ、ソンゴロロ、カンブスには、国連軍の兵士と物資が集積され、キンシャサが攻め落とされるのは時間の問題--と思われた。
"翌朝05:00より、キンシャサへ大攻勢をかける"
その夜、そのような指令が尉官級--小隊指揮官に、密かに伝達された。
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-2046年2月16日 05:15-
マタディに設置された作戦本部は、喧騒の真っ只中にあった。
「連絡はまだ来ないのか!」
「0400の定時連絡はどうした!!」
大騒ぎである。
本日5:00よりキンシャサに向けて進軍する、第157、174、及び189歩兵旅団からの連絡が無いのだ。
進軍開始の暗号電信は元より、4:00の定時連絡も来てない。
だが、無線で連絡を取ろうとすれば、すぐさまコンゴ側にバレる。
「斥候!戻りましたッ!!」
4:00の定時連絡が無い原因調査のため、3都市に出した斥候の内、1小隊が戻ってきた。
斥候が提出した写真は、作戦本部に更なる喧騒を巻き起こした。
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-2046年2月16日 06:10-
「彼らは一体、どんな手品を使ったのかね?」
「不明です!サー!!」
写真を手にするオブライエン少将の前には、直立不動で立つ3人の大佐。
3つの歩兵旅団の指揮官である。
写真、更に旧式のビデオで撮られた映像には、その旅団--第157歩兵旅団の兵士が、路上でぐっすり眠ってる姿が写っていた。
1人ではない。
写真の中で、目覚めている国連軍兵士はゼロだ。
彼らはコンゴ国軍兵士の手で、トラックに積み込まれている。
「しッ…失礼しますッ、サー」
第189歩兵旅団所属の大尉が司令室に入り、上官に耳打ちする。
みるみる青くなっていく大佐の顔。
「マタディに駐留中の兵士が…ね、眠りだしたと」
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-2046年2月16日 09:20-
ハイホーハイホー
片端から、トラックに仕舞われていく国連軍兵士たち。
護衛艦は、遠巻きにそれを見守ることしかできない。
兵士が突然昏睡した原因が、今もって不明だからだ。
「生物、または化学兵器と考えられます」
作戦参謀は役に立たない想像しか述べることはできず、いつその兵器が自分たちを襲うのかも判らない。
全く--とオブライエン少将はため息をつく。
「ずるってやつだな、この国は」
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-2046年2月16日 21:20-
暗い通路を歩きながら、チュベア将軍が言う。
「"蚊"は全滅したのか?」
キンシャサの南、100km弱の山岳地帯。
その地下にある古い軍事基地は、結構涼しい。
壁のあちこちから水が染み出しているが、少し濾過すれば飲めるほど清らかな水だ。
「そのはずです」
とコンゴ政府AIが応える。
「作戦後、コンゴ国民で昏睡状態に陥った者は居ません」
遺伝子操作で創り出した特殊な蚊。
体内で合成する化学物質により、刺した相手を昏睡状態に陥らせる生物兵器。
特定の周波数の超音波で誘導でき、成虫になってからの寿命は半日。
創り出したのは、アルジャーノンEAである。
「ずるってやつだな、この兵器は」
扉を開ける。と、眼の前に巨大なフロアが広がる。
中央のテーブルには、様々な料理が湯気を立てて山積みになっている。
「おはよう!諸君!!」
チュベアは用意された食料から、手羽先を取り一口かじる。
軍曹がコップに注いだ珈琲を渡す。
「チキンに珈琲は合わねぇんじゃねーか?」
そんなことはない。
「まぁここでビールってワケにもいかねぇやな」
それはそのとおり。
「さて」
とチュベアは、両側の檻の向こうから見つめる男たち--運ばれてきた数千人の国連軍兵士たちを見渡す。
「君たちは我々の捕虜となった」
「君たちは、ハーグ陸戦条約に基づき扱われる」
両側の国連軍兵士は無言だが、盛大に腹の虫が鳴る音がする。
むしゃり、と手羽先をもうひと口かじり
「だが、君たちには他の道も用意してある」
ニヤリ、とチュベアは嗤った。




